2014年12月6日土曜日

笑うという根源的な感情

 何度もこのブログで書いてきているように私は漫画家の水木しげる氏の大ファンで、リアルに人生の師みたいな具合に崇拝しています。水木氏の作品で何が好きかとなると主題歌だったら「悪魔くん」でたまに一人で、「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム♪」なんて口ずさんだりしていますが、作品単体となるとうちの名古屋に左遷された親父も好みの「猫楠」が割とお気に入りです。この漫画は南方熊楠の伝記に近い漫画ですが、破天荒な性格や行動など水木氏と熊楠には共通する点も多いようにみられることから本人もノリノリで書いているようにみられるし、たまたま熊楠と自分とでも共通する病気を抱えてただけに妙な親近感を覚えています。
 しかし作品という枠を超えるなら、水木氏の自伝とも言うべき「水木しげる伝」という漫画こそが私の中で彼の最高傑作だと思います。境港市での少年時代からラバウルでの戦地生活、「ゲゲゲの女房」にて描かれた戦後の極貧生活からスター漫画家に至る過程などドラマチックそのもので、また作者特有のユーモアのある視点で描かれているため何度読んでも飽き足りません。

 その「水木しげる伝」の中巻こと戦争編に描かれている話なのですが、戦地で片腕を失いながら無事に復員し、境港に戻った直後の話で非常に印象に残るものがありました。復員後に水木氏が実家で暮らしていた時期、近所に住んでいて水木氏と同じ戦場に息子が派兵されていた母親が水木氏を訪ねてきました。生憎その息子は戦死していたのですがせめてどのような場所で、どのような環境で息子が戦死したのかを知ろうとして水木氏に聞きに来たそうです。
 水木氏はその母親と自分の母親の三人で会い、ラバウルの戦場と息子さんがいたと思われる部隊の最後について話し聞かせたところ、途中で尋ねてきた母親が感極まって泣き出したそうです。泣き出す母親を見た水木氏はどうしたかというと、何故だか「はっはっは」と大笑いし始めたと描いています。

 亡くなった息子を偲んで泣き出す母親を前にして大笑いするなんて普通に考えたら失礼極まりなく、実際に水木氏の母親は息子を咎めたそうですが、それでも水木氏は笑いを止めることが出来なかったそうです。この水木氏の行動について恐らく反感を覚える方もおられるのではないかと思いますが、私は何故だか、きっと自分も同じ立場なら笑い出したのでは、なんて思うのと同時に表現できないような感情が持ち上げてきました。
 一体何故このように思ったのかというと、一つは水木氏も戦死された息子同様に自分の命が明日をも知れぬような戦場を潜り抜けており、決して戦死者を冒涜するような行為はできないと思うからです。それとともに、漫画中にも書いていますがこの時に、「自分が戦場から生還したことを実感してきた」と思ったらしく、これは戦争に実際参加した人間にしか感じ得ない特別な感慨があったのではないかという気がしてなりません。

 また人の死を「笑う」という行為ですが、私は決して特別な感情ではないと思います。たとえば大きな悲しみに遭遇した際、「何故だか笑しか出てこなかった」という表現は過去の文芸作品にも数多く出ています、私も実際に同じような感情を持ったことがあると共に周囲にも、特に人の死に接した人間がまさに同じ感情を持ったという話をよく聞きます。またあまりの怒りに「もはや笑いがこみ上げてくるほどの怒りだ」という表現もあれば、「恐怖のあまりに笑い出す」という言葉も比較的一般的です。

 こうした点を踏まえるにつけ、喜怒哀楽とは言いますが笑いというのは喜びもあれば怒りもあり、悲しみもあり、恐怖にも表れる特別な感情表現、言うなれば根源的な感情名のではないかと思います。漫画「シグルイ」によれば「本来笑いというのは獣が牙を向く行為に端を発し」とやらで威嚇する行為から発展した感情表現という説もありますが、獣を観察していても威嚇する際だったり餌をねだる際、風呂に無理やり入れられる際(主に猫)などによく鳴きます。そうした点を入れても、笑うというのは楽しい時にだけ見られる感情表現と言い切るのは早計ではないかと思えてくるわけです。

 ただそれにしたって上記の水木氏のエピソードは非常に深く考えさせられます。勝手な推察をすると、人の死に対する悲しみ、自分が生きて帰ってきたという喜び、息子を偲ぶ母親への憐憫など、複数の感情が一挙まとめて含まれた笑いだったのではないかと思え、考えるにつけ自分もなんだか悲しいような、どうしようもないような感情が持ち上がってきます。戦争だからこうというわけではなく、悲しい笑いというのも案外世の中には溢れているのかもしれません。

  おまけ
 来年PSVitaで「艦隊これくしょん」が移植、発売されると聞いて、現在のブラウザ版は一度も遊んだことがありませんが艦娘こと各キャラクターを調べるのが地味にマイブームになっています。そうやって調べている最中でふと目に入ったものの中に駆逐艦「雪風」が目に入り、二次大戦中の主要な海戦ほぼすべてに参加しておきながらほぼ無傷で戦い抜いて戦後まで生き残り、しかも戦後に中国国民党に引き渡され中国共産党との戦争でも使われたにもかかわらずそこでも戦い抜いたという、文字通り「不沈艦」とも言うべき恐るべき戦歴を知り目を見張りました。
 そしてこの船によって、ラバウルにいた水木氏が本土に復員したという話も今更ながら知り、戦中を有り得ないほどの強運で生き残った船が最後まで生き残った兵士たちを無事に本国へ連れ帰ったのだと思い、変に感極まってこれ書きながらも涙が出てきます(ノД`)

2 件のコメント:

  1. 笑うより笑わせることが難しいと思われます。ご意見を聞きたく。

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    1.  人に笑われるのは案外簡単だよ♪

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コメント、ありがとうございます。今後とも陽月秘話をよろしくお願いします。

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