2013年7月5日金曜日

書評「上海、かたつむりの家」

 二回連続で書評というかレビューが続いてしまいますが、実はこの記事はため記事で木曜執筆、金曜アップなのでどうかご承知を。ぶっちゃけレビュー記事は時期を選ばないからいい。
 そんな今回紹介するのは「上海、かたつむりの家」という中国の翻訳小説です。なんでこんな本を取り上げようと思ったのかというと、友人から薦められて読んで、中国都市部の住宅事情と合わせて説明するのにいい本だと思ったからです。

 まずこの本の元々のタイトルは中国語で「蝸居」というもので、これは直訳するとそのまま「かたつむりの家」となり、小さい家でも我慢せざるを得ない中国都市部住民を表したタイトルです。かつて高度経済成長期の日本はEU(当時はEC)に、「あいつらはウサギ穴みたいな家に住んでいる」と揶揄されたことがありましたが、かたつむりよりかはうさぎ穴の方がまだマシかなぁと隔世の感を覚えます。

 ではこの小説は一体どんな話かというと、スタートは上海市に住む若い子持ち夫婦が自分の住宅を購入するために悪戦奮闘する姿から始まります。この夫婦は元々地方出身で上海の大学を卒業してからそのまま上海で働いていますが、給与は低いのに上海だと住宅家賃が高いもんだから生まれた子供は両親に預け、逆単身赴任みたいな感じで働いている夫婦です。
 そんな子どもと離れ離れの生活に悩んだ妻が、「何もかも不幸なのは自分の家を持ってないからだ」とばかりに急に家を買おうと動きだしたものの、住宅バブル真っ盛りの上海では買おうとする傍から値段がどんどん高騰し、一度仮契約を結んだ住宅も、「新しい客がもっとお金積んでくれたからあの話はなしね」とばかりに契約を祖語にされたりなど、買おうと思ってもなかなか買えず、イライラが募って夫婦仲も段々険悪になっていくというような具合です。

 と、前半はこのように住宅購入に振り回される今どきの若い夫婦がメインで描かれていて面白いのですが、中盤から妻の妹の目線が中心となっていきます。この妹には婚約者がいるのですが住宅購入に奮闘する姉を助けようと動いたところ、家も車も財産も、さらには妻子も持っているある公務員に一方的に惚れられ、住宅購入の頭金を援助してもらったことからなし崩し的に関係を持ってしまい、後半のネタバレをすると最終的に妊娠までしてしまいます。
 もちろんこんな関係は婚約者にもばれて妹は振られてしまい、妹自身も最初はいやいやだったもののどんどんと公務員にすがりつくようになっていくのですがそこで問屋を下さないのは公務員の妻です。こっちも最終的には不倫がばれて、公務員の妻に二度と近寄るなと妹は言われますがそれを拒否したところちょっと暴行され、お腹の子供は流産してしまいます。挙句、公務員はこれまでの汚職がばれて警察にマークされ始めるのですが、妹が病院に担ぎ込まれたと聞いて慌てて車を走らせます。そしたら「逃げるつもりか!?」と警察に追われて、カーチェイスの末に対向車と激突、そして妹の名を呼びながら敢え無く昇天……というような、なんか昼ドラみたいな終わり方でした。

 ここまで読んでてわかるかと思いますが、前半は今の中国の社会事情を描いてて面白いと思ったものの、後半は単なる痴話物の話でしかなくそれほど評価するに値しません。まぁ敢えて抜き出すとしたら、妊娠して一人で公務員の帰りを待つ妹がある日散歩に出ると、前の婚約者が別の女とすごい幸せそうに歩いているのを見て、「ああ小さな家で貧しくても、あの人と一緒にいた時期が一番幸せだったのに」とこれまた昼ドラ的なセリフを吐くシーンがあるのですが、このセリフは多分、今の中国の若者がぜひ言ってもらいたいセリフの一つだと思います。

 というのも中国ではまだ世間体というか見栄を気にするところがあり、結婚するに当たって家を買って、車も持ってないと駄目みたいな感覚が残ってます。数年前に、「家も車もなくったって結婚しちゃえ」的なノリのドラマ「裸婚」が放映されてからは「裸婚族」というのも出てきて少しはましになりましたが、それでも日本人と比べると結婚前に資産を揃えなければという意識は尚強いです。
 ただ私が思うに、中国人自体がそうした見栄というか世間体に付き合うのにこのところ疲れを感じているような気がします。特に住宅に関しては先ほども言ったように年々価格が高騰してただでさえ手が届かないものが余計に遠くに行っているような状況で、買おうったって無理じゃんと多かれ少なかれの若者は考えているように思えます。

 本題から大分離れてきましたが続けると、今の中国都市部の住宅価格の行動は給与の伸びよりも高いため、時間が経てば経つほど買えなくなってくるような状況です。だからこそみんな急いで買おうとして余計に価格が高騰していくのですが、日本もバブル前なんかは同じ状況だったと聞きます。中国政府もあれこれ対策打って価格高騰に歯止めをかけようとはしていますが、そう言った政策と共にこういう小説の様な、「無理して買わなくてもいいんだよ(・∀・)」という言葉が中国社会に求められているし、そういう言葉を中国人も聞きたがっているように個人的に感じます。だからこの小説もそこそこ売れたんじゃないかなぁ、テレビドラマ化もしたらしいし。

 最後に蛇足ですが、じゃあ日本人はどんな言葉を聞きたがっているのかというと「無理して働かなくてもいいよ」じゃないかと密かに思います。ブラック企業関連でね。


2 件のコメント:

  1. 小生も「カタツムリの家」に住んでいますよ。上海は世界の上海だから、今後住宅価格は益々上昇すると予測しております。キミも早く上海の住宅を購入したら如何でしょうか?

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    1.  実際値段とか見ていて、すごい価格だと思ったしなぁ。上海では買わないけど埼玉のアパートだったらいつか買ってあげるよ。

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コメント、ありがとうございます。今後とも陽月秘話をよろしくお願いします。

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