昨日の記事で私は、「死にたい」と口にする自殺志願者はむしろ「これ以上生きていたくない」という価値観で、死への恐怖自体は持っている状態なのではないかという仮説を展開しました。ではそんな自殺志願者に対して、「死ぬのはよくない」と説得するのはいかがなものかというのが今日のテーマです。
昨日にも書いた通り、一般的な自殺志願者のメンタルとしてはこれ以降も生き続けることが負担というか重荷に感じており、それが死の恐怖すら乗り越える水準にまで達しているのではないかと思われます。ではこうした人たちに死を思いとどまらせるにはどうしたらいいかですが、アプローチを一つずつ上げていきます。
1、死への恐怖をさらに高める
死ぬこと自体への恐怖はあるのだから、生存忌避への意識以上に死の恐怖を高めてやればいいのではというアプローチです。具体的には、「死んだら訳の分からないところで働かせられるよ」とか、「閻魔様怖いよ」とか、「天国いけないよ」とかかなと思いますが、自分でも何言ってるんだろうかって気がしてなりません。あまり有効なアプローチじゃないと思うのでもう切ります。
2、生存欲求を高める
生存忌避が意識が高いということは要するに生存欲求が落ち込んでいるともいえるので、生きていくことが楽しいとかプラスだと思わせるよう仕向けるというのがこのアプローチですが、今回の記事の主題として、こうしたアプローチの有効性について強い疑問を感じています。
何度も書いている通り、一般的な自殺者は今後生存していくことに希望を見出せないからこそ自殺という手段を検討しているわけです。その背景は様々ですが、例えば病気から今後健常者のような生活ができないとか、借金を抱えてしまった人に、「生きてりゃいいことあるって」というのは、実現し得ない希望を要求するようで逆効果になるような気がしてなりません。彼らは「望ましい生活」が実現し得ないからこそ生存忌避を持っており、先ほどの説得は鬱病患者に禁句の「元気出せ」と言っていることに近い気がします。
3、視点をずらさせる
自殺志願者は自らが望む生活や人生が送れないという意識が自殺を検討させているのならば、個人的に一番いいアプローチとしてはその「望ましい生活や人生」のイメージを変えてしまうのが手っ取り早いと私は考えます。例えば「正社員で、家族に囲まれ、オフィスでバリバリ働いて休日は優雅に過ごす」というイメージを抱え、そのイメージ通りに歩めず苦しんでいる人がいたとしたら、「派遣社員で、独身ではあるが家族持ちより自由にお金使え、個人的な趣味に邁進できる」という人生の方が幸福であるかのようなイメージを吹き込むとかです。病気を抱えた人であれば、病気とは関係ない部分での人生に価値があると思わせるなどあるでしょう。
真面目な学問の話をすると、社会学上で自殺は自己イメージと現実の姿とのギャップが開くことにより悩みが深まり発生するという考えがあり、私も現実の自殺はこうした背景に根を持つものが多いと感じます。恋人に振られての傷心自殺などはまさにこの典型でしょう。
そういった場合はどうするかと言ったら、現実の姿は変えようがないのだからイメージを変えていくしかありません。なおこのように現実とのギャップをイメージを変えることで埋めることを「認知的不協和」と呼び、これは食べ損ねた料理を、「きっとおいしくない料理だろう」等と後付けで思い込んでストレスを減らすなど、日常でも多々見られる心理行動です。自殺志願者への説得というか思いとどまらせるには、こうしたイメージの転換が一番効果的だと私は考えます。
最後に、今回私が提唱した生存忌避と死への恐怖の二つの概念の数直線モデルで、生存忌避がないにもかかわらず死への恐怖がない状態は死そのものに価値というかメリットを感じている状態で、切腹や死に物狂いの突撃がこれに当たり、一般的な自殺が「消極的な自殺」に対しこちらは「積極的自殺」と呼んで区別しました。
これとは別のモデルで、生存忌避が高いにもかかわらず死への恐怖もさらに高い状態というのはどんな人間が当てはまるのか。敢えて言えば最近というかちょっと前に一部で出回ってこのところ聞かなくなった「無敵の人」がこれに当たるのではないかと思います。社会的地位や信用、資産などの失うものが何もなく、犯罪行為に対する処罰が何の抑止力にもならない状態で犯罪行為を犯すような人たちを現わす言葉ですが、現実に検挙まで至った彼らに共通しているのは現実に絶望して社会を恨んでいるにもかかわらず、その攻撃性が自己には向かわず(=自殺)外部へ向けられる点で、その方向ガイドとなっているのはなんとなく「死への恐怖」じゃないかなという気がします。要するに、死への恐怖が一段と強いにもかかわらずこれ以上生きていたくないという状態のように思えます。なんとなくですが、死刑に対して無駄に強がっているように見えるところもありますし。
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