2013年4月12日金曜日

サムスンと日系企業の絶対的な違い

 前回の「サムスンは何故躍進したのか」の記事の中で私はいくつかのサムスンの成功の要因を解説しましたが、実はまだ本当の核心というか重要な部分を取り上げておりません。なので今日はその肝心要な部分である、サムスンと日系企業の絶対的な違いである「国内競争の壁」を私なりに説明しようと思います。もっともこの話はサムスンというより、日系企業の多かれ少なかれが抱える普遍的な問題点ではあるのですが。

 まず何度も書いている通り、日本の家電メーカーが不振にあえぐ一方でサムスンは世界市場で好調な売れ行きが続いております。サムスンの好調の要因は第一にウォン安が続いて輸出競争力が高まったことが背景にありますが、それとともに前回に取り上げた二番手商法ことリバース・エンジニアリング、徹底した現地マーケティングを行った上での商品開発なども大きく貢献しております。
 このうち、今回私が読者の方により注目してもらいたいのは「現地マーケティングの徹底」で、これに「何故」を付けてもらいたいです。なんか今日は意識してるわけじゃないのに括弧付けがやけに多いですが、「何故サムスンは現地マーケティングを徹底するのか」という疑問を持ったことはあるでしょうか。この答えは明かしてしまうと非常に簡単で、サムスンというか韓国企業にとって商品・サービスの販売先は韓国国内にはなく海外の市場にしかないからです。

 近現代史に詳しい方なら説明はいりませんが、タイや韓国では1997年にアジア通貨危機といって通貨暴落に伴う深刻な経済危機が発生しました。今私がやっている連載でも後で取り上げる予定ですがこの時に韓国はIMFから支援を受ける代わりにその監督下に入る、つまり経済政策を一任することとなるのですが、この時に規制緩和や財閥の統廃合などと言った徹底的な経済合理化政策が取られるようになりました。この時代の呼び方は「IMF危機」、「IMF事態」などと複数ありますが、この時の政策によって韓国国内では貧富の格差が拡大、というよりもむしろ一般市民の収入が激減して生活が成り立たなくなった一方で財閥企業の売上げは増加することとなります。

 この韓国経済の変化がサムスンにどのような影響を与えたのかというと、私が見るに二つのポイントがあるように思えます。一つは韓国国内で格差が拡大して中間層がいなくなり、サムスンの販売する電子機器などといった商品を購入する消費者市場が小さくなった。もう一つは財閥の統廃合が進み、競合企業がLG電子くらいしかいなくなったという点です。この二つの韓国市場の変化によってサムスンは、国内向けに商品を開発したり、必死で売り込んだりする必要性がなくなり、海外市場で売っていくしか生存の道がなくなったように私は思います。

 必要ないかもしれませんがもうちょっと詳しく説明すると、韓国ではIMFの介入以降、国民生活は非常に苦しくなり貧しい人が本当に増えました。貧しい人相手の商売では売り上げも利益も小さく、事業を拡大しようにもやってられません。次に国内で競合企業がいなくなったという点ですが、日本みたいに家電メーカーだけでも複数ある所と違って競争相手が少ないのだから、適当に商品を出すだけで国内では売れていきます。なので国内向けに商品を開発するくらいなら、初めから海外市場向けに開発する方がサムスンにとって売上げ上昇を期待できることとなり、必然的に海外現地でのマーケティングにも力が入って各地の市場に受け入れられる商品だったり、スマートフォンのGalaxyシリーズのように全世界を対象にしたグローバルモデルの開発に力が入ってくるわけです。

 翻って日系家電メーカーの状況を見てましょう。なんだかんだ言って日本国内の消費者市場というのは世界的にも非常に大きく、お膝元の国内市場を日系家電メーカーは無視できないというか自然と目が向いてしまいます。それがどんな結果を生むのかというと、「日本市場では売れても海外市場では売れない商品の連発」という、勘のいい人ならもう浮かんでるでしょうが「ガラパゴス化」を招いてしまうわけです。
 別にガラパゴス化自体は悪いわけではありません。独自発達した商品はなんだかんだ言って面白く、性能面でも同時代の海外メーカー製を大きく上回っていることも少なくありません。しかし日系企業の明らかに問題と感じられる点を指摘すると、日本国内で売れている商品をそのまま海外市場に投入しがちなところで、このブログで何度も言ってますが日本で売れたからといって海外の消費者に受け入れられる保証もないのにやけに自信満々で投入してくる日系企業関係者を私自身が中国でたくさん見てきました。凄いのになると、日本でも受け入れられてないのに海外では受け入れられると投入してくる会社もいましたが。

 やはり海外で商品を売っていくには、現地の消費者に合わせたアレンジが多少なりとも求められます。まだ自動車メーカーはこの点を理解しており、たとえばトヨタだと国内では全く売れていない「カムリ」という車がありますが、逆に海外市場では最強の主力車と言ってもいい販売台数を誇ります。詳しく見てないけど、多分「カローラ」に次いで売れてるんじゃないかな。
 同様に日産も微妙にデザインやカラーリングを変えるなどして現地の消費者に合わせる努力が見られますし、こっちも日本じゃあまり見ないけど中国では「ティアナ」が多く走っていて「フーガ」はそんな見ません。彼ら自動車メーカーは日本で売る「国内モデル」と海外で売る「国際モデル」を明確に分けており、それぞれ別個に戦略をきちんと立てております。

 一方で家電メーカー。全くしていないわけではないのでしょうが海外向け商品開発の点ではサムスンに比べその努力は非常に劣っていると言わざるを得ません。特に劣っていると私が思うのはデザインへの注力で、サムスンがロンドン、ミラノ、サンフランシスコ、ロサンゼルス、東京、上海の海外6都市にデザインセンターを置き1000人超の人員を配置しているのに対し、日系メーカーはどうもデザインに対するこだわりが低すぎる気がしてなりません。新商品説明会でもやたら機能をPRしますが、「デザインでは一歩先を進んでいる」といったような言及はあまり見られませんし、私自身も家電量販店で日本製家電商品見比べててもうちょっとカラーリングとかこだわれないかなとこの頃疑問に思うデザインが多いです。ノートPCで言えば、台湾メーカー製の方がいい味出しているし。

 昨日に引き続き長々と書きましたが、冒頭に掲げた国内競争の壁というのは、日系家電メーカーは国内に競合企業も多く市場もあるため、どうしても国内市場向けの商品開発に意識が行ってしまうところがあると言いたかったわけです。逆にサムスンは国内には競争もなければ市場もないため、初めから海外市場向けに商品を開発してくるわけですからそりゃやはり分があるでしょう。
 じゃあ日系家電メーカーはどうすればいいかですが、言うまでもありませんが自動車メーカーのようにもっと国内と海外の販売戦略をしっかり分けることが大事で、「日本人には嫌われても外国人には大受けする商品」を作れる人材や企画をしっかり用いることに尽きます。もっとも、海外なんていいから国内だけで売ってればいいといいう戦略であるのならばそんなことをする必要もないのですが。

  参考文献
・サムスンの戦略的マネジメント 片山修 PHPビジネス新書 2011年

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