今週、長谷川哲也氏の漫画「ナポレオン 覇道進撃」の最新刊が発売され、陰鬱なロシア遠征がこの巻で終わりました。このあとはライプツィヒの戦いに続くわけですが、今回この漫画を見てナポレオンのロシア遠征で今まで知らなかったことが多かったとひどく痛感しました。
具体的には、ロシア軍はずっと焦土戦術を取っていたと思っていましたが、実際にはモスクワ入場直前にボロジノの戦いが発生しており、ここで両軍ともに惨憺たる損害が発生しており、一次大戦以前で最も人が死んだ会戦などと呼ばれていることも初めて知りました。
ただそれ以上に興味深かったのは、ロシア側の目線もしっかり描かれていたことです。ロシア遠征と言うと基本ナポレオンの視点でしかこれまで語られることがなく、退却時にフランス軍がどれだけ死んだかとか、そういったところしか私も今まで見てきませんでした。
ではロシア側からの目線で見るとどうなのかですが、感想としては日本の元寇のような感じだったのかなと思いました。ロシア側としては大陸封鎖令を破ったことで圧倒的大群のフランス軍に攻められ、国土が荒らされる中、焦土戦術という首都モスクワすら焼く非常な作戦をとりつつも見事に撃退したこの戦争は実際に、ロシアでは大祖国戦争と呼ばれてナショナリズム高揚の際にはよく引用されるそうです。
同時代であっても、レフ・トルストイの「戦争と平和」はこのロシア遠征をテーマに描いており、女帝エカチェリーナを除き貴族勢力が強かったロシアで皇帝権力が増して絶対君主制が確立した景気にもなっているだけに、国家形成という意味では非常に重要な戦争だったと言えるでしょう。
話は漫画に戻りますが、個人的に興味を持ったのはロシア軍総司令官のミハイル・クトゥーゾフのキャラクターです。このロシア遠征時は既に高齢だったものの、若い頃はロシアとの戦争で軍功を上げていたことから国民の人気は絶大で、当初総司令官だったバルクライが不人気ゆえ引きずり降ろされたあともバルクライの焦土戦術を踏襲し、モスクワにフランス軍を閉じ込めて見事ロシアを逆転へと導いています。
なおロシア遠征時のロシア軍にはほかにバグラチオンという有名な将軍もいますが、中にはこの名前を来てピンとくる人もいるのではないかと思います。というのも、二次大戦における独ソ戦でそれまで守勢だったソ連軍が反転攻勢をかけてドイツ軍を分断させた作戦名が「バグラチオン作戦」で、この作戦名は実際にボロジノの戦いで戦死したバグラチオン将軍から取られています。
話はクトゥーゾフに戻りますが、ロシア領内からフランス軍を撃退したあと、意気高くそのままプロイセンと組んでフランスを完全に叩こうとロシア軍が遠征を準備する中で寿命死しています。漫画内でもその場面が書かれてあり、実力を認めるものの折り合いの悪かったロシア皇帝アレクサンドル一世が申し訳なさげに、「今まで、自分は悪い上司だったと思う。君の人気と功績にずっと嫉妬してきた」と病床のクトゥーゾフに語りかける場面はさすがは長谷川哲也と思わせられる演出でした。
ただ、このロシア遠征で最高の場面はどこかというのなら、和睦を諦めモスクワからフランスへの帰国をナポレオンが決断した際、「やがて誰もが地獄を見る」というナレーションを振った次のページにて、
「そしてミシェル・ネイは伝説となる」
と書かれたページが一番胸に来ました。具体的にどういう意味か知りたい方はぜひWikipediaのページをご覧ください。
2 件のコメント:
ミシェル・ネイは最後までカッコいいですね。処刑される際に、「私はこの不当な裁判に抗議する。私はフランスのために100度戦ったが一度も祖国を裏切ることはなかった。兵士諸君、最後の命令だ。号令とともに私の心臓を狙って引き金を引け。」最後まで名将ですね。
ネイもかっこいいですが、この漫画に限れば私を含め一番人気なのは恐らくランヌでしょう。あれほど狂犬のように描かれた士官はいまだかつて見たことがありません。
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