「派遣会社のマージン率」という元々の着眼点がよかったのとほかに同じことをしている人が誰もいなかったということもあり、幸いにも去年の記事はそこそこ受けて他のサイトにも引用されたりもするなどこのブログの記事の中で一番世の中に読まれる記事となりました。執筆前に、「絶対調査して書くべきだ」と太鼓判を押してくれていた友人からは当然の結果、いやむしろまだ反響が足りないとまで言われた上、「来年も継続してやるべきだ」などとかなり早くから継続調査を薦められ、また去年の記事を通して知り合った人たちも同じことを言い、恐らく他にも求めている人たちはいるんだろうなぁという妙な期待感は一応は感じていました。
また前回調査ではわざと脇を空けるように隙を作ってみせておきましたが後追い調査をする人間はおろか取り上げるマスコミすら現れず、多分ほっといたら本当に一発こっきりで終わりかねないという懸念もあり、正直な感想を言えば最初は紛れもない好奇心で動きましたが事ここに及んでは多少の義務感も感じざるを得ません。
などとまた前置きが長くなりましたが、去年の調査をベースにして今年も人材派遣企業各社のマージン率をまた一人で全部調査してやりました。ご託はいいでしょうし早速調査結果とデータの解説に移ります。
調査概要
・調査期間:2016年1月3日~1月25日
・調査対象企業:一般社団法人 日本人材派遣協会(JASSA)の登録企業と派遣大手企業数社
・調査サンプル企業数:579社
・リストアップ事業所数:1,082拠点
・調査方法:インターネットを使い該当情報の有無を各社ホームページ上で確認する
・マージン率の公開率:18.0%(19.1%)
≪マージン率≫
・平均値:29.3%(26.8%)・最大値:旭化成アミダス株式会社 IT事業グループ 51.0%(50.0%)
・最低値:株式会社インテリジェンス 中国支社 12.0%(11.6%)
・前期比変動幅平均:+0.7ポイント
≪労働者派遣に関する料金の平均額(8時間)≫
・平均値:16,509円(前回未調査)
・最大値:株式会社メディカルリソース 名古屋支店 45,108円(〃)
・最低値:株式会社シグマスタッフ 大宮支店 7,847円(〃)
≪「派遣労働者の賃金の平均額(8時間)≫
・平均値:11,457円(前回未調査)
・最大値:株式会社メディカルリソース 名古屋支店 28,376円(〃)
・最低値:株式会社プレステージ・ヒューマンソリューション 山形事業所 6,400円(〃)
データ注意事項
1、マージン率で少数点第二位以下の数値は四捨五入処理を行っている。
2、マージン率が「0%」以下の事業所は統計目的上、各種計算では除外対象としている。
3、マージン率数値は各社が発表している直近年度のデータを引用。
4、2014年12月末より以前のデータしか公開していない企業は原則、「×」評価として扱った。
5、公開データの対象期間が明らかでない会社は原則、「×」評価として扱った。
6、データに「平成26年度実績」としか書いていない拠点は対象時期不明瞭として「×」評価。
7、本社で派遣事業を行っていない企業は便宜上、適当と思われる事業所を「本社」として扱う。
8、上記調査結果はあくまで一個人の手作業によるもので、調査手段や解釈の変更によって数値が変動する可能性があるということをご了承ください。
・調査データPDFファイルのダウンロード(2017年版データの公開につき配信停止、必要な方はご連絡ください)
解説
≪マージン率の公開率下落について≫
マージン率を始めとして人材派遣会社に公開が義務付けられている情報をホームページ上で公開している会社の割合は前回調査時の19.1%から1.1ポイント落ちて、今回調査では18.0%となりました。一見すると公開している会社が減っているように見えますがこれには理由があり、前回調査時は公開しているマージン率などのデータの採取対象期間についてデータの頭数を集めるという目的から厳しく見たりしませんでしたが、今回調査では注意事項の5と6に書いてあるように対象期間が不明瞭であったり、「平成26年度データ」としか書いていない会社は直近のデータであるかどうか判断しかねるため、原則「×評価(非公開企業)」として扱いました。
なおデータの対象時期が不明瞭であっても、去年に取得したデータから更新した跡が見られる会社に関しては「△評価(データが不足)」として扱い、統計に加えております。
このようにデータ対象時期を厳しく見るという処理をしたことから公開率は下がりましたが、去年も公開していた会社はちゃんと更新して公開を続けており、逆に公開していなかった会社は依然と公開していないといのが大概で、実態的にはあんま去年と変わりがないというのが私の見方です。もちろん更新をやめてしまった会社もあれば、今年からちゃんと公開するようになった会社も見られましたが。
どちらにしろ、公開が義務付けられた情報をきちんとホームページで公開しているのは5社中1社というのは寂しい限りです。こういう会社から淘汰されるべきでしょう。
≪平均マージン率の上昇について≫
今回調査で出たマージン率の平均値は29.3%と、前回から2.5ポイント上がりました。これにもちょっとした背景があり、一言でいえば去年はマージン率が高くてたくさん拠点を持っている会社が今回新たに統計へ加えられ、マージン率を引き上げたためです。詳細は後述しますが、特殊技能者や技術者派遣を専門に行っている派遣会社のデータが今回新たに加えられ、これらは拠点数が多い上にマージン率も比較的高かったためデータのなかった前回と比べて平均値を大きく引っ張りました。
では業界全体でマージン率は去年と今年とでそれほど変化がなかったのかというと、そうとも言えないという根拠が調査結果にある「前期比変動幅平均」というデータです。これは前回調査時にデータを公開していた会社に限定して前回と今回のマージン率の差を出して平均化したものですが、その結果たるや+0.7ポイントでした。あくまでこの調査結果に限って言える結論ですが、この数値は去年と今年でマージン率は業界全体で0.7ポイント上昇したということを示しており、過去一年間はやはりマージン率は上昇傾向にあったと考えられるでしょう。
≪労働者派遣に関する料金、派遣労働者の賃金≫
前回調査時にも認識していましたが、マージン率ともども「労働者派遣に関する料金」、「派遣労働者の賃金」の一人当たり平均を公開することも派遣会社に義務付けられております。前回調査では作業の手間を省く、マージン率の公開率に目を向けさせるという目的もありましたがそれ以上に、料金賃金という金額データであるため変な引用のされ方をされる恐れがあったため敢えてデータを取りませんでした。今回は周囲の勧めもあって統計を取ってみたのですが、これがなかなかに面白い結果を生みました。
まず時給に換算すると「労働者派遣に関する料金」は約2,063円、「派遣労働者の賃金」は約1,432円となります。これが高いか安いかはまだ検討の余地はありますが、今回調査の最低値は時給換算だと前者が約980円、後者が約800円となり、なんていうか最低時給スレスレな金額となるわけです。まぁそれで合意できてるのなら何も言うつもりありませんが。
逆に最高値はどうなのかですが、これに関しては単独で取り上げた方が価値があります。というのも今回調査で「労働者派遣に関する料金(8時間)」が3万円以上の数値を叩きだしたのは株式会社メディカル・プラネット、株式会社メディカルリソース、株式会社メイテックの3社のみです。また「派遣労働者の賃金(8時間)」が2万円以上だった拠点となるとメディカルリソース、メイテックの2社のみとなります。
これらの派遣会社は上記の派遣料金、賃金が明らかに高額で他社を突き放しており、特にメディカルリソースとメイテックは多数の拠点を保有しながらそのどれもで同じ水準を保っています。その一方でこれらの会社のマージン率は40%前後あり、これも全体平均を大きく上回っております。
ある意味今回の報告で一番肝心な内容になりますが、派遣料金・賃金の高さはマージン率と確実に相関します。統計ソフト持ってないから相関係数とか出せないけどデータ表を見ればこの傾向は明らかに見て取れ、現に上記三社のデータはバッチシこの傾向に沿っております。
一体何故相関するのかというと、マージン率には会社が従業員のために負担する福利厚生費や技能研修費なども含まれるからです。前回調査記事でもこの点を口を酸っぱくして説明して、「マージン率が高い=即悪」という図式は成り立たないと強く訴えたつもりでしたが、私の記事を引用したサイトによってはただマージン率が高い会社をあげつらってはピンハネがひどいなどと批判するだけのサイトもあり、正直言って見てて不快でした。
翻って先程の三社を見てみると、メディカル・プラネットとメディカルリソースはともに医療従事者を、メイテックはエンジニアを専門とする派遣会社です。これらの派遣は工場のライン工や事務スタッフと違ってマッチングが難しい上に研修にもお金がかかります。そうした点を踏まえると通常の派遣会社とは明らかに毛色が異なる会社であり、ただマージン率が高いというだけで叩くというのは以ての外でしょう。
なおこのマージン率の解釈について今回、リツアンSTCの野中社長から丁寧でわかりやすい解説をいただいたので、この記事引用しようっていう人は最低限これだけは読んでから引用してください。
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「マージン率に関する解釈と今後の展望」
私はマージン率の問題は次の2つに集約されると思っております。1つは世間で思われている「マージン=派遣会社の儲け」との誤解。もう1つは現派遣法で公開が義務化されているマージン率は会社(事業所)の平均であって、決して個人のマージン率ではない点の2つです。
まず「マージン率=派遣会社の儲け」についての誤解ですが、弊社の実際の数字をまじえてご説明いたします。弊社の派遣エンジニアの2015年11月度の派遣料金の平均は630,000円でした。これに対して派遣社員の給料平均は470,000円で、マージン率は25.4%となります。
ただ、このマージンの中には社会保険料の会社(事業主)負担の経費や派遣社員に対する研修費用なども含まれております。このため派遣会社の儲けとしてのマージンを知るには、この派遣社員に関わる経費を差し引いて考えなければなりません。
この経費の中で最も顕著なものは健康保険や厚生年金などの社会保険料の会社負担額です。あまり知られておりませんが社会保険料は労働者と会社で折半で負担します。
例えば毎月の給料明細から社会保険料が5万円引かれたとするのならば、会社も同額の5万円を負担して合わせて10万円を年金機構などに納めております。弊社の場合、11月度の社会保険料の1人当たり平均は61,000円で、当月の派遣料金に対して10%ほどになります。つまり、この派遣社員に関わる経費を差し引いた割合、弊社の場合ですと15.4%が「会社の儲け」としてのマージンだといえるとかと思います。
そして、次の問題は現派遣法で公開が義務化されているマージン率は「会社平均」であって決して「個人のマージン率」ではありません。平均は、個々の値を足し合わせてその個数で割って得られた数字にすぎません。
例えばA君のマージン率は40%、B君のマージン率は30%、C君のマージン率は20%、でも会社平均のマージン率は30%になってしまいます。派遣社員の方が最も知りたいのは会社の平均マージンではなく自分自身の情報です。それにも関わらず会社平均では、自分自身のマージン率は一向に見えてこないのです。
今後は、会社平均という曖昧な情報より個々人の派遣契約の内容を開示することが必要かと思います。なぜなら私たち派遣会社は労働者の労働対価を直接の収益源としているからです。だからこそ他の事業分野よりも情報がクリアーでなければなりません。
派遣会社の情報公開が進めば今後は派遣会社自身の色分けがはっきりしてくると思います。給料にこだわる方は還元率がいい派遣会社のA社、スキルアップを目指す方は社内研修が充実しているB社、クライアントの正社員になりたい方は紹介予定派遣が充実しているC社など、派遣会社の特色が明確になるかと思います。そうすれば労働者も派遣会社を選びやすいしネガティブで語られるこの業界も少しは社会のお役に立てるのかもしれません。
㈱リツアンSTC 野中社長よりの寄稿
********************************************≪大手派遣会社の公開状況≫
ある意味こちらも真打ち。去年もあげつらいましたが大手とされる派遣会社のマージン率などのデータの公開状況ですが、去年はスタッフサービスさんを除いてホームページを確認するだけでしたが今回はホームページ上で公開していない大手各社にメールを送って、「陽月秘話の花園祐じゃ!データちょうだい!」と要求してやりました。その驚きの結果は以下の通りです。
≪ホームページ上で公開している会社(´▽`)≫
・アデコ:去年は見られなかったが今年はホームページで公開していた。
・インテリジェンス:以前からホームページで公開している。
・テンプスタッフ:系列ともども以前からホームページで公開している。
≪データを提供してくれた会社( ・∀・)≫
・ザ・アール:即日ですぐデータを提供してくれた。
・マンパワーグループ:連絡してからすぐデータを提供してくれた。
・メイテック:即日ですぐデータを提供してくれた。
≪返信はしてくれた会社┐(´д`)┌≫
・パソナ:データは拠点にあるので拠点に来てくれと遠回しな公開拒否。
・ニチイ学館:今夏のホームページ公開に向け準備中のため遠慮。
≪無視してきやがった会社(#゚Д゚)y-~~≫
・スタッフサービスさん:無視、返信すらなし。
・フルキャスト:無視、返信すらなし。
・マイナビ:無視、返信すらなし。
・リクルートスタッフィング:無視、返信すらなし。
以上のように、はっきりと対応が分かれました。
提供してくれた会社は、見ようによっては脅迫文にしか見えない文面での要求にもかかわらず総じて協力的で返答時期も早く、この場を借りて改めてお礼申し上げます。まぁホームページ上できちんと公開してくれればこれ以上ないんだけど。
ニチイ学館について詳しく述べると、こちらでは今夏のホームページ公開に向けあれこれ編集中とのことでそれまで待ってほしいと返答があり、私としてもデータを集めることよりもそうした情報公開を促すことが第一の目的であるため「うん、おっけー」とハーフタレントのように返答しました。
で、公開してくれなかった会社ですが、まさかマジで何も返答なく無視されるとは思いませんでした。遠回しな公開拒否ですが一応返信くれたパソナなんかまだまともな会社なんじゃないかと思える始末です、いやマジで。
特にスタッフサービスさんには去年にもメール送ってその時はこちらも、「お近くの拠点で」という回答拒否でしたが一応は返信くれたのに、今年に至っては他社同様に無視してきました。お互い知らぬ仲でもないってのに何なんだよこの対応はと思い、悔しいからデータファイルの中でスタッフサービスさんだけ太文字にしてやりました。
≪メイテックについて≫
今回の調査で一番やり取りが多かったというか多くなったのはメイテックさんで、「送ってもらったデータ入っているZipが開けない(/Д`)」という私からのうざい問い合わせにも真摯に対応していただきました。
メイテックさんのところの拠点は前述したように派遣料金・賃金が非常に高い一方でマージン率も平均を大きく上回っていますが、これについてはメイテックさんも気にしてるのかメールで、「社員エンジニアにはお客様との対価についてすべてオープンにしております」と言及した上、「定年60歳に到達した社員エンジニアも2015年9月末現在で累計151人に達した」と述べ、数ある派遣会社の中でも定年に到達する社員がいるのは唯一メイテックだけだと誇っていました。実際に私も余所で定年に達する派遣社員がいるという話は聞いたことが無く、この話は真実だと思います。
やや持ち上げ過ぎな気もしますがメイテックさんに関しては以前から何度か噂を聞いており、2008年のリーマンショックの際も派遣会社各社で派遣先の無くなった派遣社員の解雇が溢れた中、メイテックだけは解雇へと踏み切らずに抱え続けたというエピソードを人伝に聞いており、実際この広報部とのやり取りをしていて噂に違わない印象を覚えました。記者経験者の口から言わせると、案外広報部を見ればその会社の特徴というか性格はわかるものです(トヨ〇さんは官僚的だとか)。
何度も言いますがマージン率が高いから即ひどい会社というわけではなく、あくまでマージン率は一つの比較指標であってその他のデータとも多角的に比較、検討する必要があります。少なくとも言えることはネット上で公開する手段を持ちながら公開しない会社は情報公開に熱心ではなく、さらに公開を要求したにもかかわらず無視するような会社は企業姿勢として如何なものかということ、そして今回の調査から導き出せた結論としては、
・マージン率の高さは派遣料金・賃金の高さと深く相関する
・派遣料金・賃金が低いにもかかわらずマージン率が高い所は要注意
この二つの結論は一般化してもいい結論じゃないかと自信を持って主張します。
この結論に至れたのもメイテックのデータが大いに参考になり(見ていて気が付いた)、勝手ながら本調査に最も貢献してくれたMVPとさせていただきます。
また記事中では言及していなくとも、きちんとホームページ上でデータを公開して引用させていただいた各社に関してはここで改めてお礼を申し上げさせていただきます。公開しない企業が多い中、孤高を保って公開し続けるその姿勢は真に見本たる姿勢であり、他の誰も評価せずとも私は一人でもこれらの会社に強い賛辞を贈り続けるつもりです。
以上、非常に長い長文となりましたが本調査報告を終えます。「優良派遣事業者認定」の欺瞞性、調査中の苦労話についてはまた次回の記事でしつこくやるので興味があればそっちも読んでください。