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2017年5月20日土曜日

各所で数字が異なる自殺率統計の怪

 あまり人に自慢できるようなことではないのですが、実は密かに自殺統計とかにはやたら詳しいです。何故かというと大学二回生の頃に授業でなんでもいいから社会学に関することでレポート書いてこいと言われ、たまたまその頃に集団自殺が流行り始めていたので、自殺をテーマに一本レポートを仕上げました。それ以降もことある毎に世界の自殺統計を見続け、2008年か2009年くらいに自殺率で日本が韓国に追い抜かれた時とかも何故か妙な悔しさを感じたりするほどだったのですが、そんな私から見て以下の報道は久々に血が騒いだというか、一見して疑問を感じる内容でした。

日本の自殺死亡率ワースト6位(ホウドウキョク)

 上記のニュース内容はホウドウキョク(密かにこのネーミング嫌ってる)だけでなく他のメディアでも全く同じ内容で報じています、っていうか多分共同か時事の原稿をそのまま使っている可能性が高いと思いますがそれはさておき、私はこの記事に書かれている内容を見て、「この内容は本当に事実なのか?」とすぐ疑問を覚えました。いったいどの点に疑問を覚えたのかというと、日本の自殺率がワースト6位と書いてある点で、率直に言って近年自殺率が減少傾向にある日本で、ちょっと前までトップテンにすら入っていなかったのにどうして6位に入るのかと奇妙だと覚えました。また、

「自殺者の数が最も多かったのは、リトアニアの30.8人で、次いで韓国(28.5人)、南米のスリナム(24.2人)と続く。」

 という記述もなんとなく私の認識から遠いというか、リトアニアが入っていることはともかくとして世界屈指の自殺大国であるロシアの名前が入ってないのに疑問を持ちました。

韓国の自殺率、世界4位に低下=農薬販売制限が奏功(朝鮮日報日本語版)

 そんな風に探しながら思い出したのが上の記事です。上の記事は韓国メディアが書いた自殺率の国際統計に関する記事で、この記事内容によるとWHOが5/18に自殺率の統計を出したそうで、それによると「スリランカ(35.3人)、リトアニア(32.7人)、ガイアナ(29人)に続いて(韓国は)4番目に多かった」そうです。
 この時点で「韓国は自殺率28.5人で世界3位」と書いた日本の報道とはずれが生じている一方、自殺率の人数は日本の報道は韓国側報道の「28.4人」とほぼほぼ被ってます。

World Health Statistics 2017: Monitoring health for the SDGsメニュー報告書(WHO)

 こうなりゃ原典当たるしかないと思い直接WHOのページに行って上記の報告書とかを読みました。件の数字は報告書61ページの各国の自殺率で出ており、このページの情報によると韓国側の報道は記載内容に沿っており間違いはありません。
 一方、「世界6位」と自称した日本側の報道というか厚生労働省の発表ですが、この数字の根拠はやはり疑問というかはっきり言えばおかしいとしか言いようがありません。WHOの報告をざっと見る限りだと日本の自殺率は19.6人で、この数字以上の国を目につく限り上げると韓国、モンゴル、リトアニア、カザフスタン、ベラルーシ、ポーランド、ラトビア、ハンガリー、スロベニア、ベルギー、ウクライナ、ロシア、スリランカ、ガイアナ、スリナム、赤道ギニア、アンゴラがあり、世界6位はおろかトップテンすら到底望めない立場にあります。

 断言してもいいですが恐らくこの日本の自殺率国際順位が6位というのは統計操作された結果であり実態を表していません。日本側の報道では、「今回の国際比較は、2013年以降でデータがある国のみを抽出したため、全ての国を対象にしていない」と注意書きが入っていますが、上記のWHOデータは2015年に統計が取れる国を対象にしたデータであり、また日本一国の政府がWHOを超える統計データを作れるとは私には思えず、上記の変な注意書きは露骨に統計操作をしたことを言い訳する目的で述べた内容でしょう。

 では何故厚生労働省は統計操作を行ったのか。私が考えるに理由は自殺対策予算の獲得で、そのために日本の自殺率が世界的にも極端に高いということをアピールしようとした所作だろうということです。厚生労働省は以前にも「GKB47」とかいうわけのわからないネーミングで自殺対策キャンペーンを組もうとしていたこともあり、結構この方面で妙な動きというか小賢しい細工をしているように思えてなりません。
 賢しい厚生労働省もさることながら政府発表、というよりもはや大本営発表を鵜呑みにしてそのまま流すメディアというのもどうかと思います。数字の根拠とか原典や情報ソースに当たらず、明らかに誤った情報を垂れ流しており、一見してあのデータに疑問を覚えなかったのか呆れてものが言えません。もっとも、自殺統計を日常的に見ている私の方がおかしいとも思いますが。

 最後に、WHOのサイト内にあるデータベースでは先ほどの報告書とは別に自殺率の統計データがまとめられていました。こちらの統計データですが、どうも先ほどの報告書のデータと結構数字に差異があり、もしかしたらどっちかが統計処理されてたり、もしくは報告書の方が最新版として数字が更新されているのかもしれませんが(発表時期は1か月程度しか変わらないのに)、世界的な自殺率順位を見るのにはこっちの方が見やすいので、参考として載せておきます。
 それにしても、仕事終えて帰ってきて疲れているのに、自殺統計関連情報を延々数時間調べ続けてこの記事を書いている自分が不思議に思えてなりません。

<2015年時WHO自殺率国際統計データ(年齢処理済み、男女混合) 上位30位>
順位 国名
自殺率
1位 スリランカ 34.6
2位 ガイアナ 30.6
3位 モンゴル 28.1
4位 カザフスタン 27.5
5位 コートジボワール 27.2
6位 スリナム 26.9
7位 赤道ギニア 26.6
8位 リトアニア 26.1
9位 アンゴラ 25.9
10位 韓国 24.1
11位 シエラレオネ 22.1
12位 ボリビア 20.5
13位 中央アフリカ共和国 19.6
14位 ベラルーシ 19.1
15位 ポーランド 18.5
16位 ジンバブエ 18.0
17位 ロシア 17.9
18位 スイス 17.9
19位 カメルーン 17.5
20位 ラトビア 17.4
21位 ウクライナ 16.6
22位 ブルキナファソ 16.5
23位 ベルギー 16.1
24位 インド 16.0
25位 ハンガリー 15.7
26位 日本 15.4
27位 トーゴ 15.4
28位 北朝鮮 15.2
29位 ウルグアイ 15.2
30位 ナイジェリア 15.1

出典:Suicide rates, age-standardized Data by country(WHO)

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