2009年7月12日日曜日

歴史の復讐

 最近こればかりですがまた先週の佐野眞一氏の講演で出た話しをします。
 非常に話題が飛びに飛び回った講演会だったのですが佐野氏は最近の自分の仕事について一体現代の日本は何の上に成り立っているのかを調べるために行っていると話し、そのために戦前の満州や沖縄について調べて本を書いているとした上で現代の日本人には歴史観が不足しているのではないかと言いました。その歴史観という言葉の意味について佐野氏はE・H・カーという歴史学者の著書「歴史とは何か」の一説を引用し、「歴史とは、過去の光によって現代を捉える行為」だと説明しました。

 佐野氏はこれについて更に解説を加え、言うなれば過去の事象に対しては現代のスポットライトを当て、現代の事象に対しては過去のスポットライトを相互に当てることで両者を理解するのが歴史だと説明していました。これについて私の解釈を加えると、これなんて私がくどい位にこだわっていることですが基本的に人間は比較を行わなければ事象を理解することができず、現代を理解するために過去と言う対象物を用意して比較することで初めて現代を理解することが出来ると言いたかったのだと思います。
 そんな目的の元で佐野氏は現代の日本、というより戦後の日本はどうして高度経済成長が出来て今の形になったのかというルーツを追うために満州と沖縄を調べているそうです。

 そういった佐野氏の話とは少し異なるかもしれませんが、よく歴史というのは勉強してもあまり意味が無いと言われる学問ですが私は決してそんなことはないと考えております。例えば現代の経済状況ひとつとっても私も連載で書いた「失われた十年」を知っているか知らないかで何が原因で、何が問題でこんな不況が起きたのか、また今アメリカが行っている金融機関のストレステストや資産査定の意義についても理解の反応や速度は大幅に異なると思います。また日本の総理大臣についても、この辺は今月号の文芸春秋に佐野氏が細かく書いていますが鳩山由紀夫氏、邦夫氏と麻生太郎首相の構図と、鳩山一郎と吉田茂の構造と比較することで見えてくる背後関係もあります。
 基本的に歴史というものは私は現代に対する基礎学問だと考えています。数学でいきなり方程式をぽんと出されてそれを解くために勉強するのと、正数と負数を前もって習っていてから勉強するのではまるで土台が違うように、現代の変化していく動きに対応するために土台となる歴史学というものは私は必要だと考えています。

 そうはいっても、大昔の歴史が現代に対してそこまで影響力を持つのかと思われる方もいるかもしれません。確かに数百年前の話にまで来ると政府間の歴史問題とかにしか出てこないかもしれませんが、ただ単に偶然だったということも出来ますが、明治維新時には歴史の皮肉ともいうべき偶然がいくつも起きています。
 まず第一に言えるのは、二世紀半に渡って日本を統治した徳川幕府を倒したのが薩摩藩と長州藩だったということです。どちらも明治維新から二世紀半前の関ヶ原の戦いにおいてわけがわからない内に西軍に参戦することとなり、敗戦後には大幅に領地を削られております。

 この二藩は西軍側でその後も生き延びたものの関ヶ原の戦いにおいて大きな痛手を徳川家に負わされた藩で、そうした藩が後年徳川幕府を滅ぼすこととなったのは非常な歴史の皮肉と言えます。またこの二藩に限らず藤堂高虎を藩祖とする津藩も明治維新時には面白い行動を起こしています。
 この藩祖の藤堂高虎は存命中に何度も主君を変え、最終的に徳川家に寄ったことから交通の要衝地であった現在の三重県に当たる津藩を任されただけでなく江戸時代においてもその藩祖の功績から津藩は「別格外様」として、外様大名でありながら譜代大名のような扱いを受けていたそうです。

 そんな津藩ですが明治維新時には当初は薩長軍を迎え撃つ幕府軍の軍勢に入ったものの、なんと戦闘中に突然薩長軍に寝返って幕府軍へと砲撃を始めたらしく、「藩祖が藩祖だけに時局を読むに長けている」などと揶揄されたそうです。
 もちろん藤堂高虎のいた戦国時代は裏切ることは珍しくなく彼だって主君を変えていったおかげで大身になれたのですし、明治維新時も津藩に限らず親藩の紀伊藩や尾張藩もほとんど抵抗らしい抵抗をせずに降伏していたのですが、やはり歴史の皮肉と言うか因縁と言うか、周りまわって現代のいろんなところに影響が及んでいるのではないかと思わせられるのが上記のエピソードです。

 言わば歴史に復讐されるというこのようなエピソードで最も代表的なのは「臥薪嘗胆」で有名な中国の戦国時代における呉越の争いですが、詳しい内容はまた明日にでも解説しますが私は人の意思というのは目には見えませんが周り回って自分が撒いた種は自分に帰ってくるのではないかと思います。もちろん、本人ではなくその子孫、関係者へということも含めて。

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