・公的マネーが大株主、東証1部の8割 4年前から倍増(朝日新聞)
それで話は日本となるのですが、日本も安倍政権、というより黒田日銀総裁が就任してからというもの、ヘリコプターマネー政策が当たり前と化していきます。その結果が上記リンク先が報じている通り、日銀と年金機構が二人そろって日本株を保有量で最大の投資機関となっています。さすがに過半数を握るに至る企業はないでしょうが、全時価総額の12%をこの二つが握っていると言われており、この率は今後もさらに上昇していくとみて間違いないでしょう。
この市場介入はいうなれば国家による経済の介入です。ケインズ主義が普及して以降、政府が自国の経済に関与、干渉することは当然とされましたが、過度な介入はその市場性を阻害するとして批判されてきました。しかしリーマンショック以降、知らず知らずのうちに世界各国でこのように中央銀行が自国の株を買いざさえる構図が一般化し、介入どころかコミットに至っても誰も批判しないし、当然視される世界となりました。
言い方を変えれば、国家による市場統制が一般化、強化しつつあると言っていいでしょう。リーマンショック以前はあくまで市場、アダム・スミス風に言えば「神の見えざる手(マラドーナ)」が株価を決めていましたが、今や市場性は一応存在はするものの、国家の判断と行為に左右される割合がどんどん広がっており、実質的に株価は国がある程度支配している面があります。
このように書くとなんか悪い行為に見えるかもしれませんが、こうした国家介入の肥大化にメリットが全くないわけではありません。一つはその主目的である株価の引き上げ、ひいては企業の資金難克服を誘導できます。次に、前回散々持ち上げたアンチグローバリゼーションが危惧する、海外からの巨大マネーによる市場攪乱の低減です。
かつて日本の株式市場は海外機関投資家が一番資金を運用していて、彼らによって生殺与奪圏が握られているなどとさんざん言われてきましたが、今や上記の通り日銀と年金機構ががっちり抑えて安定株主となっており、攪乱される要素が消え失せたわけではないものの、以前と比べると海外機関投資家の影響力は目に見えて小さくなってきています。
一方、デメリットとしては言うまでもなく、市場の自由性が損なわれることです。本来ならばその実績に不釣り合いなくらいに加入によって株価が引き上げられていたとしても、それに歯止めをかける「市場性」というものが弱まってきています。こうした点は主犯の日銀も把握しており、ヘリコプターマネーはあくまで一時しのぎであり、その役割を果たしたら市場から金を引き上げねばならないという出口戦略が2年くらい前までは議論していました。しかし、去年1年間においてその手の出口戦略に関する議論を私はほぼ見ていません。
何気にこの辺、「またバブルが来てから返せばいいや」といって急に増えだし、そのまま返せなくなった国債と似たような経過である気がします。あくまで一時しのぎという建前でやり始めたところ、その後ずっと好転せず、いつの間にか借りた金を返すためにまた借りるというカイジみたいなサイクルへと国債は入りしました。日銀と年金機構の市場介入も似たような雰囲気を感じるだけに、先ほど述べた通りその市場における時価総額の保有額と率は今後も上昇し続けると予想しました。
もっとも株価自体は上がっているのだから、一切を無視して今一気に日銀と年金機構が保有株式を処分したら、かなり大きな含み益が出ることは期待できます。その点は利息が付きまとう国債よりかはマシと言えるかもしれません。経済は破綻するかもしれないけど。
ただこのままいくと、各国の金融市場において市場性がどんどんなくなり、国家が経済をそのまま支配することが当たり前のようになるのではと個人的に危惧しています。少なくともかつてと比べ自由主義経済思想は交代し、統制主義が非常に強まっています。独立性が大事と言われる中央銀行も今や米国も含め政府の言いなりであり、いわんや中国はってところです。そうした背景を考えると、今後の経済思想はますます統制色が強まっていくのではとも予想しています。
無論、最初に書いたように統制経済だからダメというわけではありません。統制なら統制で、やり方というか対応の仕方はもちろんあると考えてはいます。
ただ日本の場合だと、経済活動に関して上記の金融面での影響以上に、実体経済に及ぼすある影響が今後足を引っ張るのではと密かに睨んでいます。この辺も自分以外で言及している人がいないものの、「かつて批判されていた今や当然視されるようになった風潮」あり、気づいていないだけで結構価値観変わってきたと思える内容です。というわけでその内容はまた次回に。