2015年8月3日月曜日

「江戸しぐさ」は何故流布されたのか



 上記の画像はどれもネット上で私が拾ってきた「江戸しぐさ」と言われるものの資料です。この江戸しぐさはここ数年で急激に取り上げられる事が増えた言葉でどういったものかというと江戸時代の町人における対人マナーを表すものとして紹介されていますが、その実態は捏造して作られた概念というよりほかありません。

 詳細はリンク先のウィキペディアのページを見てもらう方が早いのですが、そもそも論として以前は全く取り沙汰されてなかったのにここ数年で急に「江戸時代のマナー」といって出てきた点一つとっても十分怪しいですが、このデマを広げている団体はその理由として、「明治維新時に新政府が江戸の町人を大虐殺したため継承者が減り、身を隠したため」という、ジョジョ風に言えば「テメー、ヤクでも決めてんのか?」と言いたくなるような妄言を吐いております。
 なんで新政府がいちいち町人を虐殺しなくてはならないのか。そもそもそんな虐殺があった
ような記録は全くないし、政府が検閲したと言っても当時江戸にいた外国人ですら誰も言及していないなど、真面目に否定すること自体がなんか馬鹿馬鹿しくなってくるほどのトンデモ論です。

 このようにあからさまなくらいに怪しい主張を行っている団体がこの「江戸しぐさ」を広めたのですが、不思議なことにこれが受けが良く、小中学校の道徳の教科書に盛り込まれるなど様々な教材で取り上げられることとなりました。しかし近年は化けの皮がはがれてきたため、一度は採用した教科書会社でも歴史的事実に疑問点があるとして、次回の改定以降は載せない方針とする会社が増えてきております。

 ただそれにしたって、なんでもってこんなおかしな捏造ネタを大の大人や組織がこぞって誉めそやした上に取り上げ、わざわざデマを流布してしまったのでしょうか。私が考える一つの要因はまずはその語呂の良さで、「江戸しぐさ」という日本語で発音するのにちょうどいい五音と「江戸」と「しぐさ」という二つの単語の組み合わせが良かったからだと思います。仮にこれが「江戸身振り」とか、「江戸動作」、「江戸礼儀」だったら絶対流行んなかったでしょう。
 もう一つの理由はほかの多くの人も述べている通り、道徳などのマナー教材として如何にもな感じで使いやすかったからでしょう。昔人の知恵というまさに格好の道具で、しかも極端にコミュニケーション下手な日本人にとってすればくだらないマナー講座ですら非常にありがたがってしまいます。だからこそ歴史的検証は一顧だにせず、オリンピックの件といいクズ役人揃いの文部科学省は子供に教えるに当たっていい概念だとして紹介してしまったのでしょう。

 幸いというかまともな人たちがこれはそもそも捏造されたものだとしてきちんと認識をただしてくれたことから駆逐が進んでいますが、これほどどっからどう見ても怪しい概念ですらちょっとした拍子に流布されてしまうというのはなかなか考え物です。特に流布した文部科学省の無能ぶりは。
 そういうあたりどれだけ情報が発達したとしてもデマというものは簡単に生まれるものだなと再認識させられます。私自身も時間あったらこうしたデマの発生経緯などを真剣に研究したいところですが、何事も疑い深くとまではいかずとも、普通に考えておかしいものはおかしいと判断出来る人間でい続けたいものです。

 最後に蛇足かもしれませんが、「江戸っ子」という言葉はこのところ本当に聞くことがなくなりました。こち亀ではまだ使ってるのかな?
 以前に読んだ本で江戸っ子文化にとって一番致命的だったのは関東大震災で、あの災害によって東京(=江戸)町内のコミュニティが崩れたほか、外部からの流入者も増えて昔からの江戸っ子的な価値観は徐々に薄れていったと書かれてありましたが、これに関しては「なるほどそりゃそうだね」と思えるだけに私はこの説を信じています。翻って現代では東京出身者であっても、「おいら、江戸っ子でい」というような人は皆無で、昭和の映画にはまだそういうキャラがありましたが現代のドラマではこういうキャラを出す方が返って不自然になってしまうあたり、時代に駆逐されてしまったのかなとちょっと寂しく思います。

5 件のコメント:

  1. 片倉(焼くとタイプ)2015年8月4日 21:57

    時代考証家の名和弓雄さんのエピソードにこんな話があります。 ある時代劇で小道具として普段使わ
    れている提灯とは違う、実際の江戸時代で使われていた提灯の復刻品を提供しました。 そしてその
    時代劇をみた視聴者から、提灯のデザインがおかしい、と苦情をうけ、その視聴者に、史実通りの
    提灯であることを説明して納得させたそうです。

    上記の例は、架空のデザインの提灯を本物と思い込み、史実通りの提灯を偽物扱いするという
    笑い話ですが、こういうことはよくありますね。  ロールプレイングゲームやラノベではよく中世
    西洋が舞台の作品がありますが、あれだって実際の中世西洋社会を再現しているわけではなく
    いわば、ファンタジーとしての中世西洋社会を描いているにすぎません。
    それと同じように時代劇で描かれる江戸時代も ファンタジーとしての江戸時代なのです。

    江戸しぐさはファンタジーとしての江戸時代であれば存在するかもしれません。 なにせあの世界では
    将軍様が、貧乏旗本の三男坊として一日中街中をうろついていたり、奉行所勤めのうだつのあがらない
    小役人が凄腕の暗殺者だったりしますから。


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    1.  以前に読んだ記事の中である外国人が日本の時代劇を見て、「どうしてよぼよぼの副将軍(水戸黄門)には正体がわかるとみんな平伏するのに、若くてたくましい将軍(吉宗)には逆に襲い掛かるんだ?」という、至極いい所を突いたツッコミが来て、ああもうこれらは日本の様式美になってるんだなぁと思ったことがあります。
       ただ挙げられた提灯の例の様に、かえって史実通りの物をみせても見慣れないと逆に「史実じゃない」と指摘されることは十分ありそうですね。なんでもかんでも史実考証通りにすべきだとは思いませんが、あからさまな捏造が横行するのは見ていて鼻持ちならないのでこんな記事を書いてみました。

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  2. こんばんは。

    この記事をみて思い出したのですが、
    「良い言葉をかけると花(植物)が長持ちするが、悪い言葉をかけると花がすぐ枯れてしまう」
    というデタラメも、一時期、幅を聴かせて、学校の道徳などでも流布されていたそうです。

    10年くらい前、長女が幼稚園だったとき、「おたより」に、来月はこの実験をします!と書かれていました。
    でも、実験結果が報告されなかったし、うまくいかなかったんだろうな、と思います。
    幼稚園児が、花に向かって、汚い言葉でののしることを行う方が怖く、良い実験とは、言い難いと思います。

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    1.  植物に声をかける話は最近聞かないけど以前確かにありましたね。ってかそれが嘘だったなんて今初めて知りました、軽く信じてたのに……。
       娘さんの幼稚園で具体的にどんな実験がされたのかは定かではありませんが、もし自分がやるとしたら毎日、「お前も生け花にしてやろうか!」などと脅しつつ、デスメタルな音楽を流して聞かせ続けてみたいです。これできちんと真っ白なお花が咲いたら、デーモン小暮閣下のあの顔面の白さの謎が解けるかもしれません。

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  3. (笑)(笑)
    確かに、閣下はお元気でいらっしゃいますよね。

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コメント、ありがとうございます。今後とも陽月秘話をよろしくお願いします。

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