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2009年10月28日水曜日

宮中ダムの生態系について

取水中止の影響?サケ・アユ遡上が3倍に(読売新聞)

 このところニュースからの引用記事が増えており本音ではそろそろ控えたいと思っていましたが、この前八ツ場ダムのことも取り上げており、関連するニュースなので今日も同じく紹介記事になりました。

 上記にリンクを貼ったニュースの内容を簡単に説明すると、なんでもJR東日本の信濃川発電所が不正取水を犯したことから処分として水利権が取り消されこれまで水を貯めていた新潟県十日町市にある宮中ダムにて水の放流を行った所、このダム上流にてアユやサケといった川魚が川に大量に戻ってきたことが報じられています。
 私は以前に書いた八ツ場ダムの問題にて、ダムを作ると治水や電力といったメリット以上にその川の生態系を大きく崩すというデメリットの可能性に触れました。今回のこの記事はまさにそうした生態系へのダムのデメリットを理解するうえで、なかなかの好材料だと言えます。

 もちろん記事中でも触れられていますが生態系は非常に複雑な連関の上に成り立っているため、単純にダムの放流が行われたから川魚が戻ってきたと現段階でつなげるには早計で、今後しばらく様子を見る必要はあるでしょう。しかし普通に考えるなら自然の中にあんなダムのような巨大な構造物が存在するのは明らかに不釣合いで、なにかしら周りに影響を与えているに違いないでしょう。

 ではどのような治水が一番望ましいのかといえば、大分以前にも一回だけ取り上げましたが中国の都江堰信玄堤がまさに白眉とも言える存在でしょう。どちらも自然にある石や砂を用いる事で数百年以上前(都江堰に至っては二千年以上前)に作られた灌漑設備ながら、今に至るまで現地での水害を防ぐのに大きな役割を果たしております。ただ両者ともオーバーテクノロジーとでも言うべきか、現代においても完全にそのメカニズムが建設方法が解明されていないとも言われております。可能であるならばこれら自然物を用いた設備の建設方法を解明し、生態系に大きな影響を与えかねないダムの代わりとして採用していくことが望ましいかと私は思います。

2009年10月27日火曜日

鳩山首相の所信表明に対する反応

 前回総選挙が終わって一ヶ月が経ち、とうとう民主党を与党に迎えての臨時国会が昨日に開会されました。開会に当たり鳩山首相が恒例の所信表明演説を行いましたが、さすがに全文をチェックする時間まではないので報道の範囲内で語ると、従来からの自分の主張である友愛政治と共に脱官僚を掲げた民主党のマニフェストに沿った内容が長時間に渡って演説されたようです。

 私は元々この所信表明演説はあくまでパフォーマンスだと思っているのでそれほど重要視しておらず多分何もなければこんなわざわざ記事にするまでもなくスルーしていたのですが、この鳩山首相の演説に対する野党となった自民党の反応に対していくつか思うところがあったので取り上げる事にしました。

鳩山首相:所信表明 「ナチスのような印象」 自民・谷垣総裁、拍手皮肉る(毎日新聞)

 今国会における最大野党自民党の党首である谷垣氏はこの鳩山首相の演説に対し、上記リンクの記事にあるように演説の途中にて民主党の一年生議員らから拍手があった事をヒトラーの演説にヒトラーユーゲントが拍手をしているようだと評しました。
 結論から言えば私はこの谷垣氏の発言は如何なものかと思います。他愛もない同じ与党議員からの拍手をよりによってナチスと比較するなどいくらなんでも大袈裟で、あからさまに民主党を悪く言おうとするその態度にはほとほと呆れました。第一、これまでの自民党出身の首相の所信表明演説においてもこのような拍手は毎回起こっており、特に2005年の郵政選挙後に大勝した直後の小泉元首相の際には今回以上に一年生議員がよいしょをしていたと今朝のテレビ朝日のコメンテーターにも言われております。

 別に自民党の肩を持つわけではありませんが、もし本当に政権を奪還しようというつもりならこのようなくだらない発言は今後よして、批判するならするでもっと核心をえぐるような批判だけをするように心がけるべきでしょう。少なくとも今回の谷垣氏の発言はただ民主党のことを悪く言おうとする意識だけしか感じられず、皮肉な話ですがこの発言を聞いて私はこれから自民党は第二の野党民主党に成り下がるのではないかと感じました。

 大体福田政権になってからはマシになっていきましたが、それこそ小泉政権時代においては当時の民主党も与党の言う事やる事すべてをあげつらっては何かにつけて悪い例えをつけて批判しているだけで建設的な対案や意見がほとんど出されず、他の人までは分かりませんが私としては全く評価の出来ない政党でありました。もし今回の谷垣氏が行ったような批判をこれからも自民党が続けるというのであれば、自民党はその時の野党民主党と同じく今後しばらく野党に居続けることになるだろうと思います。そしたらそしたでこれからの民主党も、小泉政権以前のバラマキだけを行う自民党になってたりしたらそれはそれで困るのですが。

 また今回の所信表明演説では、同じく自民党からの激しい野次も批判的に報道されております。軽くニュースでの中継を私も眺めましたがそれこそ演説の内容が聞こえないほどの野次が自民党議員から為されており、これまたテレビ朝日のコメンテーターによると、総理経験者である大物議員が特にひどかったそうです。

小泉進次郎氏、自民党のヤジに苦言…所信表明演説(スポーツ報知)

 この野次に対して身内の自民党議員からも上記のニュースにあるように批判がされており、小泉進次郎議員が相手の言う内容をしっかり聞いて検証すべきだと苦言を呈した事が報じられております。なお小泉議員は鳩山氏の演説に対し、「言葉遣いは平易で分かりやすかったが、言葉の先にあるビジョンが分からなかった」と評し、私から見てなかなか鋭い事を述べている気がします。

 ちなみにもし私が仮に今回の鳩山氏の演説に対して批判をするのであれば、あれだけ長々語れるのであれば自身の故人献金問題についてももっとしっかり語るべきだと皮肉を言います。

社説:鳩山首相の所信表明…「友愛政治」実現の道筋を(毎日新聞)

 この点について毎日の社説もきちんと突いており、上記の社説はそこそこ現在の政治状況を見る上で参考するのにいい内容かと思われます。
 鳩山首相の故人献金問題は私の当初の予想通り、どうも鳩山家の遺産相続問題の線が段々と強まってきました。はっきり言ってこの問題は近年稀に見る大型偽装事件で西松建設の問題など比較にならないほど違法性の高い事件ではないかと私は見ており、検察としても恐らく年末までにはなにかしら動きを見せるべきでしょう。そうなると民主党は早くも「ポスト鳩山」を考えなければならないのですが、この点は現時点ではまだ未知数といったところでしょうか。なんとなく、菅氏は鳩山氏に嫌われているような感じもするし。

2009年10月26日月曜日

大塩平八郎の乱時の大阪の寒さ

 書いたと思っていたら書いていなかったので、今日はちょっと時間も余りないので軽くある歴史の話を紹介します。

 このところ武田邦彦氏関連で環境問題のことばかり書いていますが、武田氏は常々、世界の平均気温が数℃の範囲内で変動するのはごく自然な事だと主張して二酸化炭素による温暖化というのは間違っていると述べています。では仮に百年前の世界の平均気温はどうだったのかとなると、あれこれ炭素測定法やらなんやらを持ち出してある程度正確な気温を出す事も出来ますがちょっとイメージがつきづらいです。

 そんな時に決まって私がよく持ち出すエピソードに大塩平八郎の乱があります。この事件は1837年に幕府の元役人だった大塩平八郎が幕府に対して反乱を起こした事件ですが、中国にて清が滅ぶきっかけとなった太平天国の乱同様、その後の明治維新と比べると小さな小さな反乱でしたがこれがそもそもの江戸幕府崩壊の端緒であったのかもしれないという意見もあります。

 そういう歴史的な意義はひとまず置いといて、この大塩平八郎の乱が起きたのは江戸から遠く離れた大阪の地でしたが、この乱が起きた当時の資料によるとなんとこの乱が起きた時の大阪では淀川が凍結していたという記述があるのです。川が凍結するとなると最低でも一日の平均気温が零下を下回っていなければなりません。これは現代の都市で言うならばこちらも実際に冬場に川が凍結する韓国ソウル市や中国北京市くらいの気温で、この1837年の大阪の冬はそれほどの寒さだったという事になります。

 もちろんたまたまこの年が寒さ厳しい厳冬だったと捉える事が出来ますがここ数十年で大阪市を走る淀川が凍結するなんて話は全く聞かないことから、ヒートアイランド現象やその後の治水工事などもあって単純に言い切れるわけではありませんが、少なくとも現代より約170年前の大阪は平均気温が一段低かったのではないかと私は見ております。

 歴史というのはとかく大きな内容にばかり目を取られがちですが、一つ一つの小さな事実は他の要素と組み合わさる事で深みを増すものだと思います。この大塩の乱も、ただ淀川が凍結したという資料の記述からこんなに話を広げることが出来、勉強するのに本当に楽しい学問だといえます。

2009年10月25日日曜日

環境にやさしい都市とは

 以前に書いた「武田邦彦氏の講演会ににて」の記事の続きです。
 前回の記事では私が質問した原子力発電についての武田氏の回答が中心でしたが、この時の講演会では肝心要の環境問題の欺瞞性がやはり中心で、その中でも現在武田氏が現在教鞭を振るっている名古屋の都市計画についても触れられておりました。

 何でも現在武田氏は名古屋市長の河村たかし市長の諮問会議のメンバーとなっていて、名古屋の今後の都市計画についていろいろと河村市長と共に計画を練っているそうです。最初にもう書いてしまいますがこの講演会にて武田氏は終始河村市長のことを持ち上げており、国会議員を退職する際には退職金を一部返納し、また市長に就任後も、「金を稼ぐのは市長を辞めてからだ」と言って市長報酬も一部返納している例などを挙げて褒め称えていました。武田氏がこのように誉めるのも現在河村市長の側に立っているからとも取れますが、河村市長については私も市の公用車を使わずに電車通勤しているという話を聞いており、お金の面では以前から非常に高潔な人間だと評判だったので武田氏の話に相違はないと思います。

 それで現在武田氏らが進めている都市計画なのですが、一言で言うと「冷房の要らない都市づくり」だそうです。この冷房の要らないという意味は何かというと、武田氏が従来から主張しているように夏場に冷房が必要なほど日本が暑くなるのは温暖化が原因ではなく都市部におけるヒートアイランド現象によるもので、今後の名古屋の都市づくりではそのヒートアイランドを軽減、さらには逆行させる案を練っているそうです。
 具体的な案としてこの講演会で武田氏が挙げていたのを出すと、以下のようになります。

・コンクリートを掘り返してなるべく土の地面を出す。
・暗渠となっている川を掘り返す。
・空き地に木陰となる樹木を多数植える。

 などだそうです。
 この中で私が聞いてて、一番反応したのは二番目の暗渠となっている川を掘り返す事です。実は私はこれ以前にも別の勉強会にて川が都市部の中を流れる価値について話を聞いており、日本で実行するところはないものかと以前から考えていたからです。

 それで都市部に川が流れると一体どうなるかですが、まずデメリットとして自動車用道路の渋滞を誘発しています。仮に川の上にコンクリートを張るとその上は地面同様に走れるようになり、橋を渡る必要もなく自由にどこからでも左右両岸を渡れるようになります。こうしたことから日本の各大都市では高度経済成長期に片っ端から川を暗渠で埋めて行き、東京に至ってはかつて誇られた江戸水系も見る影もないほど埋められていきました。

 これに対して川が暗渠ではなく地表に現れていた場合はどうなるかですが、まず第一に大きな好影響として周囲の気温を下げる効果があります。地面と違って太陽熱の吸収率が低くて反射率も高いため、水の近くだとなんとなく涼しく感じられるように都市部に川があると実際に周囲の気温を下げ、そのままヒートアイランド現象の抑止につながります。またこれに加え、水面は空気中の埃を吸い付けるので空気の清浄化にもつながると言われております。

 このような理由から暗渠となった川を再び掘り返す事業をやろうとしているのは何も名古屋市だけでなく、実際に実行してしまった大都市もあります。相当にこの方面に詳しかったり過去の報道をそうそう忘れない方ならもう察しがついているでしょうが、その事業を行った地は他でもなくお隣韓国のソウル市で、その推進者は現在では大統領にまでなってしまった李明博氏です。
 詳しくはリンク先のウィキペディア内にても書かれていますが、李明博現韓国大統領はソウル市長時代に本当にソウル市内のど真ん中を道路として走っていた清渓川の暗渠を取り除き、生態系や環境に貢献したとしてソウル市民だけから出なく世界の環境団体からも高く評価されました。恐らく河村氏もこのエピソードを知ってたら、「わしも同じ風にやって首相になるんじゃ」とでも言ってそうですけど。

 ちなみにこの清渓川については私が以前に出た勉強会でも触れられており、この暗渠開削によって商売に悪影響の出るとして反対していた周辺商店住民が開削後にやはり売上げが落ちたとして本音ではあまりうれしくはないものの、ソウル市全体や市民の視点で見れば開削してよかったのではという感想が紹介されていました。

 私は一時期京都市内に住んでいましたが、やはり京都の環境で何がよかったのかといえば四方を取り囲む山々と市内東部を走る鴨川でした。特に鴨川周辺は小さな河原となっており、夜になれば出町柳周辺で同志社の連中のカップルが大挙して出没したりするなど一部鼻持ちならないところもありましたが、休日ともなれば親子連れが遊んでいたりと全般的には市民にとって非常よい憩いの場となっています。確かに鴨川の西と東で道路が寸断されるために三条京阪周辺がしょっちゅう渋滞にこそなるものの、そのメリットに比べればあの程度は小さなデメリットだと私は感じました。

 このような思いは何も私だけでなく古くから京都に住む人達も同じで、鴨川の反対側に位置する、こちらは現在暗渠となっている堀川について暗渠とさせてしまったのは失敗だったとよく述べていました。私も出来る事なら、多少のお金はかかっても京都市は堀川を再び開削して欲しいものです。

 武田氏はこのような元からある自然を活用して冷房の要らない都市づくりを計画しているそうです。武田氏によるとこのようなことが出来るのはお金のある今のうち、更に言うなればすでに弱り始めているけどトヨタがお金を落としてくれる今のうちしかできないとして、数十年後に石油がなくなって冷房が使えなくなった東京や大阪を横目に名古屋だけがせせら笑うのを夢見ているそうです。いちいち例の出し方や話し方が本当に面白い人です。

2009年10月24日土曜日

北京留学記~その十九、フェイシア

 今日もまた私の留学中のクラスメート紹介です。あまり反応ないから読まれている方にとって面白いかどうかはわかりませんが、一応昔に書いたものなので表に出させてください。

 今日紹介するのは、フェイシアという名前のフランス人女性です。詳しい場所までは聞きませんでしたが、出身地はフランスの中でも恐らくパリとは違って田舎の方だと思います。というのもこのフェイシアは外見からしてフランスの上品なイメージとはほど遠いごつい体格をしており、また性格の方も見かけを裏切らずに思った事をすぐ口にする性格で、なんていうか見ていて大阪のおばちゃんを髣髴とさせる人でした。

 そんな彼女のエピソードの中で今でも強く印象に残っているのは、彼女が乗ったタクシー運転手との会話です。なんでもフェイシアが中国であるタクシーに乗った際に運転手が彼女が北京語言大学の学生だとわかるや、

「俺はあそこにたくさんいる日本人と韓国人は絶対に乗せたくないんだ」

 と言ったそうです。その話をフェイシアは授業中にて紹介し、以下のように付け加えました。

「本当にひどい運転手だわ。私が会う日本人はみんな礼儀正しくていい人ばかりなのに、あのタクシー運転手は絶対に間違っている。でもま、韓国人ならしょうがないわよね┐(´ー`)┌」

 ということを、思い切り言ってのけてしまいました。
 その日はたまたま韓国人留学生が誰も授業にきていなくて先生もほっとしてましたが、その後のWカップの期間中に韓国の予選リーグ敗退が決まった翌日にもフェイシアは朝からえらくテンション高く、

「ざまぁみろ韓国が。Wカップで勝とうなんざまだまだ早いのよ( ^∇^)」
「それを僕の前で言うの?(´д`;)」

 と、この前紹介した韓国人の李尚民が、苦笑いを浮かべながら対応に困っていました。もちろんお互いに冗談だとはわかっていますが。

 こんな具合に歯に衣着せぬフェイシアでしたが、その見かけどおりにどうも姉御肌な性格なのか周りの気配りは非常によく、テスト後で授業の空いた日にクラスで映画を見る日にはわざわざ自分でクレープを焼いて持ってきてくれました。また後述する表演会の練習も非常に熱心で、自ら進んで太極拳の型を覚えていき、練習の後半ではまだフリを覚えきれていないほかのクラスメートの指導も懇切丁寧に行っていました。

 そんなフェイシアと私の交流はというと、こんなことがありました。
 授業の休み時間の合間、フェイシアは別の日本人男性に「エクセルサーガを知っているか?」と尋ねているのを私は聞いてました。その聞かれた当人は知らなかったのですが、それから数日経ったある日に私からフェイシアに、

「前にエクセルサーガを知っているかって、○○さんに聞いてたけど、俺は知ってるよ」
「えっ、あんたオタクだったの!?」

 ここで出てきたエクセルサーガというのは、六道紳士という漫画家が書いている漫画作品の事です。詳しい内容まではここで説明しませんが、こんなタイトルをわざわざ日本人に聞いて来る上に日本のアニメが大ブームとなっているフランスゆえに、もしかしたらフェイシアは日本のアニメに相当は待っているんじゃないかと思って聞いてみたら案の定そうでした。

「私は今、一番はまっているのは「Fate・stay・nights」って作品なんだけど、あれは本当に面白いいわね」
「それを作った連中が前に作った「月姫」なら友人が持ってるけど、まだ俺は見ていないんだ」
「私はそれももう見たわよ。早くあんたも見なさい( ゚Д゚)ゴルァ !」

 という具合で、どっちがオタクなんだよと言いたくなるような会話を交わしました。もっとも日本のアニメマニアはフェイシアに限らず、北京語言大学に来ているドイツ人などでも比較的沢山いましたが。

2009年10月23日金曜日

企業が国家より大きくなる日~後編、多国籍企業の弊害

 前回の記事の続きです。前回では国家の力を上回る企業の存在としてアメリカの軍需産業について簡単に触れましたが、こっちはそっち以上にもっと深刻であるにもかかわらず意外にもあまり知られていない多国籍企業について解説します。

 まず読者の方には多国籍企業と聞いて、一体どんなものを想像するか考えてもらいたいです。一般的な回答となるとそれこそトヨタやソニーといった優良な企業が思い浮かび、国際的な企業活動を幅広く行っているというような華やかなイメージを持たれるかと思います。それはある意味正解なのですが、彼ら多国籍企業の弊害というのは他国ならともかく日本ではほとんど報道されていない現実があり、出来る事なら文系の学生には知ってもらいたい思いがあるのでいくつか私の知っている事実を紹介させてもらいます。

 私がこの多国籍企業がどのような弊害を持っているのかを初めて知ったのは、スポーツグッズメーカーとして有名なナイキの不買運動からでした。この事件はリンクに貼ったウィキペディアの記事の中でも書かれていますが、ナイキという企業は製品のデザインはアメリカで行うものの自社工場は持たず、製品の生産はすべて海外に委託して行っていました。現在の日本のメーカーのほとんどが行っているように海外の発展途上国の工場で生産すれば人件費も安いため、経営上のメリットが非常に高い事からナイキはかなり以前からこのような生産体制を敷いていたのですが、1997年にあるNGOが公表したナイキ製品の工場の実態はその製品のイメージからはかけ離れたものでした。

 主に東南アジア諸国にあったナイキの工場では18歳未満の児童労働者が数多かっただけでなく、工場現場の労働環境も非常に悪く、それでいて賃金は非常に安く抑えられていました。今日参考したサイトによると、アメリカで一足300ドルで売られているシューズ一つ当たりの製造報酬は3ドルにしか満たなかったそうです。
 アメリカ本国では労働法で禁止されている児童労働や過重労働を、他の発展途上国で行って不当な利益を得ているとして、この事実が公表された当時はアメリカや欧州ではナイキの不買運動が巻き起こったそうですが、日本はこの時期にあまりそのような反応はしませんでした。

 このナイキの例のように多国籍企業は利益を追求しようとする組織の姿勢からか、時に個人の倫理概念からは考えられないような行為までも行ってしまうことがあります。いくつか今でも実際に起きている例を出すと、国内では規制されている汚染物質の廃棄をそのような規制のない外国では行ったり、大資本に物を言わせてその国の競合企業をすべて打ち負かして市場を独占したり、その国の経済を歪むだけ歪ませた後に儲からないからといって撤退したりなどと枚挙に暇がありません。

 このような行為を行うこれら多国籍企業で何が一番問題なのかというと、彼らの横暴な行為を世界中で規制する事が出来ないという事です。それこそ本国内であれば国民の選挙によって組織される政府(=国家)を通して規制をかけることができますが、ナイキのように海外に工場を持っているところまで規制をかけようものなら相手国への内政干渉になりますし、またこういう企業ほど規制を強めようとしたらキャノンの御手洗みたいに、「だったら他の国に移って税金払わないよ」なんて平気で国に脅しをかけてきます。だったらとっとと日本から出ていけよな、キャノンは。

 しかもこの上に厄介なのは、多国籍企業は国家とは違って情報公開の義務がない事です。多国籍企業同様に人間の集団単位として非常に大きな国家も、二次大戦前のナチスドイツや日本帝国のように暴走を起こし非倫理的な行為を犯すことはありますが、それでもまだ国家の場合は民主主義でさえあれば情報公開の要求や原則が作用した上で選挙によって暴走を止める事が出来ます。しかし企業については現在においてすらも「企業秘密」とすることで情報公開を遮る事が出来、見えないところでどんな不正をやっていようがある程度隠し通せてしまいます。

 ちょっとややこしくなってきたので、私が考える多国籍企業が持つ弊害を以下に簡単にまとめると、

・複数国で活動するため、一国家ではその不正すべてを規制することができない。
・情報公開の義務がなく、影で何をやっているか見えづらい。
・国家や国民を無視し、資本原理で自分たちの好き勝手な行動を取る。(キャノン)

 このような多国籍企業は、グローバル化の潮流の中でこの十年の間は数多く跳梁跋扈していました。

 私は国家の枠、というより国境を越えた交流はどんどんと行っていくべきだと考えています。そのような交流を通して他国の人間を理解する事が戦争の回避につながり、ひいては世界共同国家の実現に続いていくと考えるからです。
 しかし個人での国境を越えた交流ならともかく、今回挙げた国境を越えた企業の活動というのは未だ基本的なルールが定まっておらず、発展途上国においては多国籍企業のやりたい放題になっているのが現状です。そんなやりたい放題な状況下で歪みきった世界経済の成れ果てというのが、今のリーマンショック後の世界なのではないかと私は考えています。

 自分も貿易屋の一人ということで私は頭から国際取引を否定するつもりはありませんし、むしろ本当に必要な貿易はもっともっと促進していくべきだと思いますが、全くルールなき現在の状況下で国家のコントロールを全く受けない多国籍企業を野放しにさせるのは世界にとってマイナスでしかなく、グローバル化が進んだ今だからこそ企業にとっての国境とは何かをもっと真剣に議論する必要があるのではないかと考えております。

 なおこれは余談ですが、佐藤優氏は自分が国家というものを強く主張するのは、これから世界が統合していくには必ず国家を媒体にしなければならないと自分の体験から考えるからだそうです。国際交流という観点で見れば国際NGOによる個人の交流、そして外交官同士の国家の交流、そして今日取り上げた貿易を通しての企業の交流など手段はいろいろありますが、少なくとも企業の暴走を止める手段が余りない現在においては、私もまだ国家が媒体になった方がマシかと思います。

企業が国家より大きくなる日~前編、アメリカの軍需産業

 一ヶ月くらい前に古いゲームですが、「アーマードコア3」というゲームを購入しました。このゲームはロボットを操る傭兵となってミッションをクリアするゲームなのですが、私はこのゲームをあの伝説のクソゲー「デスクリムゾン」にちなんでプレイヤー名には「コンバット越前」、機体名には「クリムゾン」にして現在も楽しくプレイさせてもらっています。

 さてこのデスクリムゾン、じゃなくてアーマードコア3ですが、世界観はロボットゲームらしく近未来の世界を舞台にしており、そのストーリーに大きく関わってくるのは変なマッドサイエンティストや拳王ではなく巨大企業なのです。というのもこの世界では国家以上に企業が大きな影響力を持っており、あれこれ環境破壊やら住民のコントロールなどをしてはテロリストらからしょっちゅう攻撃されております。

 このアーマードコアシリーズほどではないですが、同じように近未来SFで国家以上に企業が大きな力を持つ世界を描いている作品として、こちらは漫画の「攻殻機動隊」が上がってきます。こちらはアーマードコアシリーズほど露骨ではありませんが部分々々で巨大企業が暗躍し、それに対してテロリストらが反抗し、国家に属す主人公らがその駆け引きに関わってくるという話がよく展開されております。

 このように利益追求を主是とする企業が社会集団として非常に大きな単位である国家以上に力を持つというのは、なにもSFだけの話ではなくすでに現実で起きている問題です。それが最も如実に現れているのはほかならぬ現在の世界覇権国家であるアメリカで、巨大な兵器企業や小売業を筆頭にアメリカの覇権維持、ならびにアメリカの国家運営は彼らによって為されていると言われております。

 あくまで噂の範囲である事を前提にしていくつかのアメリカの政策に大きく影響を及ぼしている企業を挙げると、まず第一に挙がってくるのは世界最大の売上を誇る「ウォールマート」です。この企業はその売上額が世界最大であることからアメリカの財政政策はもちろんのこと、流通業であるという事から食料政策まですべて舵を握っていると言われ、アメリカの政策はホワイトハウスではなくウォールマートの役員会議室で決められているとまで言われております。ちなみに、現ヒラリー・クリントン国務長官も一時期ここの役員に名を連ねておりました。

 このウォールマートと並んで悪名高いのはボーイングやロッキードといった軍需産業系企業、言うなれば武器商人です。彼ら武器商人が儲けるのに一番いい方法というのは他でもなく戦争が起きる事で、一度戦争が起きたら本国であるアメリカに限らず敵国にも武器を売れればそのまんま二倍の儲けとなります。
 いくらなんでもそんな馬鹿なと思うかもしれませんが、時間差を考えなければ現在も続くイラクやアフガニスタンの騒乱などまさにその構図です。アメリカとこれらの武器商人は冷戦期、イランやソ連への牽制のためにサダム・フセインやタリバンに対して一貫して援助を行っており、その中には兵器授受や戦争訓練などの軍事支援も含まれていました。そうして軍事組織として育てられた彼らは冷戦後の現在にはアメリカと対峙してくれてアメリカ軍に武器を買うように仕向けてくれているのですから、彼ら武器商人には願ったり適ったりでしょう。

 このようにアメリカという国は選挙で選ばれる大統領や政治家などよりも、資本主義の国らしくずっと企業の方が政策決定力が大きいとかねてより言われております。といっても軍需産業は国家防衛という大きな政策に関わるため、国家権力と一体となる割合も多いのではと思う方もいるでしょう。しかしアメリカ、ひいては他国においてすらも近年は軍需産業にとどまらず国家の統制を受けないばかりか無視する企業こと、多国籍企業の弊害が徐々に現れてきました。

 私は前回の記事のまとめに、「国家以上に企業が国境を跨ぐというのは今の時代には早い」と書きましたが、それはまさにこの多国籍企業のことを指しており、彼らの暴走の末に引き起こされたのが去年のリーマンショック以降から続く不況、いやそれ以前からの世界の貧困問題だと考えております。このまま連ちゃんで書きますが、次の記事では多国籍企業が何故問題なのかを解説します。