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2010年7月28日水曜日

千葉景子法相の死刑執行署名について

 かなり以前に佐藤優氏がその著作において、日本で法務大臣の権威が低すぎるのは問題だという指摘を行っていました。佐藤氏によると米国では大統領が突然死した場合、ピンチヒッターで次の大統領に就任する優先順位は第一位に副大統領で、確か二位か三位に法務大臣が来るそうで、法治国家において国の根幹となす法律を管理する最高責任者はその職務を全うするに足る相応の人物がならなければいけないと重く見られているそうです。それに対し日本では、国土交通大臣や厚生大臣と比べると利権が少ないという理由で権威が非常に低いのは異常だと佐藤氏は指摘していました。

 佐藤氏は検察から国策捜査を受けた事があるゆえになかなか説得力があるのですが、確かに近年私が確認するだけでもこの法務相という職には首を傾げざるを得ない人選がことごとくなされており、それまでの経験で法務に全く携わってこなかった人間や、失言を繰り返す人間がなるなど、どこかお飾りというかマスコット的な大臣職にしか扱われていないだろうと感じていました。
 幾つかそういった法務大臣経験者を出すと、まず第一に挙がってくるのは第二次小泉内閣での南野知惠子氏です。国会での質問に度々窮してついに出てきた言葉が「何分、専門家ではないもので」という発言で、法の素人がどうしてその最高責任者になれるんだよと見ていて呆れさせられました。

 次に問題性があると私が感じたのは麻生内閣での森英介氏です。森氏は不法入国していたフィリピン人家族の処置に対して曖昧な態度を取り続けた上に、あまりニュースでは取り上げていませんが冤罪だった可能性が未だ濃く残る飯塚事件の犯人の死刑執行署名にサインしております。

 簡単に飯塚事件について説明するとこの事件は検察と警察が冤罪だったと完全降伏するに至った足利事件と全く構図が一緒で、警察が犯人を特定するに至ったのは現場で見られたと証言のあった車と同じ車を犯人とされた人物が持っていたことと、当時の技術レベルの低い不正確なDNA鑑定の結果だけでそれ以外の物証は何もありませんでした。
 しかも犯人とされた人物は終始無実を訴えていたのですが、死刑執行の優先順位が100人中61番目だったにも関わらず、再審請求が行われていたにも関わらず刑が執行されました。この異例ともいえる執行が何故行われたかについてはいろいろいわれていますが、事件の舞台となった飯塚市がある総理経験者と同じ選挙区だったことが影響していたのではという意見があるとだけ申しておきます。

 この他第四次小泉内閣での杉浦正健氏も如何な人物でしたが、そんな法務大臣職に民主党が政権交代して誰がなるかと思っていたら、杉浦氏同様に就任するや、「死刑執行の署名は行わない」と言い出す千葉景子氏でした。いい大人だったら本当にやるやらないは別としてこういったことは口には出さないでいるべきだと思うのですが、弁護士出身とはいえまたも不安な人間がなったなぁとかねてから思っていました。そうしたら、

千葉法相、2人の死刑執行 「見届けることが責務」と立ち会い(産経新聞)

 なんとかつての自分の発言はどこいったのか、千葉氏は今日になって突然二人の死刑受刑者の刑執行を行ったと発表してきました。
 そもそも千葉氏は前回の参議院選挙で落選しており、現在はいわば民間人大臣であります。小泉政権の頃の竹中平蔵氏みたいに民間人ではあれども経済学者出身として専門分野に直結する経済産業担当大臣を務めるというのならば分かりますが、何度も言いますが法治国家において法を管理する最高責任者が選挙の洗礼を受けない、っていうか洗礼を受けて落選し、国会議員でもなくなった一民間人が法務大臣を務める事には前々から批判がありましたが、まさかそんな人間が死刑執行を決めるなんて私もさすがに唖然としました。

 この千葉氏の民間人という地位について枝野幹事長は執行の署名はまだ千葉氏が参議院議員資格のある24日に行ったとフォローを入れていましたが、これはこれで企業で言うなら退任間近の社長が人事に介入するような行為と変わらず、少なくとも死刑執行の署名をするに適当な時期ではなく問題があるように私は思えます。

 今回の死刑執行の一件は、言ってしまえば任命されれば誰でも死刑受刑者を好きに処刑できるという事を証明してしまったと思います。死刑という制度についていろいろと議論する余地はありますが、今回の一件はどこをどうみても評価できる点を見つける事は多分出来ないでしょう。これを期に法務大臣職にはもう少しまともな人物がなるようになればまだいいのですが。

2 件のコメント:

SOFRAN さんのコメント...

一昨日の千葉景子法相による死刑執行には、僕も驚きました。千葉氏は先の参院選で落選し、それにも関らず続投を決めた事に関しても強い疑念を感じていました。また、千葉氏は野党時代には参議院議員として、2度も、取り調べにおける録画・録音による可視化法案を提出、可決させておきながら、法務大臣になるやいなや「議論が不十分だ」とし、2012年頃まで様々な場で議論をしてから法案を提出するという方向転換をしました。 その頃から思っていましたが、29日の朝日新聞3面にあるように法務官僚に上手になだめすかされながら取り込まれてしまったんでしょう。その記事の中で、法務省の幹部が「死刑執行もせずに議論や情報公開なんて話には乗れない」という態度をとったとありますが、この発言もどうかなと。死刑執行という一人の人間の命を奪う(その人は卑劣な犯罪者ではあるが)という事に対する認識の重さを感じられず、単なる一つの手段であるかのように取れたからです。 僕も死刑制度には疑義を抱いていますが、花園さんも言及されているように、あまりにも非道な犯罪をメディアなどを通して目にすると「死刑」という単語がちらつくことも事実です。複雑ですね。

花園祐 さんのコメント...

 死刑制度については延び延びになっているけど、また近くに議論を整理する記事を上梓しようと思っています。
 千葉景子氏については私も、どこか法務官僚に操られている観がしますね。元々も思想的にあやふやな感じがぬぐえませんでしたが、このところの発言を聞いていてもなにか複数の人間が話しているような印象を覚えます。