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2012年4月1日日曜日

司法取引を導入するべきか否か

司法取引(Wikipedia)

 久々に司法関係の話題を取り上げようと思ったので、司法取引を日本でも導入するべきか否かというテーマについて今日は書きます。結論から書くと、今の日本の現状ではまだ全面的に導入するべきではないというのが私の意見です。

 話をする前に司法取引について、知ってる人は端折って結構ですが簡単に説明します。これはいわゆる「裁判取引」と言われ英米ではかなり盛んに実行されている制度なのですが、要するにその本人が関わっている犯罪について共犯者や手口、証拠などを供述、提出する代わりに罪の軽減化を認めるという制度です。具体的なメリットとしては、まだ摘発されていない事件が明るみになったり、もしくは組織犯罪などを一気にトリマ閉まることが出来るといったことが挙げられています。
 欧米なんかだとやはりマフィア絡みの犯罪にこの司法取引がよく使われるそうですが、このほか経済犯罪から詐欺事件までと、弁護士が仕事しやすいようになんかいろいろと整備されているそうです。

 そんな司法取引に対する日本の現状ですが基本的には一切認めていませんし、進んで自白をすることで反省の態度があるとみなして減刑されることはあっても、欧米のように証拠を提出するかわりに執行猶予を約束するということは多分許されておりません。ただ全くないというわけではなく課徴金減免制度といって、カルテルなど経済案件に関する組織犯罪に対しては申告した順番が早ければ早いほど課徴金が免じられる制度が2006年から導入されており、こういうのもなんですが物凄い成果を上げております。
 せっかくなので何か事例をひっぱってこようと検索したらこの制度を運用している公正取引委員会が記者も学者も感動するくらいにきちんと過去の事例案件をまとめておいてくれてます。それで事例ですが、最新の自動車向けハーネスに関する事例では恐らく真っ先に垂れこんだであろう古川電工が課徴金を全額免除されており、その次の住友電工は50%、そして最後であろう矢崎総業が30%とそれぞれ免除されています。矢崎に関しては海外でも派手にカルテルをやってたのかこの前幹部がアメリカで逮捕されて懲役付きの実刑判決食らってましたが、きついことを言うとハーネス業界ならさもありなんと私は感じましたし、まだ他にも隠していることがたくさんある気がします。自分もあの業界とはちょっと関わったことがありますが、見積もり依頼時にエンドユーザーとなる自動車メーカーの名前を出さないと絶対に販売価格を明かさない(=自動車メーカーごとに価格が初めから決まっている)ところといい、真面目にくたばったほうがいいと言いたくなるやり方してます。あと在庫くらいもう少し持てよ、住友電工。

 話は司法取引に戻りますが、確かにこの制度があると「早く自白した方が刑が軽くなる」という競争意識が働いて犯罪の摘発に間違いなく効果があると言い切れるのですが、それを考慮しても日本で導入するべきではないという立場を私は取ります。一体何故反対なのかというと、これは日本の司法制度に問題があるためで、刑事事件などで自白が過剰に重く取り扱われる風土があるからです。それこそ具体例を挙げていったら切りがないくらいなのですが、日本の刑事裁判では足利事件を筆頭に容疑者が自白したという供述書さえあればほかの可能性を示唆したり自白内容を覆す証拠や目撃証言があっても完全に無視されてしまいます。
 そのため司法取引がもし認められる場合、それこそ誰かが嘘の証言をして全く関係のない人間を共犯だったと供述したら、ほかに何も証拠がないにもかかわらずその無関係の人間が逮捕、拘留、実刑判決の三拍子を受けてしまいかねません。言うなれば、冤罪の温床となる確率が非常に高いのです。

 また仮に真実の証言や供述があっても、警察や検察側のねじれた判断でその供述者が罠にはめられる可能性も十分に考えられますし、現実にそんな事件が過去に起きています。その事件とは1993年に起きた埼玉愛犬家連続殺人事件で、この事件では4人もの人間(実際にはもっと多いとされている)を殺害した夫婦について遺体の解体などを手伝った男が「検察側から持ちかけられた」として、執行猶予を付けることを条件に犯行内容などを自供しました。この男の自供によって、というより自供があって初めて殺害を立証する証拠が発見され事件を立件することが出来たのですが、この男の第一審に対する検察の求刑には執行猶予はつけられず、判決も懲役三年の実刑がおりました。
 こうした検察の態度に対して男は約束を反故にされたとして司法取引の密約があったという事実を明かした上に、共犯の裁判における証言を一切拒否する行為に出ました。これに対し浦和地検はこちらはお約束通りに「密約はなかった」と存在そのものを否定しましたが、事件構造から言っても傍目に見てもあったとみて当然じゃないかと私は考えています。なお、共犯の夫婦二人には死刑判決が下りてます。

 以上のような考察から、私は司法取引が日本で導入されたら刑事事件などにおいて警察や検察によって恣意的に利用されるだけでなく、冤罪を大量に生みかねないと考えています。ただ経済犯罪に対する効果は既に実証済みであることからこのまま続けるべきで、さらに言うなら刑事事件においてもある程度適用先を限定する、それこそ完全な証拠があるのを条件にした上で暴力団などによる組織犯罪に対してのみであれば検討した上で導入してもいいのではと思います。この前も記事にて取り上げましたがそれこそオウム真理教などテロ集団に対してはむしろ適用すべきで、破防法よりも使い勝手がいいんじゃないかと勝手に考えてます。

 ちなみに今は就活シーズンですが、自分はどこかの面接でふとしたことをきっかけに、「仮に御社が社会的に明らかに不正と見られる行為を行っていた場合は自分は迷わず内部告発します」といって速攻で落とされたことがありました。自分が雇用する立場ならこういう人間を評価して引き込むでしょうが社会はなかなかそうもいかないようです。

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