なんでも、この本書き終えた後で浅田氏は初めて北京に行ったらしいです。
この「蒼穹の昴」は1996年の作品で実に30年近く前の作品ですが、それをこうして現代の自分が読んでて面白いと感じるというのもなかなか凄いものがあると感じます。内容が歴史小説なため今更古臭くならないという点もあるでしょうが、それ以上に発刊当時に限らず時代を経てもこうして読まれるというのは間違いなく名作の条件になってくるでしょう。
この発表から時代を経て、具体的には10年以上経っても新たに手に取る人、またフタタに手に取る人がいるという小説こそが、自分は名作だと思っています。逆に発表当時に華々しく売れたものの、それ以降は誰も話題にもせず読み継がれない作品というのはしょせんは「時流に乗った」だけの作品だと考え、名作と呼ぶには相応しくないと思います。
具体的に言えば過去の芥川賞作品なんかまさにこの典型です。10年以上前の作品で今も読まれる作品があるかと言ったら多分ほとんどなく、内容に関しても当時作品を読んだ人たちもそんな覚えていないというのが大概じゃないかと思います。そもそも以前から批判していますが、2000年以降の芥川賞は作品の質以上に作者のパーソナリティ、具体的にはどれだけ目立つかで選ばれている節があり、こんなんだから日本の小説文化は衰退していったとすら思っています。
逆に、これも以前主張しましたがその後のエンタメ作品に物凄い影響を与えたという点で「バトルロワイアル」はすごい作品だと思え、本来ならこの作品こそもっと評価されてしかるべきだったと思います。
それにしても近年は本当に誰もが手に取るような小説作品がめったに出てこなくなりました。日本の娯楽でいえばアニメ、ゲーム、漫画が強くこれらが小説を侵食したことは間違いないですが、それにしたってここまで弱ることはないだろという気がします。まぁぶっちゃけ、悪いのは文壇気取りの連中だと思うけど。
もっとも自分はあんま手に取りませんが、いわゆる転生物に代表される「なろう系小説」は青少年を中心に一定の支持を得ていると聞きます。自分の時代でも「スレイヤーズ」などのライトノベルが流行ってましたが、こちらは権威なんて一切なしの完全競争市場なだけに、売れるというからにはやはり引き付ける魅力のある作品が多いのだと思います。とはいえ、やはり10年の壁を超える作品がこの中から出てきているかと言ったら今のところあんまり見当たらず、今後そうした時代に左右されない小説作品が出てくることを陰ながら祈っています。