自分が今の仕事を始めるに当たって、経済学部も出ておらず経済方面の知識が少ないにもかかわらず経済記事がきちんと描けるかどうかが正直な所不安でした。ただこの不安は結果論から言うと杞憂に過ぎず、というのも自分以上に経済のことよくわかっていない人が社内には多かったです。というのも今の会社は経済がわかる、わからない以前に中国語と日本語の能力が求められるため、あまり経済方面の知識力が問われることが低いということが大きな要因なのですが、ただどうも業界内を見回していると大新聞の経済部記者でも知識的に結構怪しい人がちらほらおります。
私がこう思うようになったきっかけは先日にイギリスで問題になったLIBOR事件の記事なのですが、当時にこの問題について書かれた記事をいくら読んでも内容が全く把握できませんでした。単純に私自身の理解力が不足しているだけだったかもしれませんが、どうもあの時の記事を思い出すにつけ、書いてる記者自体があの問題の本質を誰もわかっていなかったのが最大の原因だと思います。というのもどの記事も、「イギリスでLIBORが問題になっている」、「イギリス当局が銀行に怒っている」としか書いておらず、何の理由で、しかも英銀がどういう不正をすることによってどんな利益を得るのかという構造を誰も説明していませんでした。
LIBORに限らず、金融関連ニュースは複雑な話が多いために基本的にどの経済記者も書くのを苦手としております。さすがに日経(読んでてわかりづらいが)ならまだしも、朝日や読売といった大手新聞ですら内容を理解していないと見える上っ面だけの記事が載ることもあれば、問題の核心を敢えて濁して書いていると感じる向きも多いです。かくいう自分のいる会社でも金融関連はみんな書きたがらないので上海証券取引所のシステムが一部変わるとかそういった関連の話は無視することの方が多いです。ただこれが香港だったら話は変わってきます。香港は金融と不動産が経済ニュースの8割を占めるために必然的に取り扱わなければならず、自分も香港にいた頃は吐きそうになりながらブルベア証券とかいうデイトレードの話とかを一生懸命書いていました。幸いというか元バンカーの記者が同僚にいたのでわからないところはすぐ確認できましたが。
金融に限らず、ちょっと面倒な分野というか業種の話はやっぱり書くのが苦手な記者は多いです。所詮は物書いてるだけでその業界で働いたというわけでもないので限界があるのはしょうがないですが、日本の場合は自動車をはじめとして製造業が多いせいかこっち方面の記事だけが得意という人も少なくありません。まぁこれは逆説的に言うと製造業関連の記事は書きやすく、生産能力とか投資額とかをそろえて書けばそれなりに出来上がってしまうという裏事情があるためですが。ただ製造業でも、電機・電子というかエレキ分野は苦手な人は本当にどうしようもないという人もおります。特に通信関連だと多少専門用語が出てくるため、「LTEって何?」から聞かれることもあります。
参考までに自分の得意分野、苦手分野を書きに簡単にまとめます。
・エレキ(△):必要最低限のことは書けるが、特集記事とかはそういうのは書かないし書く気も起きない。
・自動車(○):決して詳しいわけではないが、社内に車好きがほかにいないために相対的に質問が集まってくる。
・金融(○):同じく詳しいわけではないが、ほかに書ける人があまりいないため集中して書くことが多い。
・小売・流通(×):自分自身がこの業界に全く興味がないため、書く記事も淡白で社内で評判が悪い。
・繊維(△):中国でも年々盛り下がっている業界なだけに、書く機会自体がほとんどない。
・ゲーム(◎):ほかに書ける人がいないというのもあるが、興味が強いことから社内で恐らく一番上手く書けると自負してる。
・IT(○):一通りの用語は知っているのと、ネット広告の仕組みがまだわかることから質問がよく来る。
・エネルギー(×):専門性が非常に高く応用し辛い分野。中国では石炭の話がメインで、標準炭という単語がよく出てくる。
・観光(×):ホテル経営関連のニュースは壊滅的。パリス・ヒルトンのスキャンダルなら書けるが……。
私の場合はざっとこんな感じです。一番ベストなのはどの業界でも万遍なくいい記事を書けることですが、やはり興味のある分野の方にこういうものは偏っていくと思います。ただこれはあくまで経済記者における基準であって、ほかの社会部とか芸能部の記者と比べればどの業界でもまだ強いという自信があります。その分、芸能関係は本筋の人には負けるでしょうが。
なお敢えて一つ苦言を呈すと、日本の政治部記者はもっと経済を勉強すべきだと私は感じます。政府の経済政策批判もとんでもなくピントが外れた記事が多く見受けられ、今読んでいる本で学者も指摘しておりますが、円高の責任は日銀にあるのに政府ばかり批判し、日銀がほくそ笑んでいるという現状もあります。経済に限るわけじゃないですが、日本の政治記事は批判ばかりでなんていうかつまらないです。
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