一つ前にあんな記事を書いておきながらこんな記事を書くのもアレですが、日本の漫画作品は絵柄やコマ割りの技術もさることながらその作品内のストーリーの奥深さ、面白さも海外から高く評価されております。以前に聞いた話だと欧米では漫画(コミック)はあくまで子供向けの内容であるのに対して日本の漫画は大人から子供まで、しかも真剣に考えさせられるような物が多いと評価されており、私自身もその通りだと考えております。
何故日本の漫画がそれほどまでに高いストーリー性を持ったかというと、それはやはり漫画の神様こと手塚治虫氏の素晴らしい才能によるものだと思います。元々手塚氏自身が映画や演劇好きでストーリー作りに力を入れるタイプだったということもありますが、それ以上にあの奇想天外で重厚さを高く持つストーリーを自ら編み出してあれだけの作品に表現してのけたという手塚氏の才能にはほとほとため息が出るくらいで、私は手塚氏は恐らく漫画家にならなくとも、小説家や戯作家としても十分に成功したのではないかと見ています。その手塚氏の影響を日本のほぼすべての漫画は受けており、そうした事を考えるとストーリーがいいということがいい漫画の条件と早くから認識されていたのでしょう。
そんな日本の漫画作品を私が読んでいて、それこそこのごろは全く本が売れない小説家も真っ青なストーリーを量産していく漫画家に出会う事も少なくありません。そこで今日は私から見てストーリー作りが上手いと思う漫画家を幾人かここで紹介しようと思います。
1、光原紳(代表作品「アウターゾーン」)
私がストーリー作りをする際に今でも最も参考にするのが、この光原氏です。このアウターゾーンはもう大分古い漫画ですが基本は一話完結のショートストーリー形式で、様々な人間が現実から考えられない奇妙な体験をするという内容で、作者がホラー映画好きということもあって全体的にグロテスクな描写が多いものの教訓的なエピソードも多く、何よりこうした暗い作品にありがちなバッドエンドではなくハッピーエンドで終わるために読後感のよい作品ばかりでした。作者本人も単行本の中で述べていますが、読者の思いもよらない形で絶望的な状況からハッピーエンドに落とす事に苦心したそうで、それだけに話の展開の仕方、構成の作り方は今でも学ぶものが多いと感じさせられます。
2、八木教広(代表作品「クレイモア」)
宗教画を思わせるような細い線で緻密に独特な絵を描く方ですが、それ以上に独特なのはストーリーの構成の仕方だと常々思わせられる方です。いちおう八木氏の代表作品としては「クレイモア」を挙げましたが、私はこれ以前の「エンジェル伝説」の方が好きで、あれほど腹を抱えて笑わせられた作品は未だかつてお目にかかったことがありません。この「エンジェル伝説」の具体的な内容を簡単に説明すると、主人公は非常に心優しい性格をしているも顔が物凄く怖いというありがちな設定の学園漫画なのですが、本当にありがちな設定なはずなのにどうしてあれだけ話を面白くできたのだろうか……。
3、岡本倫(代表作品「エルフェンリート」)
現在この作者は「ノノノノ」という作品を連載しており、この漫画は目下のところ私が一番熱狂して読んでいる漫画なのですが、やはり岡本氏とくれば前作の「エルフェンリート」に尽きるでしょう。
この作品は前にも一回取り上げた事がありますが、一見すると萌え系の漫画かと思わせられるようなかわいい絵柄ながらも内容はひたすらにグロテスクで、中には読んでトラウマになったという人もいるとかいないとか。実際に日本の漫画作品の中でもあれだけ暴力的、猟奇的描写に富んだ漫画となると「寄生獣」とか「ベルセルク」くらいなものなのですが、「エルフェンリート」の場合はそういう描写がなさそうな絵柄やキャラクターだけに読んでて受けるショックもひとしおです。この作品は話の中で多少ご都合主義的に初期のセリフと矛盾する点もあるのですが全体的には程よくまとまっており、ただグロテスクなだけでなく意外に考えさせられる内容から一気に読み切ってしまった作品でした。なお現在連載中の「ノノノノ」はグロテスクな描写はないものの、きちんとスキージャンプについて取材がされていてやはり大した作者だと思わせられるないようです。
4、楠桂(代表作品「鬼切丸」)
これはちょっと自分でも考えちゃいましたが、この楠氏はデビュー作品の「八神くんの家庭の事情」の連載中にも言われていた通りにキャラクターの心理描写を描くのが非常に上手く、それが遺憾なく発揮させられたのが上記に挙げている「鬼切丸」です。この作品を説明するとなるとちょっと面倒ですが、要は人間が恨みつらみを持っちゃうと鬼になって鬼切丸という名の少年に片っ端から切り殺されていくという話なのですが、何がすごいかというと鬼になる人間(主に女性)が鬼になる過程に持つ嫉妬や恨みといった感情の描き方が鋭く、それこそ読んでいて、「これでどうして鬼にならずにおれようか」と思わせられるような内容ばかりでした。私はこの作品を連載が終了してから読みましたが、よくもあれだけの心理描写を毎週描いていたなと感心させられるストーリーでした。なお現在楠氏が連載中の「ガールズザウルス」についてはあまり評価しておりません。一応買って読んでるけど。
5、徳弘正也(代表作品「ジャングルの王者ターちゃん」)
手塚治虫、水木しげる、さいとうたかをといった大御所を除いて、現役漫画家のなかで最もストーリー作りが上手い作者を挙げるとすれば、多少考える余地はあるものの私はこの徳弘氏を挙げるようにしております。徳弘氏とくれば代表作品に挙げた「ジャングルの王者ターちゃん」が一番知られていると思いますが、この作品も激しい格闘シーンの描写もさることながら、どれだけ緊迫したシーンの中にも一発で力が抜けるようなギャグを必ずちりばめ、非常にアクセルとブレーキの効いたストーリーがよく展開されております。特にギャグについては、よくぞこんなものを考えるなと思わせられるようなすさまじい下品さで、ウィキペディアにも書いてあるけどよくテレビアニメ化できたものだと感心させられるほどです。
ただ徳弘氏はそうしたギャグセンスもさることながら本筋に重厚なテーマ性を持たせることも多く、「狂四郎2030」ではクローン社会について非常に示唆の富んだ世界観が作られており、文句なしの傑作だと私からも太鼓判を押させてもらいます。なおこの作品にて私が一番笑ったのは、主人公と仲違いして出て行った親友を遺伝子改造されて会話の出来ない女性が追いかけ、「あ、あ、あ!」と言うのに対し親友が、「よせよ。どうせ何も分からないくせに……」と言い捨てるや、「あ!」と言いながらミニチュアの船の「帆」を指差し、親友も、「すんません、言葉わかってるんですか?」と平伏するシーンでした。
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