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2023年9月6日水曜日

ゲームレビュー:ベオグラードメトロの子供たち

Children of Belgrade Metro

 はいというわけでつい先ほど、上記リンク先で紹介されている「ベオグラードメトロの子供たち」(通称、ベオチル)というノベルゲーを全クリしました。結論から言うと、かなり期待外れでした。

 この作品は以前にも紹介した「真昼の暗黒」というノベルゲーの作者が作った、現状では最新の作品に当たります。この作者はほかにも「MINDCIRCUS」や「CODA」というゲームも作っており、どれも無料ながら非常に尖った内容で、暴力描写の激しさはもとより陰鬱な文体で非常に抜きんでています。
 また「劇中劇」または「断片的記録」形式で描かれることが多く、作中の内容はあくまで記録者の主観に過ぎず、ほかのゲーム上で示される情報と照らし合わせると明確な矛盾があり、どこまで真実なのかという点が非常にあいまいにされているのが大きな特徴となっています。

 今回、ベオチルを手に取ったのは過去作品が無料ながら非常に面白く、ベオチルに関しては有料ですがそれでも遊んでみたいという興味を持ったため、販売サイトからきちんと正規購入して遊んでみました。もっとも、定価で買って三日後にSteamで半額セールが始まったときには軽く鬱になりましたが。

 同じ作者の他の作品同様、このベオチルもノベルゲーであり、プレイヤーは表示される文章をゲーム画像や音楽と一緒に読むだけです。選択肢による分岐もほぼなく、読んでは進み、進んでは読むだけでゲーム性についてはほぼ皆無です。
 簡単にあらすじを説明すると、セルビアの首都であるベオグラードを舞台に、巨大企業の陰謀によって大量発生した超能力者が時にバトルし、時に犯罪に走り、時に超能力者発生の真相を追っていくという内容になっています。登場人物の多くは主人公を含め中学、高校生であり、一部は家庭環境の問題から建設が途中で放棄されスラムと化したメトロ(地下鉄)構内を根城にたむろしていて、それが作品タイトルにつながっています。

 以上の内容からこのゲームはぶっちゃけシナリオと演出の質がその評価を左右するわけなのですが、シナリオは決して悪いわけではなく、実際中盤に話が動くというか急に残虐シーンが増えてからはグッと面白くなって、一気に最後まで読み進めるほど没頭しました。相変わらずというか陰鬱な文体は冴えており、ベオグラードという日本人にとってあまりゆかりのない世界観で日本人ゼロで進められる異国情緒あふれる内容は非常に惹きつけられます。
 ただ本質的にその陰鬱な世界観と相性が良さそうに見える建設途中で放棄されたメトロが、話が面白くなってきた中盤からあまり舞台にはならなくなります。一応、ラスト超能力バトルの舞台にはなっていますが表示されるゲーム画像があんまメトロっぽくなく、文章読んでても普通の建物の中で戦ってるようにしか見えませんでした。もっともそれ以前に、アクション方面の文章に関してはそれほどうまいように見えず、読んでて作中のキャラクターの動きがつかめず、何度も「LOG」ボタン押して読み返さざるを得ませんでした。近年のノベルゲーでこれほどログを読み返したのはこの作品が初めてです。

 話をシナリオに戻すと、話の核となる超能力者がそこまで特別じゃないというか、むしろありふれ過ぎている気もしました。各話に最低1人はニュー超能力者が出ますが、能力はみんなバラバラで、しかも大体その1話限りでほぼ退場してしまい、なんかどれもキャラが薄いです。また作中では超能力者が街中に溢れていることは社会で周知されており、なんか手品のうまい奴らがその辺にいるような扱いになっており、その存在がそこまで深くシナリオの展開に絡んでこないのが逆に違和感を覚えました。

 そして一番の問題は、語り部たる主人公にあると言わざるを得ません。主人公は超能力のない無能力者で、性格も若干ひねくれているため家庭にも学校にも居場所がなく、唯一気の合う親友のいるメトロに入り浸っているという割と典型的な陰キャ主人公です。話はこの主人公の目線で進められ、なんとなくどこにも居場所がなく、目にする超能力者にあこがれを抱くとともに孤独を深めるという心境を作者は描きたかったのかなという気がするのですが、見ている側からすると主人公の孤独感に一切共感できないという点がこの作品の最大の問題点です。何故そうなるのかというと、作中において主人公を否定する存在が誰一人も存在しないためです。

 やってみればわかりますが、ぶっちゃけこの主人公は全登場人物からマジ頼られるとともに深く信頼され、作中で数年ぶりに再会した相手からもその再開(作中でも「再会」ではなくこう書かれている。多分誤字)を大喜びされるほど交友関係に恵まれています。家族に関しては優秀な妹に対し苦手意識を持ち、その妹を贔屓する母親からはあまり相手にされずすねる心情が描かれていますが、妹は別の場所に住んでるということになっていて作中では登場せず、また母親もほとんど出番ないというか本当にいるのか怪しいくらいの薄い存在感なため、主人公が家庭で孤立しているという描写はほぼ全く描かれていません。

 本来なら、家庭にも学校にも居場所がなくメトロに入り浸り、自分の存在を認めてもらうためにマリヤというヒロインに縋りつくという話の構図になるのではないかと思いますが、メトロの親友をはじめ全登場人物の主人公に対する信頼感が非常に厚過ぎて、全く孤独そうには見えません。それでもなお孤独だと言い張る主人公を見ていると、大企業の社長令嬢であらゆる面で恵まれているマリヤにやや嫉妬めいた感情を持つ主人公に「お前も人間関係ではリア充やんけ」と言いつつ、「青い鳥」でも読んでみたらとアドバイスしたくなります。

 あんまりこういうケチをつけるのは良くないと思うものの、このベオチルで致命的に欠けているのは主人公を否定する存在に尽きると思います。それこそ主人公を教祖の如く全編にわたって全肯定し続けるネデルカというキャラクター辺りにどっか否定するシーンでもあれば、主人公の孤独感を自分ももう少し共感できたような気がします。
 っていうか、このネデルカが色々やらかした主人公を最後の最後まで全肯定するシーンは読んでて逆に冷めました。あそこまで行くとただのご都合展開が続くハーレム小説と取られても仕方ない。まだ親友のデジャンの反応は理解できるけど、ってかデジャンが主人公でよかったのに。

 ただケチは付けたものの、シナリオ自体は面白く、また演出となるゲーム画像も凝っているというか見ていて色々不安になる絵が多く、ゲームとしては間違いなく優れた作品だと感じます。とはいうものの同じ作者のほかのゲームと比べた場合、確実に「真昼の暗黒」や「CODA」などにベオチルは面白さの面で劣ると感じます。
 しかも「真昼の暗黒」や「CODA」は無料であるのに対し、ベオチルはさっきも書いたように高くはないけど有料です。実際自分も、「あれだけ面白い作品を作る人の有料作品なんだからどれだけ面白いんだろう(・∀・)」という高い期待感で購入しましたが、結果でいえば無料作品の方が面白かったわけです。わかっちゃいるけど、ベオチルが有料じゃなく無料だったら、多分こんなレビューも書かなかったことでしょう。有料というハードルアップが、悪い作品ではないんだけどベオチルの評価を気まずくさせたと思います。

 そういうわけなのでベオチルを勧められるかどうかでいえば、つまらなくはないけど「CODA」のが面白いよ、「CODA」ほどには期待しない方がいいよというのが本音です。

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