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2025年9月6日土曜日

父権が喪失していった平成期

 前回記事でなんかやたらと心理学について書きましたが、このきっかけは前にも書いているように河合隼雄の「家族関係を考える」という本でした。この本は1980年に発売されたこともあり、ちょうど「積み木くずし」の時代に近いこともあって、家庭内暴力や不良化などで相談しに来る家族の話が多く書かれています。

 こうした家族について河合隼雄は、特に母親に暴力を振るう子供について、「家族内で絶対的な存在である父親には抵抗できないゆえに、そのそばの母親を代理の対象とする傾向がある」と言ったことを書いていました。ここで言っている内容について私自身も異論はなく、実際そんな感じで母親に暴力を振るったり、敢えて不良とつるんで反抗したりしていた人もう当時は多かったんじゃないかと思います。自分が親に中国まで持ってこさせて読んだ「積み木くずし」なんかまさにそんな感じだったし。
 と同時に、「今じゃこんな図式成り立たねぇだろうな」という感想も持ちました。理由は単純に家庭内における父親の権力というか父権、父性が極端に低下しており、そもそも家族内で「乗り越えるべき対象」にすらならないと思うからです。

 昭和から平成にかけての家族関係の変化としてはやはり核家族化がもっとも代表的だと思います。翻って平成から令和にかけての変化としては、私個人としてはやはり前述の父権の低下が最も大きな変化じゃないかと思います。
 昭和期においてもかかあ天下な家族もいたでしょうが、現代においてはもはやそれが一般化しているのか「かかあ天下」という言葉自体が若干死語になっている気がします。同時に、「家父長」という言葉もほとんど使われなくなっているうえ、男女差別を助長するなどとしてあまり使うべきでないとする風潮すら感じます。

 ではなぜ父権がそんなに落っこちていったのか。これはごく単純に社会における女性の地位向上に尽きにでしょう。特に共働きの世帯だと、父権の源泉ともいうべき「稼ぎ」が父親に限られなくなり、下手すりゃ母親の稼ぎの方が大きいケースも出てきて、家族を意に沿わせる材料はなくなったも同然です。その上で、母親に対しては家族内で求められる役割は現代でも多いと思いますが、父親にはそれほど多いとは思えず、「キャッチボールの相手」もなんだか今だと古風な感じすらします。
 その上で、父権を強めようものなら先ほども言ったように男女差別だと指摘される可能性もあり、家庭内で父親が主導権を発揮しようにもあらゆる方面から制限されているのが現代である気がします。恐らくこんな家族観、1980年代の人たちは想像もできなかったでしょう。

 そもそも前述の家父長という言葉自体もはや過去の物であり、これからは下手すら「家母長」みたいな言葉も出てくるかもしれません。

 こうした父親が家庭内で主導権を持てない環境に変化していったことでどうなったのか。中にこれが少子化の原因だという人もいるかもしれませんが私にはそこまで判断する材料がなく何度も得いませんが、少なくともいえることは「子供が畏怖する父親像」というものは完全に過去の物になったということです。これが子供の非行化に関係するかについて、私個人としては非行化が下がる要因にはなったんじゃないかと思います。一方で、「無気力化」の要因に係わってきている可能性もにらんでいます。

 そういう意味では平成における家族間の変化としてもう一つ、「子供部屋おじさん」という新語も誕生しています。これなんか今後さらに普及していって、当たり前になる概念になるかもしれません。核家族化した家族が核分裂しないまま続くとでもいうべきか。

6 件のコメント:

  1. 空の巣症候群という言葉がありますが、女性の社会進出が進んで専業主婦が少なくなり、子ども部屋おじさんが増えている最近の世の中には、あまり当てはまりませんね。

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    1.  空の巣症候群は現代だとレアな症状ですし、当てはまるとしても「けっ、上流階級自慢かよ( ゚д゚)、ペッ」みたいに周囲から言われるかもしれませんね。ちょっと前の記事で書き忘れたけど、「専業主婦」というのはもはや、上流階級限定のレアジョブです。
       逆にというか昔あったネットの小話で、ひきこもりから自立したらこの問題への対応で一致団結していた両親が離婚してしまったという、「子はカスがいい」症候群の方がこれからブームになるかもしれません。

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  2. 片倉(焼くとタイプ2025年9月7日 17:12

    古谷三敏氏の漫画「ダメおやじ」は連載当時の父親の権威が高かったからこそギャグとして成立した漫画です。劇中で描写された妻から夫へのDVは、今では当たり前の現象となりました

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    1.  ドリフターズのコントなんか典型ですが、普段威張って偉そうにしている奴がツッコミなどでどつかれることで初めてギャグになるのであって、素人弄りとかしてもそれが笑いにつながるかと言ったら自分は疑問ですね。ちなみに加藤茶などは日ごろの恨みもあって、全力でいかりや長介を叩いてたそうですが。
       この記事でまた書き忘れたのですが、「妻が夫を殴ってもニュースにならないが、夫が妻を殴るとニュースになる」のが現代で、父権が失われたどころか男性の家族における地位をむしろ保護しなくてはならない時期に来ている気すらします(;´・ω・)

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  3. 個人的な印象では、男性が仕事に集中して家庭をほとんど女性に任せたことで、その家庭で育った子供が父親をリスペクトしなくなったのが父権がなくなっていった最大の要因なんじゃないかなと思ってます。共働きの方が、まだ子と関わる時間という意味では夫婦平等に近いなのでマシなのかなと。
    欠点としては母親のパーソナリティが子に影響を与えすぎてるというのが大きいと思っていて、一時期男子の草食化とか言われたのもそのせいだと思ってます。
    本来は父が子の成長を促す、RPGで言えばクエストに連れ出す存在、母親が子の安全を守るという意味でヒーラーであるべきところ、ずっとレベル1のままヒーラーに守られている究極の形が引きこもりであり、その末路が子供部屋おじさんなのかなと思いますね。

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    1.  今回引用した本では、進学や結婚に関してかつては父親が絶対的な決定権を持っていたものが、自由恋愛などの広がりによりその権限を失っていたような内容が書かれてました。進学に関しても、現代においてはもはや母親ん方が圧倒的な権限を握っており、父親の出る幕はないことから、こうやって権力ってのは徐々に削られていくものだという気がします。

      >ずっとレベル1のままヒーラーに守られている究極の形が引きこもりであり
       これ見て、レベル1の遊び人がそのまま転職することなく、レベル50の遊び人にまで成長したのが子供部屋おじさんかなという風に想像しました。こう考えるとドラクエ3って深い!

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コメント、ありがとうございます。今後とも陽月秘話をよろしくお願いします。

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