前述の通り中国で今スラムダンクが非常に盛り上がってろ、日系メディアでもその人気を取り上げる記事がいくつか出ています。ただどの記事も盛り上がっている現況の説明だけで、何故スラムダンクが中国でこれほど人気なのかについてはあまり言及がありません。
かと思えば、「中国で日本のアニメが開放されたばかりの頃にスラムダンクが放映され、初めて見る日本のアニメだったことから人気が出た」ともっともらしく説明している記事も見られましたが、断言してもいいですがこれはフェイクです。中国ではそれ以前から日本のアニメがテレビなどで放映されており、「一休さん」や「ドラえもん」などがスラムダンク以前から人気を得ていました。むしろスラムダンクはこれらに続く人気アニメ第二世代で、その後「ワンピース」や「ナルト」などの第三世代へと続いてく感じです。
話を戻すと中国である程度日本のアニメが認知されていた頃に放映されたのがスラムダンクですが、細かく確認まではしていないものの、恐らく中国人にとってこの手のスポーツ作品は初めて、少なくともそれ以前はあまり一般的でないジャンルだったのではないかと思います。日本国内では「巨人の星」をはじめスポ根アニメは昔から存在していましたが、中国でスラムダンク以前にこの手のチームスポーツでトーナメント戦を戦うような作品で人気がある作品を私は知りません。個人スポーツ作品だったらもしかしたらあったかもしれませんが、仲間とともに戦うチームスポーツ系ジャンルとしては、中国だとスラムダンクがほとんど初めてみたいな状態だったのではないかとみています。
それに加えて、日本では当たり前の存在ですが、中国だと「部活」はファンタジーであるという点も物珍しさに一役買ったのではとみています。中国でスポーツというのは最近はまだ変わってきてはいるものン、以前は本当にごく一部の体力に秀でたエリートが選抜されて、オリンピックなどで他国を打ち負かすためだけに行われるという側面が色濃くありました。逆に、一般人は趣味レベルでもあまりスポーツを行う環境や風潮はなく、学校に至ってはそもそも勉強しかさせず、課外教育としての部活は現在でもほとんどの学校で行われていません。
代替として、近年は学外で青少年向けスポーツクラブや団体が組織され、そういうところでサッカーとかバスケをやる子供が多いです。ただそれでも、学校単位でチームが組まれることはほぼなく、インターハイや甲子園などのように学校別チームが試合するっていう習慣もありません。
そのため日本のアニメで当たり前のように出てくる部活のことを中国人は、「学校でスポーツが行われるという設定のファンタジー世界なんだな(´・ω・)」という風にマジで見ていて、ああした部活の光景は現実のものではないと本気で信じています。これは実際に自分も中国人に確認しており、マジでファンタージだと中国人は見ているということを教えてもらいました。
そうした、しかもインターネットのなかった昔の中国人からすれば、スラムダンクは現実には存在しない世界で、高校生がバスケで戦い合うというファンタジーな展開に見えたのではないかと思います。敢えて例えるなら、日本人がドラゴンボールを見ているような感覚に近かったのかもしれません。更にトーナメント形式の試合展開も多分見慣れておらず、ドラゴンボールで初めて天下一武闘会が展開された時に当時の少年少女らが抱く様な感動を、スラムダンクで得ていたのではと推測しています。
以上のような、日本人からすればバスケ要素を除けば連載当時において比較的見慣れていた、学校の部活単位でのチームスポーツ戦、トーナメント形式の試合展開という要素が、中国人にとってはほぼ初めて触れる要素で、日本人以上にスタイリッシュ且つ新鮮に見えたのではないかと考えています。更に日本国内でも人気が得られたスラムダンクそのものの作品的価値も加わって、中国で当時の世代に強い印象を残したのでないかとみています。
なおストーリー、というかキャラクターに関して言うと、日本では流川楓や中の人がトレーズな三井寿が凄い人気でしたが、周りの中国人の間では主役の桜木花道が一番好きなキャラによく挙げられます。この点について自分なりに分析すると、多分彼がバスケ素人として一から成長していく要素が中国人の共感を得たのではないかと思います。
以前にもJBpressで紹介しましたが、割と中国人は小が大を飲む展開を好む傾向があり、弱かった人間が徐々に成長して強者を打ち負かす展開に大喜びします。そうした成長要素がこの作品だと桜木が一身に担っており、またチーム単位でも弱小だった湘北高校が勝ち上がっていく展開に胸を躍らせたんだとも見ています。こうした要素も、それまでの中国の娯楽作品にはなかった要素だったのでしょう。
現在においてはさすがに中国においても上記のような要素はある程度一般化し、中国国内で作られるスポーツジャンルの娯楽的作品でも見られる要素ですが、90年代のあの頃においては多分マジで存在しておらず、スラムダンクがファーストインプレッションであった可能性が高いですう。特にスポーツに関しては現在でもそうであるように、中国は卓球などの個人スポーツが盛んで団体スポーツはやや弱いところがあり、90年代はその傾向がより顕著だったことを考えると、チームで戦うスポーツはそれだけで物珍しく、尚且つスラムダンクなどの作品で描かれる仲間との連帯は「俺もこんな仲間たちを持ってみたい(´・ω・)」と強く思わせた気がします。
総じていうと、中国人にとって初めて触れたスポーツジャンル作品であったことが、スラムダンク人気をここまで高めたと考えています。日本でも「巨人の星」が連載当時にすごい人気だったことを考えると、日本人にとっての「巨人の星」が中国人にとっては「スラムダンク」だったのではないかというのが自分の結論です。
最後に、中国人にとって部活はファンタジーだと言いましたが、現実問題として超能力の出てこないスポーツ漫画における部活であっても、実際ファンタジーじゃないかと自分は見ています。現実の運動部、特に強豪校では陰湿ないじめが多いし、顧問がスポーツ科学の知識なくて子供の体壊したりというのが今でもあって、あんな素敵でキラキラした世界は実際ピーターパンもいいところでしょう。
警察漫画の「ハコヅメ」みたく、いっそ「これこそがリアルなスポーツ漫画だ!」などと、現実のスポーツ強豪校の実態を描いた漫画とかでないかなと密かに期待しています。まぁ人気でないだろうけど。
4 件のコメント:
早速記事にしていただいてありがとうございます。
中国人にとっては部活が、女子高生が戦車バトルで競い合う話みたいに見えてるんですかね(笑)。
今回の映画に関する報道を見るに、キャラのデザインが比較的リアル寄りで、アジア人の原型を留めながらかっこよく見える作画も好まれてる要因の一つらしいですね。
いずれにせよスポーツ漫画のパイオニアになったのは間違いなく、その意味では日本で言うと巨人の星と言えますが、バスケの普及に貢献したという意味ではキャプテン翼のポジションでもあるんだろうなと思います。
スポーツ好きにすでにNBAの人気が出てきていた中で、スポーツにあまり興味を持たない層にバスケを広めた功績は大きいみたいです。
こちらこそいいネタ振ってくれてありがとうございます。おっしゃる通り中国にとって部活はガルパンだというのはいいたとえです。
昨日中国人の友人と会った際にこの話をして、リアルタイムで中国でスラムダンクを見ていた友人も納得してました。
一点だけ付け加えると、スラムダンク以前に中国でも、同じスポーツ系ジャンルでキャプテン翼などが見られたものの、それらは海賊版のビデオやDVD(時代的にVCD?)でしか見られず、上海など裕福な地域を除けばビデオデッキなどがない家庭も当時は多く、見れた人は限られたそうです。
それに対しスラムダンクは中国でテレビ放送されており、全国すべての中国人が一緒に見られた初めてのスポーツアニメで、このテレビ放送の差がほかのスポーツアニメとの差としてでかかったと補足されました。
スラムダンクの中国での人気報道は
こちらでも大々的に報道されておりますが、
先日、その流れで某アメリカ通コメンテーターが
NBAの選手のギャラの異常な高さには
テレビの中継使用料があり
中でも中国でのNBAの衛星中継契約の数が
25%~30%程度あると言われていて
中国はアメリカNBAにとって上得意先となっている
とのハナシで要するに中国でのバスケ人気は
老若男女問わず相当なものらしいということですが、
花園さんのお話から察しますに
部活文化どころか学校の授業で
「バスケ」の授業すらナイ国で本当に
そんなバスケヲタ文化が定着しているのか?
などと素朴な疑問にかられてしまいました。
バスケファンタジー説の方が確かにシックリ
きたのですが現場の花園さんからみて
やはり上海に熱狂的なバスケ人気という
文化があるのでしょうか?
WBCでの中国代表の活躍ぶりの報道含め
そのへんの最近の中国での
スポーツ観戦文化についてお教えいただければ
とお願い申し上げますm(__)m
それとBMWのアイス騒動の件はやはり
こちらではBMWの「中国人差別問題」として報道
されておりましたが花園さんのお話伺って
な~んだとまた呆れてしまいました。
貴重な記事を毎回ありがとうございます
m(__)m
早速ご質問の中国バスケ人の裏側について記事を書きました。この辺は割とはっきりしているので明確にお答えできます。
スポーツ観戦に関してはやっぱり政府当局もとやかく言わず、ファン同士で好き勝手に盛り上がれるというのが中国人としても楽しみやすい要素なんじゃないかと思います。回答記事にも書いている通り、世界各国のトップリーグの試合を自由にみられるため目の肥えたファンは結構多く、サッカーをはじめ自国の選手やリーグのレベルの低さも自覚しているため、以前とは違って国際戦に関しても割とフラットな目で見ることができてきているように見えます。
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