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2009年7月15日水曜日

今後の政局~小泉チルドレンの処遇

 時期が時期だけにこのところ政治関係の記事を書くのに手一杯です。もう少し間隔を空けて留学体験記を初め他の記事も書きたいのが本音ですが、毎日こんだけ書いてて足りないと言うのだから仕方がありません。

 そういうわけでまたもオーソドックスな今後の政局についてですが、現時点の情勢だと次回の総選挙では奇跡でも起きない限り自民党に勝ち目が無く、それどころか選挙に至るこれからの一ヶ月間でますます形勢が悪くなっていく可能性が高いでしょう。今朝も自ら買って出た割には選挙を直前に控えたこの時期になって突然古賀選対委員長が都議選の敗戦の責任を取るとして辞意を表明し、どこのニュース番組もその報道で持ちきりなばかりかコメンテーターも「自己保身に走った」などと辛口のコメントをしています。また現時点において、古賀氏も別にそうでもなかったけど自民党内に選挙を実質的に取り仕切れる人材も不足しており公示を控えてますます混乱するのが目に見えています。

 なお前回の郵政選挙では小泉元首相の秘書の飯島勲氏が選挙を取り仕切ったと言われていますが、私の見方では飯島氏もさることながら二階現経済産業大臣も大きく関わっていたように思えます。なので二階氏が次の選挙も取り仕切るのならまだマシなのですが、ちょっと今はすねに傷を抱えているので選挙責任者になる可能性は低いのではないかと私は考えています。
 そしてこの選挙の問題で実は今後一番大きくなっていきそうなのが、皮肉なことに前回の郵政選挙で当選した小泉チルドレンたちの処遇です。あまり大きく取り上げられているようには見えないのですが、実は昨日に面白いニュースがほんのわずかでしたが報道されていました。

選挙:衆院選・山梨2区 長崎衆院議員が自民離党 無所属出馬、正式表明 /山梨(毎日jp)

 上記にリンクを貼ったニュースは自民党の現衆議院議員である長崎幸太郎氏が離党し、次回の選挙では無所属で出馬する事を報じているニュースです。この長崎氏は前回の郵政選挙時に郵政民営化に反対票を投じた堀内光雄氏の刺客候補として山梨二区に送り込まれたものの、地区投票では堀内氏に敗北して比例で復活当選を果たした小泉チルドレンの一人なのですが、堀内氏が安倍政権時に自民党に復党したことによりかねてより次回出馬の選挙区について心配されていたところ、案の定自民党から次回選挙での山梨二区の公認を得られませんでした。

 記事を読む限りだと他の選挙区へのお国替えなどを打診されていたのではないかと伺えるのですが、この長崎氏自身が二区からどうしても出馬したいという意向を持っていたことから、自民党を離党して無所属で出馬するのを表明したのが昨日のことで、私もどっかのニュース番組でこの報道を知りました。毎日の記事でも書かれているように地元の長崎氏の支持者らも長崎氏の行動を歓迎していると事で、私が見たニュース番組では自民党支持者3000人がそっくりそのまま長崎氏についていくようだと報じていましたので、多かれ少なかれはあれども同選挙区の自民党支持者に分裂が起きているのは間違いなさそうです。

 元からこの小泉チルドレンの処遇が次回選挙時に大きな火種になると去年から言われていましたが、こうして実際に火が起こってみると改めて問題の根深さに気づかされます。これ以前にも北海道の選挙区において杉村太蔵議員が公認を得られずに涙を呑むこととなりましたし、今回の長崎氏と全く同じ状況にある野田聖子と佐藤ゆかり議員の折り合いもどこまでついているのか未知数です。
 これがまだ自民党優勢の立場であればただ単に小泉チルドレンを切って終わったでしょうが、ただでさえ地方選挙で連敗するなど不人気な今では自民党と決別したりするだけでも脚光を浴びることが出来ますし、またそうやって飛び出したところで当選に至らなくとも自民党支持者を分裂させることになります。

 ここで気になるのが他の野党、特に民主党です。ここは信長の野望じゃありませんが、そういった不安定な立場に立たされている小泉チルドレンたちにどんどんとリクルートをかけて彼らを取り込むことができれば、今後ますます状況が有利になっていく立場になります。もっとも、すでに推薦候補者が決まっている地区では難しいでしょうが。

 私としては次回の選挙で自民、民主の双方がどちらも単独過半数に届かない痛み分けで終わってしまうと、ただでさえ参院が不安定な状況のために日本の政治が大きく停滞して全体にとってマイナスになるという予想から、もはや自民に立ち直りが効かないのであれば政策すべてを評価していないまでもなんとか民主に大勝させなければと考えています。またたとえ民主が政権をとったところで維持できないにしても、一旦野党に下ることで自民党内も森喜朗を初めとした老人らを一気に掃討することさえ出来れば国民として痛みに耐える価値はあると思います。
 そういう意味もあって比較的年齢の若く議員生活もそれほど長くない小泉チルドレンらには、次回の選挙にも生き残ってほしいと陰ながら願っている次第です。

2009年7月14日火曜日

日本の少子化対策の問題点

 日本で少子化が問題だと言われ始めてすでに十年くらい経ちますが、その間あれこれ議論しては小渕優子氏がいかにもマスコットらしく少子化担当相に就いたりいくつか政策を打ち出したものの現在に至るまで少子化の流れは一向に歯止めがかかっていません。こうした状況に対し自民党も民主党もあれこれ少子化対策に予算をつけることで対応しようとしていますが、結論から言わせてもらうと私は両者の政策どちらにもあまり効果があるとは思えず、この問題を根本的な解決へと導くことはないだろうと考えています。今日はそんな私の考えと、ではどうすることが少子化対策になるのかということについてやや長めに解説いたします。

 まず基本的なデータのおさらいとして、現在の日本の出生率を説明します。この出生率というのは正式には「合計特殊出生率」といって、単純にその集団がどれだけ子供を毎年生んでいけるのかという指標だと考えてください。一般的にこの出生率は2.08という数値が一つの基準で、これ以上であればその集団は今後人口が拡大し、逆にこれ以下であれば人口が減少していきます。それで現在の日本の出生率ですが2008年のデータを引用すると1.37と、人口を維持するのに必要な2.08という数字を大幅に下回っており明らかに少子化の状態にあると言えます。なお同年のデータで日本以上に少子化が問題となっている韓国ではこれが1.19となっております。

 では何故日本はここまで少子化に陥ったのでしょうか。自民、民主の政治家はともに揃って、「養育、教育費がたくさんかかるようになったために子供を生もうとしなくなった」のが原因だとして、民主党は子供のいる世帯に無条件で給付金を行ったり高校での学費の免除を行うことが対策になると、マニフェストにまで掲げています。また自民党も若者の不安定な雇用環境が子供を生みにくくしているとして、全くやろうという素振りを見せていませんが女性の社会進出をすすめることで対策になると主張しています。

 確かに両者とも一見するとごもっともな意見を言っているように見えるのですが、私は養育費の問題が子供を生まない原因だとはちょっと思えません。理由はいくつかあってまず第一に子供を生もうとする時点で、人間そこまで考えるのかということです。よっぽど計画的な夫婦ならいざ知らず、小中高の教育費が私立と公立それぞれ概算でどれくらいかかり、大学は文系に進ませるのか理系なのか、はたまた下宿をさせるのか、これだけでも相当なバリエーションがあり、自分の十年単位での賃金カーブと比較して子供を生むかどうかを決める夫婦がいるとはちょっと考えられません。まだ第二子を産む際にこういったことを考えるのならわかりますが子供を生むこと自体そこまで計画的に進められる行為ではないいのもあり、養育費の多さが直接的に少子化に影響を与えているとは私は思いません。

 では一体何が少子化に影響を与えている原因なのかですが、そのヒントとなる格好の材料として福井県の統計調査結果があります。この福井県というのは全国的に出生率が下がる中で近年わずかながらですが出生率を高めている県の一つで、何故出生率が上がっているのかをリンクに張ったサイトでは実に事細かに調べて公表しております。あくまで私の目からですが非常に調査内容も充実しており、一度も行った事ないけど福井県を今回大きく見直しました。
 それでは本題ですが、まずこの調査結果の中で出されている「出生率と相関する指標」の相関係数の一覧を紹介します。この相関係数というデータは数字の正負に関わらず絶対値が大きければ大きいほど元のデータ(今回の場合は出生率)に対する影響度が高く、正であれば比例し、負であれば反比例する傾向を持っていることを表すデータです。出来れば元のサイトを見てすべての相関係数のデータを見てもらいたいのですが、全部紹介すると長くなるので絶対値が0.5以上と、比較的影響度の高い重要な項目に限って紹介いたします。

<出生率に対して0.50以上の相関係数項目一覧>
・女性の就業率:0.59
・共働き率:0.71
・共働き世帯割合:0.70
・労働力率:0.60
・最終学歴が大学卒以上の割合:-0.62
・婚姻率:-0.52
・平均初婚年齢(女):-0.69
・第1子出産年齢:-0.70
・未婚率(女):-0.69
・3世代同居率:0.50
・65歳以上親族のいる世帯割合:0.69
・1世帯当り延床面積:0.53
・住宅の敷地面積:0.55
・公営賃貸住宅の家賃:-0.70
・人口集中地区人口比率:-0.75
・第1次産業就業者比率:0.60
・第3次産業就業者比率:-0.65
・ボランティア活動の年間行動者比率:0.67
・参院平均投票率(補正値):0.70


 上記の相関係数の中でまず私が一番驚いたのは、一番最後の「参院平均投票率(補正値):0.70」です。何故投票率が高いと出生率が高くなるのか最初は全く以ってわからず、政治に厚い地域は子供を何故よく生むのかとしばし悩みました。恐らくこの相関は「投票率」というよりも居住地域への結びつきによって付随する数値で、出生率に真に影響しているのは地域性でしょう。同じく地域との密着性を表す他の相関係数を見ても、

・ボランティア活動の年間行動者比率:0.67
・スポーツ少年団参加児童比率:0.42


 というように、地域との結びつきに比例して出生率が高くなる傾向があります。

 それで肝心の養育費、というよりも経済的環境が少子化に影響するかどうかですが、確かに「公営賃貸住宅の家賃:-0.70」いくつかそれを伺わせるデータもあるのですが、この調査報告書内に「経済的豊かさ」でまとめられている相関係数を見てみると、

・県民所得:0.45
・世帯収入:-0.10
・預貯金残高:-0.49
・教育費割合:-0.24


 という結果で、「預貯金残高」を除くとお世辞にもあまり高い相関が見られません。また民主党らが主張している教育費についても東京や大阪といった都市部と違って福井県のこのデータだけで断言することは出来ませんが「教育費割合:-0.24」と、それ自体は倫理的、教育的にいい政策だとしても私は教育費の補助が少子化対策になるとは思えない結果です。

 では一体何が少子化を加速させている原因なのかですが、結論を言えば私は未婚率だと考えています。
 現在日本の未婚率は「図録 未婚率の推移」にてグラフにして紹介されていますが、見事なまでに右肩上がりの様相をなして現在進行形で悪化しております。実際に福井県の調査データにおいても、結婚に関する項目が下記の通りに報告されています。

・婚姻率:-0.52
・離婚率-0.31:
・平均初婚年齢(女):-0.69
・第1子出産年齢:-0.70
・未婚率(女):-0.69


 ぱっと見、なんで「婚姻率」と「未婚率」が両方とも大きな負の相関をしているのかが未だに良くわからないのですが、この結婚に関する相関係数はどれも大きな相関で、特に「第1子出産年齢」は0.70と高い相関もさることながら常識的に考えて一人目を生む年齢が二人目、三人目に大きく影響するのは当たり前でしょう。また女性の未婚率については2005年のデータによると、全国平均では47.5%に対して福井県は38.4%と大きく差があり、こういったところが福井県の高い出生率に影響を与えているとこの調査報告書でも結論付けられております。

 こうしたことから私は日本人の未婚や晩婚化が少子化の最大の原因だと言いたいのです。これまた別のデータですが「完結出生児数」といって夫婦が生涯に儲ける子供の平均数を表すデータがあり、こちらも近年下がりっぱなしですが国立社会保障・人口問題研究所のデータによるとなんだかんだいって2005年のデータでも2.09あり、結婚した世帯は平均でちゃんと2人くらいの子供を生んでおります。ここに至り、結婚させさえすればぐっと少子化問題は軽くなるのではないかと私はにらんだのです。

 では具体的にどうすればいいか、どんな対策が効果を出すのかと言うことに関してはもう大分長くなったのでまた明日紹介いたします。
 最後に自民党らが主張している女性の社会進出が本当に少子化対策になるのかということについて、福井県のデータと合わせて補足しておきます。福井県のデータによると先ほどの相関係数の上では「女性の就業率:0.59」、「共働き率:0.71」、「共働き世帯割合:0.70」と、報告書の結論でも女性の社会進出が進めば進むほど少子化対策になるとまとめられているのですが、これに対して私はちょっと疑問に思いました。というのも他の就業に影響するであろう相関係数において下記のような結果を出しているからです。

・大学進学率:-0.42
・最終学歴が大学卒以上の割合:-0.62
・第1次産業就業者比率:0.60
・第2次産業就業者比率:0.27
・第3次産業就業者比率: -0.65


 細かくまで説明しませんが、私はこれを見てその共働きしている世帯の女性の職業は福井県という土地柄ゆえに第一次産業が多いのではと疑いました。残念ながら共働きをしている女性の職業が何かまでは報告書に書いてありませんでしたが、今の自民党の主張はどちらかと言えば第三次産業に務める女性の社会進出を助けようとするものばかりで、このデータからだと逆効果を生んでしまうのではないかと思うような節もあります。これまた逆に言えば、女性を農業に従事させることが出来たら食糧問題も人口問題もうまいこと回るんじゃないかと思ってしまいました。そうも簡単に行くわけはないけど。


  参考サイト
少子化と合計特殊出生率について~統計的分析~(福井県統計情報システム)
図録 未婚率の推移(社会実情データ図録)
国立社会保障・人口問題研究所

2009年7月13日月曜日

東京都議選の自公敗北と解散日決定について

 既に報道でもご存知でしょうが、昨日に行われた東京都議選でこれまで与党であった自公は大幅に議席を減らす歴史的な大敗を喫したのに対し、このところの各地方選にて連勝を重ねている民主党は大きく躍進して大勝を収める事となりました。今回の敗戦を受けて麻生首相はようやく来週解散、8/30に選挙を行うことを公にも発表しました。
 まずは長々粘った麻生首相をようやく民主党が解散に追い込んだと言えるのがこの都議選の結末でしょう。もっとも麻生首相は報道によると当初は明日にでも解散を行おうとしたところを周りに引き止められて7/21にしたと言われていますから、これが事実だとしたら最後の最後までみっともない上に、こんな具合だったら又翻心するのではないかと心配させられます。

 ただ今回大勝した民主党も素直に喜ぶべきではないでしょう。と言うのも今回の東京都議選の最大の功労者は私のにらむところ橋下大阪府知事で、次点が東国原宮崎県知事だからです。このところの他の地方選挙に洩れず今回の都議選もそれまで50%台だった投票率が60%に跳ね上がり、こうしたことが投票率が低ければ低いほど有利になる公明党及び協力している自民党の選挙活動に大きな打撃を与えたことに間違いはなく、そのように地方選挙の投票率が何故上がったのかというと橋下府知事のように全国メディアにて強く訴えかける地方首長が出てきたことによるものと考えると決して民主党の力だけで勝ったわけでない選挙だったと私は考えています。
 次点の功労者に東国原知事を持ってきたのは彼も地方選挙の重要性を強く国民に認識させたという点もさることながら、国政転身について最後の最後までもめたことによってマイナスイメージを自民になすりつけた点を評価してです。今日の報道によると、結局転身は止めたそうですけど。

 逆に自民党の視点から言えば、まんまと民主党の土俵に乗ったことが最大の敗因でしょう。今回の都議選は石原都政に対していろいろと争点があり、ここでいくつか上げるのなら新銀行東京の再建問題に始まり東京五輪の招致問題、そしてそのための築地移転問題などいろいろと政策で争う面があったにもかかわらず、生憎メディアを見ている限りではそうしたことはあまり触れられずに自民か民主か、どっちの政党を選ぶのだとことばかり候補者たちも主張していたように思えます。
 はっきり言って政党で選ぶとしたら麻生首相の半端無い失態のせいで勝てるわけが無いのに、かえって鳩山由紀夫民主党代表の個人献金問題を強く突こうとして政党論争に乗って有権者の票をどんどん手放していったのではないかと言うのが私の分析です。この辺が今の自民党の弱さなんだなぁと、改めて納得できるのですが。

 そして今日、麻生首相はようやく解散日を公に発表しました。しかしこのタイミングもはっきり言って最悪以外の何者でもありません。それこそ小沢元民主党代表の西松事件で揺れた四月頃に行っていれば全然今と状況が違った上に、大敗戦を喫した昨日の今日ではいかにも追い込まれた感がしてなりません。仮に昨日の都議選前に結果に関わらず来週に解散するとでも言っておけばまだ格好がついたものの、誰もそのように助言をする人間はいなかったのかとすら思います。

2009年7月12日日曜日

歴史の復讐

 最近こればかりですがまた先週の佐野眞一氏の講演で出た話しをします。
 非常に話題が飛びに飛び回った講演会だったのですが佐野氏は最近の自分の仕事について一体現代の日本は何の上に成り立っているのかを調べるために行っていると話し、そのために戦前の満州や沖縄について調べて本を書いているとした上で現代の日本人には歴史観が不足しているのではないかと言いました。その歴史観という言葉の意味について佐野氏はE・H・カーという歴史学者の著書「歴史とは何か」の一説を引用し、「歴史とは、過去の光によって現代を捉える行為」だと説明しました。

 佐野氏はこれについて更に解説を加え、言うなれば過去の事象に対しては現代のスポットライトを当て、現代の事象に対しては過去のスポットライトを相互に当てることで両者を理解するのが歴史だと説明していました。これについて私の解釈を加えると、これなんて私がくどい位にこだわっていることですが基本的に人間は比較を行わなければ事象を理解することができず、現代を理解するために過去と言う対象物を用意して比較することで初めて現代を理解することが出来ると言いたかったのだと思います。
 そんな目的の元で佐野氏は現代の日本、というより戦後の日本はどうして高度経済成長が出来て今の形になったのかというルーツを追うために満州と沖縄を調べているそうです。

 そういった佐野氏の話とは少し異なるかもしれませんが、よく歴史というのは勉強してもあまり意味が無いと言われる学問ですが私は決してそんなことはないと考えております。例えば現代の経済状況ひとつとっても私も連載で書いた「失われた十年」を知っているか知らないかで何が原因で、何が問題でこんな不況が起きたのか、また今アメリカが行っている金融機関のストレステストや資産査定の意義についても理解の反応や速度は大幅に異なると思います。また日本の総理大臣についても、この辺は今月号の文芸春秋に佐野氏が細かく書いていますが鳩山由紀夫氏、邦夫氏と麻生太郎首相の構図と、鳩山一郎と吉田茂の構造と比較することで見えてくる背後関係もあります。
 基本的に歴史というものは私は現代に対する基礎学問だと考えています。数学でいきなり方程式をぽんと出されてそれを解くために勉強するのと、正数と負数を前もって習っていてから勉強するのではまるで土台が違うように、現代の変化していく動きに対応するために土台となる歴史学というものは私は必要だと考えています。

 そうはいっても、大昔の歴史が現代に対してそこまで影響力を持つのかと思われる方もいるかもしれません。確かに数百年前の話にまで来ると政府間の歴史問題とかにしか出てこないかもしれませんが、ただ単に偶然だったということも出来ますが、明治維新時には歴史の皮肉ともいうべき偶然がいくつも起きています。
 まず第一に言えるのは、二世紀半に渡って日本を統治した徳川幕府を倒したのが薩摩藩と長州藩だったということです。どちらも明治維新から二世紀半前の関ヶ原の戦いにおいてわけがわからない内に西軍に参戦することとなり、敗戦後には大幅に領地を削られております。

 この二藩は西軍側でその後も生き延びたものの関ヶ原の戦いにおいて大きな痛手を徳川家に負わされた藩で、そうした藩が後年徳川幕府を滅ぼすこととなったのは非常な歴史の皮肉と言えます。またこの二藩に限らず藤堂高虎を藩祖とする津藩も明治維新時には面白い行動を起こしています。
 この藩祖の藤堂高虎は存命中に何度も主君を変え、最終的に徳川家に寄ったことから交通の要衝地であった現在の三重県に当たる津藩を任されただけでなく江戸時代においてもその藩祖の功績から津藩は「別格外様」として、外様大名でありながら譜代大名のような扱いを受けていたそうです。

 そんな津藩ですが明治維新時には当初は薩長軍を迎え撃つ幕府軍の軍勢に入ったものの、なんと戦闘中に突然薩長軍に寝返って幕府軍へと砲撃を始めたらしく、「藩祖が藩祖だけに時局を読むに長けている」などと揶揄されたそうです。
 もちろん藤堂高虎のいた戦国時代は裏切ることは珍しくなく彼だって主君を変えていったおかげで大身になれたのですし、明治維新時も津藩に限らず親藩の紀伊藩や尾張藩もほとんど抵抗らしい抵抗をせずに降伏していたのですが、やはり歴史の皮肉と言うか因縁と言うか、周りまわって現代のいろんなところに影響が及んでいるのではないかと思わせられるのが上記のエピソードです。

 言わば歴史に復讐されるというこのようなエピソードで最も代表的なのは「臥薪嘗胆」で有名な中国の戦国時代における呉越の争いですが、詳しい内容はまた明日にでも解説しますが私は人の意思というのは目には見えませんが周り回って自分が撒いた種は自分に帰ってくるのではないかと思います。もちろん、本人ではなくその子孫、関係者へということも含めて。

2009年7月11日土曜日

書籍返本制度の変動について

「返本率4割」打開の一手なるか 中堅出版8社、新販売制「35ブックス」(ITメディアニュース)

 上記のニュースは日本独特の書籍販売制度である「返本制度」に対して、中堅出版社らが連合して制度改正に向けて動き出したことを伝えるニュースです。まず最初に返本制度について解説しますが、日本では出版社が印刷会社などで刷った本を一般の本屋である小売店に販売する際、小売店側が受け取る利益に当たるマージンは低く設定されているものの売れ残った場合には返本すれば仕入れ値と同額が返金されるようになっています。いわば小売店側は仕入れを行うことに対して何のリスクも抱えず、売れそうだと思ったらどんどんと仕入れて売れ残ったらどんどんと返本することで幅広いジャンルの本を店内に並び立てることが出来る、というのがこの返本制度でした。

 しかし近年は出版不況とまで言われるほど本が全く売れないために出版社と本屋は揃って苦境に陥っているいうことで、上記のニュースではこのような出版不況を打開するために書店側のマージンを増やす代わりに返本が利かない販売方法を出版社側は導入しようとしていることを伝えています。
 このニュースに対して私の感想はと言うと、結局どっちの道を選んだところで両者の破滅は必至ではないかというのが正直なところです。それはどういう意味か、下記にてくわしく解説します。

 実はこの返品が利かない販売方法にて出版された本の中で非常に有名な作品がありました。何を隠そう、今度また新しい映画が公開される「ハリー・ポッターシリーズ」の2004年に発売された第四巻、「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」です。
 このいわゆるハリポタシリーズの日本語版を出版した静山社はお世辞にも大きな会社ではないため、いくら人気シリーズとはいえ大幅な売り上げを見込んで大量に発注して返本の山を築いた場合には会社の存立が危うくなることが当初から心配されていました。かといって前三巻の日本語版が発売された際は全国の書店で品切れが続出して古本屋でも高値で取引されていたほどで、また印刷数を少なくすればあちこちから文句が来るのも目に見えていました。

 そこでこの出版社は書店のマージンを増やすかわりに返本を受け付けない、仕入れ後の一切の責任は書店側に持たせるという形でこの第四巻を発売しました。結果はというと確かに売り上げは悪くは無かったのですが、前三巻は品切れが続いた事が逆にプレミアを持たせて販売量が時と共に増えていったのに対し、どの書店に行っても並んでいた第四巻の発売当初はそれまでのように爆発的に一挙に売れるとまではいかなかったそうです。
 私がこの事実を知ったのは当時の文芸春秋での記事でしたが、その記事中では図らずもハリー・ポッターが返本制度に一石を投じて今後日本の書籍販売制度は大きく変革されるかもしれないとまとめられていました。

 その記事から五年後、知り合いに聞くと岩波書店などは前から返本を受け付けていなかったそうなのですがようやく他の出版社にも返本制度の廃止がこうして現実味を帯びるようになってきたというのが最初のニュースです。
 確かにこれまで返本制度があるがゆえに売れないであろうと思われる本でも仕入れるだけはタダですからどの本屋も一応並べていたのに対し本当に売れるであろう本だけがこの制度改革によって精選されていくという期待はありますが、その一方で注目されていないが実はいい本が全く本屋に並ばなくなる可能性もあります。そう考えると在庫数で圧倒的な力を持っており、千葉だけでなく今度は大阪にも大きな配送所を作ろうとしているご存知絶好調のアマゾンがより販売を増やすのではないか、というのがこのニュースの私の第一印象でした。

 在庫数に限らず現在どの本屋も苦しめている万引きについてもアマゾンではその恐れも初めから全くなく、弱点とすれば一定額以上の販売におけるアマゾン負担の送料くらいですがその他のコストを既存の本屋と比較するとこんなものなんてごく小さなものです。
 こうした元からあるアマゾンの優位に対し、返本制度を改革したところで出版社と本屋になにか劇的な変動が起こるとはあまり思えません。むしろ先に書いたように売れ筋の本だけしか本屋に並ばなくなって、本屋がアマゾンに対して持っている優位性の一つと思える、「手にとって本を選べる」という行為がなくなる可能性もあってかえって余計に寄り付かなくなるんじゃないかという気すらします。

 そもそもの話、出版不況の根本的な解決方法として私は販売方法をあれこれ考えるよりいい本を作って並べることが第一にして唯一の策だと思います。一例を挙げると佐藤優氏の本はノンフィクションの属していてはっきり言って売れるジャンルの本ではないにもかかわらず、処女作の「国家の罠」は数ヶ月で70万部を越えるベストセラーになりやっぱりいい本はきちんと見てもらえるのだと私は思います。にもかかわらず小手先の改革に力を入れている時点で、私は出版不況と言うのは自業自得な部分も多いのではと言うのがこのニュースの結論でした。

  おまけ
 前ほど読まなくはなりましたが私が一ヶ月の間に読むのは10日発売の文芸春秋に加えて六、七冊程度です。そんな私がよく寄り付く本屋というのはやっぱり思わぬいい本を見やすく置いていてくれているとこで、いくらでかいからと言って並んでいる本がつまらないものばかりの本屋にはあまり行きません。今までで一番ハマったのは京都にいた頃に自宅近くにあった本屋でしたが、そこでは中国関係の本も充実しているだけでなく水木しげる氏の文庫マンガもやけに充実しており、異様にお金をそこで使っていました。

2009年7月10日金曜日

佐藤優氏の有罪確定について

 大分時間が経ちましたが、先週に私も中国語でいうなら「熱烈愛好的」な元外務省職員の佐藤優氏に最高裁にて有罪判決が下り、有罪が確定したことから外務省もようやく彼を晴れて免職させることが出来ました。佐藤優氏の容疑については私も何度もこのブログで書いてありますし、それより佐藤氏の著作の「国家の罠」を読む方が事件の概要を理解するうえで役に立つはずです。

 今回の有罪判決について私の感想はと言うと実はあまりなく、佐藤氏も主張していますが元々この裁判は結論ありきの裁判であったためにえどう抗弁したところで結果は見えていたことなので、下りるものが下りただけという感想しか覚えませんでした。ただこの佐藤氏の有罪確定についての報道について、こちらもまた「相信一点的」な田原総一朗氏が面白いことを書いておりましたのでここで紹介しておきます。

小休止の麻生降しについて(BP net)

 この記事の前半は自民党内の麻生降しの現状についての解説ですが、リンクを張った部分からは佐藤氏の有罪判決に対する各メディアの報道振りへの田原氏の批判が書かれています。具体的にどんな内容かと言うと各メディアはこれまで佐藤氏のコメントや評論といった著作を載せているあたり彼がこの事件において冤罪であることを承知しているであろうにもかかわらず、今回の判決時には「有罪確定」という見出ししか書かず、この裁判の背景や外務省の内部文書が紛失していて佐藤氏が不正をしたという証拠がないなどというおかしな点の解説を行わなかったマスコミの問題性を追及しております。

 田原氏が言っていることに対して私も全く同感で、足利事件での菅家氏の冤罪が明らかになったばかりにもかかわらず佐藤氏の裁判についてマスコミは素っ気無い対応だったと感じていました。マスコミといっても新聞、テレビ、雑誌など一般人が思っているほどに私は各メディアが一体であるとは考えておらずそれぞれの利害関係や対立があるという話も直接聞いていますが、もうすこし何かしらに特化したメディアがあってもいいような気がします。
 以前の記事でも書きましたがこの佐藤氏の事件を初めとして私は今の日本には何よりも司法改革が必要だと感じております。何かこういった司法関係に特化したブログを別に立ち上げようかと構想中ですが、そもそもの話として私が法学部出身でないためにあれこれ口を出すのもどうかと悩んでしまいます。

2009年7月9日木曜日

北京留学記~その六、留学生の国籍

 本日は中国に留学しに来る留学生の国籍について解説します。
 中国に来る留学生の国籍比率を測れば近年ではやはりダントツで韓国人が多く、次いで日本人が多くて事実上この二強で全留学生の三分の二を占めます。私が以前に見た資料では中国全土では数万の韓国人留学生が来ており、その仲でも特に韓国人が多い大学となると留学生を多数受け入れている私の通った北京語言大学になるのですが、同じクラスの韓国人によるとほかの大学では確かに語言大学ほど韓国人留学生数は多くは無いそうですがそのかわりに他の国の留学生がいないため留学生国籍比率はほぼ韓国で占められ、いろんな国の留学生と交流するために語言大学にきたそうです。

 実際に私がいた頃を思い出すと大学内はそれこそ右も左も韓国人ばかりで、やっぱり欧米人ともなると多いことは多いですがややレア度が高かった気がします。しかしその韓国人に次いで多く来ている我らが日本人の数も同様に半端ではなく、日本人留学生たちの間では語言大学に行くと日本人とばかり話してて中国語が上達しないとまことしやかに囁かれていました。こういった噂を留学前に私も聞いていたので、敢えて私は現地ではなるべく他の日本人とは距離を置くようにしてましたが、果たしてそれがどれほど効果を上げたかはまだ未知数です。一応、中国語は話せるようになって帰ってきましたが。

 それで先ほど韓国人が言った内容に戻るのですが、確かに語言大学は外国人に中国語を教える目的で作られたと言うことから今も全世界から留学生を集めております。マイナーな国を挙げるとルワンダやスイス、果てには自分のルームメイトだったルーマニア人なども来ており、そういった国の方々と一時とはいえ交流できる留学先というのはなかなかなく、中国においては北京大学を除くとまずほとんどないといってもいいでしょう。もしかしたら精華大学にもいっぱい来ているかもしれませんけど……。

 そんな留学生たちの国籍の中で、意外に多かったと私が感じたのはロシア系でした。ロシア本国にウクライナやベラルーシ、カザフスタンといったロシア語圏こと旧ソ連系の留学生は何故だかよく見かけ、実際に私のいたクラスでも当初はロシア人、カザフスタン人、ウクライナ人がおり、個人的に仲良くなったウクライナ人からは更に別クラスのロシア人とも引き合わせられ、日本に帰国後に私がロシア語の基礎を学ぶきっかけになりました。

 元々中国と旧ソ連は1950年代は非常に仲が良くて核技術もその伝手で中国に伝わったのですが、その後旧ソ連でフルシチョフが第一書記に就任するや急激に険悪化してそのロシアからの脅威に対抗するためにアメリカ、ひいては日本と中国は国交を結ぶこととなりました。それだけ仲が悪かった旧ソ連ですがこれが崩壊して現在のロシアになり、そしてプーチン政権下では国境が接していることから両国間の通商が急激に発展し、現在はかつての蜜月時代を思わせる位に両国の関係は良好です。
 この背景にはかつてとは逆にアジアにおいて日本を中露が押さえ込む目的も含まれていると思われるのですが、2005年にはロシアとの友好40周年(元年がいつどのように決まったのかは知らないが)ということで大々的なキャンペーンを中国は国を挙げて行っていました。

 こうした背景から、一番にはロシア国内において中国語の需要が高まっているというのは間違いないでしょうがロシア系の留学生が大量に中国に来ている理由だと私はにらんでいます。それを言ったら日本と韓国も同じことなのですが。