ページ

2021年5月30日日曜日

朝日新聞社の赤字報道における不可解な決算短信

朝日新聞、赤字441億円 過去最大「コロナ影響」(時事通信)

 上記リンク先の記事の通り朝日新聞社は2021年3月期決算(短信)で441億円の赤字が発生したと報じられています。赤字となるのは11年ぶりで、原因について朝日は自分で「コロナのせい」と書いていますが、率直に言ってこの説明には強い疑問を覚えました。
 ひとつは、コロナ流行をきっかけに新聞購読をやめる人がいるかって話です。普通そんなのいるはずもなく、コロナで収入がなくなって購読やめる人なら確かにいるかもしれませんが、恐らくそういう収入が細い人は元から新聞取ってないと思われます。敢えて深読みすると、コロナで広告単価が落ちたことで新聞事業の売り上げが落ちたという説明ならまだ理解できるのですが、朝日はそんな風には説明していません。

 そうした全部コロナのせいという理由のほか、「『繰り延べ税金資産』を取り崩したため」ということも赤字の理由としていますが、これに関しても一見して意味が分かりませんでいた。これが今回のこの記事の最大のトピックで、多分ネットで分析してるの私だけでしょう。

 「繰延税金資産」の専門的な説明は他サイトに任せますが、通常は赤字(損失)が発生した年度に発生(増加)し、黒字の年度に解消(減少)する資産です。具体的には、前年度が100万円の純損失だったら各国の繰延期間や繰延額上限の制度にもよりますが100万円の損失分が繰延税金資産となります。でもって翌年度が200万円の黒字だとした場合、100万円の繰延税金資産(繰越欠損金)を税額計算時に差し引くことができます。
 200万-100万=100万円という計算となり、その年の年度は200万円の純利益を上げているとしても、税額計算では繰延税金資産を差し引いた100万円(課税基準額)に法人税率を乗算して実際の納税額を出すこととなります。このように繰延税金資産というのは、「過去に発生した損失の先送り」みたいなものと理解してくれればいいです。

 話を戻すと朝日の説明で意味が分からなかったのは、何故赤字が発生した2021年度に繰延税金資産を取り崩したのかという点です。先ほどにも述べた通り、繰延税金資産というのは基本的には赤字年度に増加し、黒字年度に減少します。それが今回の朝日の発表だと逆です。

 あまりにも意味が分からない説明のためもうこうなりゃ財務諸表を見るしかないと思って朝日新聞社のホームページを見たところ、なんとIRニュースに関するページがなく、過去の決算情報を含めて一切公開していませんでした。っていういいのか、この暴挙?もし朝日が自分のところに取材きたら、「財務諸表すら後悔していない連中にとやかく聞かれる覚えはない!」って言うぞこれから。

 幸いというか、Yahooニュースにコメントを寄せている不破雷蔵氏のコメント内容から朝日新聞社の決算単身は何故かテレビ朝日のサイトで公開されているという情報を得たので探したところ、確かにありました。でも何故こっちで公開しているのか、謎は深まるばかりです。

親会社等の決算に関するお知らせ(テレビ朝日ホールディングス)

 結論から言うと、財務諸表を確認したところ報道内容と大きく乖離しているという印象を受けました。連結ベースの数値で見ていくと、まず本業の事業損益を指す営業損益は70億円の赤字で、配当金などの投資収益を含む本業以外の収益をを指す営業外収益は70億円の黒字でした。そのほかを含め主要科目を抜粋すると以下の通りです。

売上高;2937億円
売上原価:2141億円
売上総利益:796億円
販売費及び管理費:866億円
営業損益:-70億円

営業外収益:70億円
営業外費用:5億円
(差し引き65億円の黒字)

特別利益:12億円
特別損失:77億円
(差し引き65億円の赤字)

税引前純損益:-70億円

 計算わかりやすくするために科目名を整理しましたが、最終的な税引前純損益に至るまでの計算過程は「-70+65-65=-70億円」です。財務諸表見慣れてないととっつきずらそうですが、必要な項目だけ見れば案外わかりやすいものです。

 以上の通り、主要事業と非主要事業の経営成績は実際にはほぼトントン、そこに特別損失が加わって初めて70億円の赤字となるわけですが、報道されている441億円の赤字とは乖離があります。両金額の差の371億円の赤字は何なのかって話になります。

 その後連結損益計算書を見て行ったところ、税金費用が列記されている箇所に「法人税など調整額」という科目があり、その科目金額がまさに371億円でピタリ賞獲得でした。恐らくこれが朝日新聞の言う「繰り延べ税金資産の取り崩し」だと思われるのですが、これだ441億円の赤字の大半は当年度業績とは無関係の税額調整額だったということになります。

 っていうか何故繰延税金資産で税額がこれほどまで増加するのか。注記がないため具体的な会計処理は分かりませんが、「繰延税金資産」というよりかはむしろこれ「繰延税金負債」なのではないかと一見して思います。貸借対照表の資産の部にある「繰延税金資産」も2020年3月期から2021年3月期で307億円減少していますが、本当にここの会計処理はどうなってるのだろうか。税額計算表くらい出せよとか思います。

 また朝日新聞は自社の記事で「繰税金資産」と書いてますが、財務諸表上では「繰延税金資産」で単語が一致してません。会計業界だと「繰延税金資産」が一般的ですが。
 同じく朝日の記事でもう一つ記述で明確に不自然に感じる点があり「純損益は441億9400万円の赤字」と書かれてありますが、この金額は「親会社帰属の当期純損益」に対応しています。一方、「当期純損益」は451.59億円となっています。

 少なくとも中国では純損益と言ったら一般的に「当期純損益」を指し、「親会社帰属の当期純損益」の場合は必ず「親会社帰属の当期純損益」と言って区別します。日本会計基準にはあんま詳しくないのですが、こういう言い方するのと結構戸惑っています。

 以上のように、朝日新聞社の決算短信に関する報道は不自然な点が多いです。特に純損益に関する部分は「親会社帰属の当期純損益」が連結損益決算書の末尾にあるもんだから記者が間違えて書いてしまったのではないかと疑っています。日本会計基準だとそうなのかもしれないけど。
 赤字に関しても、会社業務関連の金額は実際には約70億円だけで、残りの371億円は実際には税額処理関連費用であり、報道記事内容と照らすと「朝日の業績が振るわず大赤字」というイメージとはかけ離れています。

 もっともこの税額処理についてはきちんと説明しない朝日自身の方に問題があります。当初より疑っていますが、過去の計上を見送ってきた損失をコロナにかこつけて一気に計上したのが実態であるような気がします。だとすれば朝日の説明は、元よりミスリードさせる目的の下で出された可能性もあるでしょう。

 それにしても本当に意味の分からない監査報告書で読むのに苦労しました。担当はあずさ監査法人のようですが、これでいいのとかちょっと思います。朝日グループはどこもあずさが担当ですが、ぶっちゃけ1回変えてみたら東芝とかの報道できなくなったりして。


  追記
 あとから考え直したところ、過去に形成された繰延税金資産が制度で認められた繰越期間を超過して、実質的に消失(目減り)した場合に、上記のような会計処理はありうるということに気が付きました。っていうか本当にこの辺は「期限きれ」などとちゃんと注記書けよ。

0 件のコメント: