すべての面で前作からスケールダウン。
結論から言うと、上の感想がすべてです。ネタバレはある程度抑えた上での詳細は以下の通りです。
約2ヶ月にわたるリアルで死にかかるくらいの激務を経て、頑張った自分へのご褒美として前から気になっていていた「AI:ソムニウム ファイル ニルヴァーナイニシアチブ」というゲームを購入し、今朝一通りクリアしました。
この作品の前作に当たる「AI:ソムニウム ファイル」に関しても遊んでおり、こちらは誰に対しても推薦できるほどのアドベンチャーゲームの超傑作と感じるほど面白かっただけに、続編となる今作も非常に期待していました。
特に、前作の登場人物でもある「みずき」というキャラクターが声優の黒沢ともよ氏の演技が素晴らしかっただけに、今作でこのキャラが主役になると聞き、最初に速報見た時は非常に興奮しました。しかし、ゲームを始めてすぐ、この興奮はガッカリ感で埋まることとなりました。
この作品はダブル主人公制となっており、上記のみずきという女性主人のほか、男性主人公として龍木というキャラが配されています。プレイ的には前半は龍木とその相棒であるAIのタマを動かし、後半に入ってからようやく待望のみずきと前作から続く相棒のアイボゥが動かせるようになるのですが、正直言って前半はプレイしていて苦痛でした。なんでかっていうと単純に、龍木というキャラに共感できない、はっきり言えばキモイと思うほど嫌悪感を感じました。
シナリオ、そして演出的に、この龍木がやや錯乱気味な行動を採ったり、得体のしれない行為を行うことは最終的に説明はされてはいるものの、それを考慮しても最後までこのキャラには共感できませんでした。
一応全体のストーリーとしては、番組放送中に身体の中心線で真っ二つにされた男性の右半身の体が突然現れ、この殺人事件の犯人を追うという展開なのですが、その捜査の進展が自分から見てかなり行き当たりばったりな捜査で、やや強引と感じる展開が多かったです。
また主人子らは相手の夢の中を覗き見ることで隠し事や本音を探ることができるのですが、前作は捜査線上に浮かんで「明らかに疑わしい」と感じる根拠があったり、昏睡中だったり発音できなくなったりした人物に対してこの夢探索(シンク)を行っていました。しかし今作では、それほど疑う理由もないのに、出会った人物に対して手あたり次第に夢探索を仕掛ける様な展開が多かった気がします。
しかもそんな手あたり次第なやり方ゆえか、夢の中で得られる情報の大半は「次はここに行け」的な目的地ばかりしかなく、本来の目的である捜査対象者が隠している本音や過去を垣間見るというのはほとんどありませんでした。そんなもんだから、捜査もシンクをきっかけにして進展するということはあまりなく、全く無駄ではないけど、むしろ捜査対象を無意味に広げているだけなのではと思う節がありました。
唯一、一番最後のシンクに関しては最重要容疑者が本気で隠していたかった本音というか真実を徐々に引き剥がす構成となっており、このシンクのみ本来の使われ方がされ、プレイ中も興味深く眺めることが出来ました。逆を言えばそれ以外は、ふざけた選択肢を選んでアイボゥのリアクションを楽しむくらいでした……。
この辺りの不満の原因というか根幹は、全体のシナリオというか演出にあるように思えます。というのもこのゲームは、不可思議な事件を追うという捜査物のアドベンチャーゲームで推理要素も含まれているのですが、肝心のトリックが登場人物ではなく、メタフィクション的にプレイヤーを騙すことが主眼となっています。
このメタフィクション的にプレイヤーを騙すという手法はこのゲームのライターは他のほぼすべての作品でも共通して行われていますが、他の作品ではプレイヤーだけでなくゲーム内の登場人物も一緒に騙しているため、今回ほどグダグダな捜査というか進展の仕方はありませんでした。しかし今作に限っては事件そのものの謎は比較的単純なもので、その単純な構造を事件とは無関係な手法(トリック)によってプレイヤーを騙し、見え辛くしているだけなので、作中で事件を追う捜査過程がグダグダしたものになってしまったのだと考えています。
っていうか本当にシンクする回数が無駄に多いのと、その必要性にはプレイ中、強い疑問をずっと感じ続けました。ついでに書くと、深い夢の中に入らずともその場でさっと思考を読む「ウィンクシンク」というのもありますが、この「ウィンクシンク」で得られる情報もかなりくだらない内容が多く、しかも話のテンポを折るものが多かった気がします。
「ウィンクシンク」のなかった前作なんかは、何気なく世間話をしながら赤外線で所持品を探ると、包丁を隠し持っているのがわかってドキッとしたりするなど、キャラクター同士の駆け引きや捜査の緊張感を感じる場面がまだありました。また肝心の捜査も、前作では今作とは違ってちゃんと怪しい人物に限ってシンクを仕掛け、そうして得られた手がかりから徐々に真相に近づいていっており、最後に真相がはっきりした際は「そうだったのか!」的なカタルシスも得られました。
それが今作はグダグダな捜査に脈絡のない被害者の増加を延々と見させられ、最終的に真相がわかっても、「あっそ」って感じで何も感動がありませんでした。まぁ途中である程度、真犯人の正体に関しては簡単に読めちゃうってのもありますが。
アドベンチャーゲームの核は言うまでもなくシナリオですが、上記の通り主人公の片割れである龍木がキモかったのと、ミステリーが中途半端だった点で、凄い不満を感じました。期待の主人公であるみずきも、悪くはないけどなんかその魅力を半減させられているような役回りとなってました。衣装も、折角なんだから他のキャラにある高校の制服バージョンとかあってもいいと思うのですが。
この点、前作主人公の伊達がかなりいいキャラだったという反動もあると思います。いかにもなおっさん刑事キャラで寒いダジャレの連発に嫌悪感を持つ人も少なくありませんでしたが、ボケることもあれば決めるところはしっかり決め、また大人な役回りをきちっと果たしており、前作が面白いと感じる主要因だったと思います。
今作でも伊達はもちろん登場しますが、やっぱ彼が出てくる場面ほど内容が面白いと感じました。っていうか声優の新垣樽助氏が器用すぎる、さすがトグサ。っていうか今知ったけど「ルートダブル」の笠鷲の声もこの人か。このゲームでも他の出演者置いてきぼりにするくらい一人だけ頭抜けて演技がうまかったのをはっきり覚えている。
この黒沢氏、新垣氏、あとネズコ役でお馴染みの鬼頭明里氏を始め、出演した声優の演技に関しては素晴らしい、っていうか名優リサイタル的なくらいみんな抜群でした。「しーろしろ」も相変わらず電波な声してるし。
またシナリオに関してもケチはつけましたが決して悲惨なレベルというわけではなく、むしろ面白い方に入る内容であるとは思うのですが、やはり名作だった前作と比べるとスケールダウンという印象をぬぐえず、期待値も高かっただけに不満を感じざるを得ません。龍木さえいなければ……。
ただ完全擁護不能な要素として、このゲームのアクションムービーには悪名高きQTEが使われています。批判から他の会社もQTE演出をやめ始めているというのに何故このゲームでは採用されたのか、開発者に対しては激しく疑問を感じるとともに、難易度設定こそできるものの、それならむしろQTE演出廃止も設定できるようにしろよとすら本気で思いました。
しかもそのQTE操作が要求される場面はみずきなどによる戦闘シーンなのですが、他の人も書いてるように、そのアクション動作がやばいくらいチープで、QTE判定に失敗する度にチープな動画を何度もみさせられるのは本気で苦痛でした。これは明らかにムービー演出監督の力不足でしょう。このアクションシーンも、前作の方がよかった。
本音を言うと、前作が好きだっただけに今作でもレビューでは絶賛したかったです。しかし途中からは「時間無駄だから早く終わってくれよ」と思うほどがっかりな出来で、良かったのは最後の問い詰める場面と声優の演技くらいで、どうしてこうなった的な気持ちをまとめるとやはりこういう辛口なレビューとならざるを得ません。
「かまいたちの夜」を始め、基本的にシリーズもののアドベンチャーゲームというのは第1作目が一番面白かったりすることが多いですが、この「ソムニウムシリーズ」もその轍に乗ったということかもしれません。三作目の実現はきついだろうなぁ。