

上記の画像はどれもネット上で私が拾ってきた「江戸しぐさ」と言われるものの資料です。この江戸しぐさはここ数年で急激に取り上げられる事が増えた言葉でどういったものかというと江戸時代の町人における対人マナーを表すものとして紹介されていますが、その実態は捏造して作られた概念というよりほかありません。
詳細はリンク先のウィキペディアのページを見てもらう方が早いのですが、そもそも論として以前は全く取り沙汰されてなかったのにここ数年で急に「江戸時代のマナー」といって出てきた点一つとっても十分怪しいですが、このデマを広げている団体はその理由として、「明治維新時に新政府が江戸の町人を大虐殺したため継承者が減り、身を隠したため」という、ジョジョ風に言えば「テメー、ヤクでも決めてんのか?」と言いたくなるような妄言を吐いております。
なんで新政府がいちいち町人を虐殺しなくてはならないのか。そもそもそんな虐殺があった
ような記録は全くないし、政府が検閲したと言っても当時江戸にいた外国人ですら誰も言及していないなど、真面目に否定すること自体がなんか馬鹿馬鹿しくなってくるほどのトンデモ論です。
このようにあからさまなくらいに怪しい主張を行っている団体がこの「江戸しぐさ」を広めたのですが、不思議なことにこれが受けが良く、小中学校の道徳の教科書に盛り込まれるなど様々な教材で取り上げられることとなりました。しかし近年は化けの皮がはがれてきたため、一度は採用した教科書会社でも歴史的事実に疑問点があるとして、次回の改定以降は載せない方針とする会社が増えてきております。
ただそれにしたって、なんでもってこんなおかしな捏造ネタを大の大人や組織がこぞって誉めそやした上に取り上げ、わざわざデマを流布してしまったのでしょうか。私が考える一つの要因はまずはその語呂の良さで、「江戸しぐさ」という日本語で発音するのにちょうどいい五音と「江戸」と「しぐさ」という二つの単語の組み合わせが良かったからだと思います。仮にこれが「江戸身振り」とか、「江戸動作」、「江戸礼儀」だったら絶対流行んなかったでしょう。
もう一つの理由はほかの多くの人も述べている通り、道徳などのマナー教材として如何にもな感じで使いやすかったからでしょう。昔人の知恵というまさに格好の道具で、しかも極端にコミュニケーション下手な日本人にとってすればくだらないマナー講座ですら非常にありがたがってしまいます。だからこそ歴史的検証は一顧だにせず、オリンピックの件といいクズ役人揃いの文部科学省は子供に教えるに当たっていい概念だとして紹介してしまったのでしょう。
幸いというかまともな人たちがこれはそもそも捏造されたものだとしてきちんと認識をただしてくれたことから駆逐が進んでいますが、これほどどっからどう見ても怪しい概念ですらちょっとした拍子に流布されてしまうというのはなかなか考え物です。特に流布した文部科学省の無能ぶりは。
そういうあたりどれだけ情報が発達したとしてもデマというものは簡単に生まれるものだなと再認識させられます。私自身も時間あったらこうしたデマの発生経緯などを真剣に研究したいところですが、何事も疑い深くとまではいかずとも、普通に考えておかしいものはおかしいと判断出来る人間でい続けたいものです。
最後に蛇足かもしれませんが、「江戸っ子」という言葉はこのところ本当に聞くことがなくなりました。こち亀ではまだ使ってるのかな?
以前に読んだ本で江戸っ子文化にとって一番致命的だったのは関東大震災で、あの災害によって東京(=江戸)町内のコミュニティが崩れたほか、外部からの流入者も増えて昔からの江戸っ子的な価値観は徐々に薄れていったと書かれてありましたが、これに関しては「なるほどそりゃそうだね」と思えるだけに私はこの説を信じています。翻って現代では東京出身者であっても、「おいら、江戸っ子でい」というような人は皆無で、昭和の映画にはまだそういうキャラがありましたが現代のドラマではこういうキャラを出す方が返って不自然になってしまうあたり、時代に駆逐されてしまったのかなとちょっと寂しく思います。