最近上海市内のマクドに行くと、ほぼ必ず「ガンダムSEED」の主題歌だった「INVOKE」が流れています。日本語歌詞のままで。
原曲は20年以上前の曲で、尚且つ日本語歌詞なのになぜ流れるのかいろいろ不思議ですが、この作品自体が平成後期に大ヒットし、中国でもファンも多いので聞きたい人とか、わざと選曲する人がいるのかもしれません。なお「ガンダムSEED」自体は放映当時、非常に賛否両論が激しくてその後の話題になるたびに議論を呼んでいましたが、ここ数年はようやく評価が固まってきたのかそういう議論は見なくなりました。映画化についても、発表以来続報を見なくなりましたが……。
その賛否両論ではないですが、ガンダムの最初のシリーズ放映からすでに半世紀近く経っていることもあってか、時間の経過とともに評価が変わるキャラクターも見られます。そうした評価の逆転が最も激しいキャラを敢えて上げるとしたら、「0083スターダストメモリー」の敵役であるアナベル・ガトーこそが変動幅ナンバーワンのキャラではないかと密かに見ています。
ガトーは作品公開当時、ジオンに与する敵役ながらその理想に準じた忠義の士として非常に人気があり、主人公のコウ・ウラキが若干パッとしない(特にスパロボで)キャラであったこともあり、文字通り主役を食う人気キャラでした。
しかし作品公開から時間が経ち、具体的には2001年のニューヨーク同時多発テロが起きたあたりから、ガトーの人気は目に見えて落ちていったように見えます。というのも当初でこそジオン本国はほろんだけれど、その理想は捨てずに残党として活動し、最後には部下の撤退を支援するため特攻したというサムライチックなキャラとして見られていましたが、同時多発テロ以降は「テロリストでしかない」といった評価へと変わっていきました。
実際に作中のガトーの言動を追うと、ジオンの理想を掲げてはその理想のためなら何したっていいというなりふり構わぬ態度が見られ、盗んだ核弾頭をぶっ放したり、連邦に痛手を負わせるためだけにコロニーを地球に落としたりなど、巻き添え喰らって死ぬ人なんか全く眼中にない過激な行動ばかりとっています。でもってこれらの行動が彼らスペースノイドに貢献したかというと全く逆で、こうしたテロ行為を取り締まるためにティターンズが結成され、スペースノイドへの弾圧がより強まるという真逆の結果を引き起こしています。
こうしたガトーの行動は冷静に見た場合、ただ暴れるだけ暴れて全く事態を好転させない、っていうか無関係の人を無意味に巻き込むテロリストに過ぎないという評価が、先の911テロをきっかけに広がっていきました。やはり実際のテロ行為を目の当たりにすると冷静になれるというか、「こいつやっぱおかしいじゃん(´・ω・)」とみんなはっとなって気づいてきたのかもしれません。まぁ公開当初はこうしたガトーの負の面に気づかれなかった辺り、作品上の演出は上手だったんだろうな。
一方、ガトーの評価が急落するのに反比例してうなぎ上りに評価が高まっていったと思うのは、同じ作品に出てくるシーマ様ことシーマ・ガラハウだと思います。作中で彼女はガトー同様にジオン残党のデラーズ・フリートに合流こそするものの、連邦軍にも内通し、コロニー落とし作戦の最終局面で裏切りを果たしています。結果的にはその後、上官が死ぬきっかけを作った因縁もあり、裏切った後なら本当は味方であるはずの主人公に母艦を撃墜された挙句、本人も彼我機体性能の差に負けて討ち死にする羽目となりました。
作中で見ると敵軍とはいえ裏工作を経て裏切りを働き、また先に書いた通り主人公の上官が死ぬきっかけを作っていることから憎らしい敵役であるものの、作中のシーマの行為は俯瞰的に見た場合、コロニー落としという無差別大虐殺を止める行為につながる重要な働きになります。むしろシーマの裏切りというか裏工作を、本人らは全くその意識はないものの、主人公らが妨害してしまっており、結果的にそれがコロニー落とし大成功につながるという結果になっています。
なおゲームの「ギレンの野望」とかでシーマの内通を受諾し、主人公らに余計な活動をさせなければ、物の見事にコロニー落としを食い止めることができたりします。
以上のように、近視眼的な主人公らの目線だとシーマは憎らしい敵役であるものの、こと連邦軍によるテロ活動防止という面では非常に積極的な役割を果たしています。シーマ自身は大義を以って動いているわけでなく、連邦への内通も自己保身が最大の目的ではありますが、コロニー落としというテロ活動を変に美化してみていないあたりはガトーらよりはずっとまともな神経を持っていると言えるでしょう。
さらにシーマの場合は、裏設定で元々ジオン軍の正規軍人、しかも女性なのに開戦当初より佐官級という超エリートながら、戦時中は上官命令で毒ガス作戦など汚れ仕事を延々とやらされ、敗戦後にほかの部隊同様にアクシズへ逃亡しようとしたら向こうから拒否されたりという、かなり悲しいバックグランドを持っています。おまけに故郷へ帰ろうとしたら故郷のコロニーは兵器に改造されてもはやなく、食い詰めた部下を生かし続けるために宇宙海賊となるなど、名作劇場のヒロインばりに苦労と慈愛に満ちた生涯を送ってたりします。
この辺の設定は元ソ連軍士官で、崩壊後に部下を養うためロシアンマフィアとなった「ブラックラグーン」のバラライカと共通する点が多いでしょう。
以上のような、自己保身に走るのも仕方ないと思わせられる悲しい過去に加え、テロ行為に対する批判的見方の広がりに伴い、悲しい過去を背負いながら最終的にはテロリスト集団を裏切って味方に付こうとした超でかい(推定180㎝超)おばさんという評価が広がっていき、なんかシーマの人気がこの数年内でも急上昇している気がします。
実際にそうしたシーマ人気を制作側も分かっているのか、「逆襲のシャア」の似たような中堅敵役のレズンとは違い、シーマは外伝作品とかで登場したり、ショートムービーなどでゲーム内に登場するなど、そのキャラの掘り下げが結構多い気がします。特に「ギレンの野望」のムービーで描かれた、知らないまま参加させられた毒ガス作戦直後に半狂乱となる姿には多くの人間が同情したでしょう(´;ω;`)ウッ…
私の味方だとシーマ人気は未だに上昇カーブを描いているように見え、あと何か一押し、それこそシーマを主人公にした新作外伝漫画なんかが作られたら、一気にその人気を不動のものにするような気がします。最近萌化が激しいハマーンさん同様、シーマも萌えキャラ化するのかなと思っていたら、なんか昔のギャルゲーで「アンナ・デラーズ」という喫茶店でウェイトレスとして働く「嶋さん」ってキャラクターが既に作られていたことをつい昨日知りました。