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2021年5月19日水曜日

書評:「一風堂」ドラゴンに挑む!

 先日、夏の歴史特集に使う資料が電子書籍でなかったため、日本の親父からハードコピー本を取り寄せて中国に送ってもらうことにしました。その際、以前に取材したラーメン屋「富川」の富川社長から、「 先日、夏の歴史特集に使う資料が電子書籍でなかったため、日本の親父からハードコピー本を取り寄せて中国に送ってもらうことにしました。その際、以前に取材したラーメン屋「富川」の富川社長から、「中国での事業を始める前に一風堂の本を読んだが、あれが一番役に立った」と言われたことを思い出しました。なのでついでとばかりに「この本も」と送ってもらいました。

 
 そうして送ってもらったのが上記リンクの本ですが、内容はラーメンの一風堂の社長が中国、っていうか上海市に進出した時の苦労話をまとめた内容となっています。この本は発行されたのが2007年と既に14年前で、敢えてゲームで例えるならPS3の全盛期にスーパーファミコンのことを語るようになってしまいますが、それでも面白かったので紹介することとします。

 初めに一風堂の中国事業について少し触れると、現在一風堂は上海や北京などの中国の大都市にチェーン店を展開しており、日系ラーメンとしては最初にブレイクした味千ラーメンに並びその代表格として高い認知を得ています。ただ中国で「一風堂」の屋号が使われるようになったのは2012年からで、この本に書かれている進出当初は「享食78」という屋号でラーメン店を運営していました。その理由は何故かというと、材料はスタッフの質の差からいきなり日本の一風堂と同じ味を中国で展開することは不可能だったからと考えたためと書かれてあり、その論で行くならば、2012年になって初めて一定の味の水準をクリアしたと判断したのかもしれません。

 本の内容について触れると、やはり現在と比べると時間が経っていてやや古い情報であるということは否めませんが、富川の社長が言っていたように、中国で起こりがちなトラブル事例は非常によくまとめられていました。具体的には、「試作品のみまともなものを出して取引開始後は質の悪い素材を送ってくる」、「金ざるなどちょっとしたものがない、現地で作らせてもなかなかまともなものを作ってこない」、「それがお前たち上海人の実力かなどとプライドに訴えかけると中国人はやる気だしてくる」など、これらは現代中国にも通用する一般概念です。
 また苦労話の中で目を引いたものとして、麺を練り上げる際に使う「かん水」が中国にはなかったというエピソードは非常に驚きました。中華麺は別の水媒体を使ってるのかもしれませんが日本風のかん水がなく、しかも法律で食品への使用が認められてなかったから「食塩を混ぜて食塩水というk達にして乗り切った」という裏技的攻略法まで書かれていました。

 そのほか個人的に一風堂の河原社長が大した人だと感じさせられるエピソードとして、中国側出資者がどこかからよくわからない女性経営者を引っ張ってきて改革プランを出してきた際、失敗することをわかっていながら丸呑みしたという話も載せられていました。河原社長によると、「分析は鋭いが判断が誤っており相半ば」というプランだったそうですが敢えて丸呑みし、中国側の思うがままにやらせたところ案の定大失敗こいて、その女性経営者も9ヶ月で去ったそうです。
 ただこのおかげで「やっぱ俺のが正しいでしょ( ・´ー・`)」的に一気に経営の主導権を握ったそうで、文字通り肉を切って骨を断つ戦略的判断で成功したことが書かれています。

 こうした中国での苦労話に加え、この本の後半では既に中国に進出済みの日系飲食店の状況や戦略、同じく苦労話がまとめられています。この後半部分を読んで驚いたのは、サイゼリヤ、吉野家、ココイチという、現在も中国事業が比較的成功した日系飲食チェーンが真っ先に取り上げられており、よく2007年の段階でこの三つを選出したもんだと非常に驚きました。でもってサイゼリヤが日系飲食チェーンとしては初めて独資での進出が認められ、当初苦労したけどいきなりやばいくらいの値下げ攻勢かけて生き残ったという私も知らなかったエピソードなどは、古い本だからこそ初めて知れる内容で新鮮でした。

 前述の通りこの本は電子書籍はなく古本でしか手に入らなくなっていますが、その分値段もニトリ以上にお手頃になっているので、興味がある方には是非お勧めします。
 それにしてもこうしたエピソードみるとほんと見方変わるというか、一風堂に対しリスペクトが増しました。

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