一体何故こうした措置を欧州が採ったのか。表向きはプライバシーの保護の観点から個人情報収集に暴走するGAFAを抑えるというのが建前ですが、この考えも無きにしも非ずも、その本質は米国IT大手の独占体制を崩すという経済的目的、また国の安全保障を念頭にした防衛目的の方が本音であるでしょう。
先日友人にこの概念を少し説明したところ、「雇用も影響するのでは?」という指摘がありましたが、実にもっともな指摘でした。IT産業の場合、自動車産業などと違ってサービス提供先(この場合は欧州)にIT大手はそれほど多くの従業員を雇用していません。なので欧州側からしたらIT大手を叩くだけ叩いても、自動車産業などと違って自国の雇用にはほとんど影響しないこともあり、制裁金とかいくらでも課せられる背景があるでしょう。
前回の記事で私は、米国と中国はその自国企業のITサービスに関して一見すると鋭く対立しているように見えるが、本質的には同じ目的で動いており実は思想的には全く一緒だと指摘しました。それに対し、上記の通り欧州は米中とは真逆で、企業(バックには国がいる)による個人情報の収集に対し「それはいけない」的に批判的なポジションにあります。そういう意味では、ITサービスの規制に関して秦の対立構図は米国対中国ではなく、米中対欧州ではないかというのが私の見方です。
それに対し日本については、はっきり言ってこの問題に関しては無頓着です。思想がないと言ってしまえばそれまでですが、中国は信用できないけど米国は信用できるという前提があるため、米系IT企業に個人情報を抜かれまくっても全く気にしません。むしろ進んで抜かれているようにすら見えます。
一方で中国に対する警戒心は強く、一時話題になった中国系アプリや携帯電話に「個人情報を抜く機器や機能がある!」といった報道には、自分が見ている限りでは一部誇張というか事実にそぐわぬ報道が見られました。まぁ中国は抜いてるだろうけど。
一見するとこの対立はごく単純で当たり前のように見えますが、地味に現代における主要な思想対立なのではないかという風な気がします。資本主義と共産主義の対立が共産主義の敗北で終わった後(90年代)、資本主義の中でも統制経済派と新古典派の対立が始まり(00年代)、リーマンショックで実質的に親古典派が敗北(どの国も政府財政の拡大、為替介入が一般化=政府の経済的役割の拡大)して以降、自分が考える世界的な思想の対立はまさに上記の米中と欧州の対立じゃないかと思います。
IT大手規制の何が思想対立なのかとお思いでしょうが、具体的に言えばこれは、個人情報の保護と政府・経済効率のどちらを重視するかの対立じゃないかと見ています。その上で、この思想対立の観点で見るならば、さっきはどっちつかずと書いた日本は明確に欧州側、つまり個人情報保護重視側に立っていることになります。本人は意図せずですが。
次回はその辺の、個人情報取り扱いを軸にした思想対立について解説します。