本のタイトルが長いせいもあってこの記事の見出しも長いですが、今日は故あって読んだ「富士フィルム・マーケティングラボの変革のための16の経営哲学」という本を紹介します。
この本の概要を簡単に書くと、富士フイルムの執行役員も務めた著者の青木良和氏が社内研修会で取り上げた割と旬の経営者たちの経歴、業績、特徴を人物ごとにまとめられております。取り上げられている経営者の具体名を挙げるとキヤノンの御手洗冨士夫氏やソフトバンクの孫正義氏などメジャーな人物はもとより、ユニクロの柳井正氏、パナソニックの中村邦夫氏、でもってちょっと古いのだとクロネコヤマトの生みの親と言っていい小倉昌男氏など、主要な人物は一通りカバーされております。
ほかのビジネス本と比べてこの本の優れているところを私なりに分析すると、一冊の本の中に多くの経営者をまとめて紹介していることもあって各経営者の特徴というか人となりが非常に比較しやすいです。具体的には挙げませんが成功している経営者の共通点や、似たような構造改革をしながら微妙に異なる点などが把握しやすく、敢えて言わせてもらうとビジネス本に読み慣れていない大学生や新社会人などが読むのにちょうどいい本じゃないかという印象を受けました。
また経営者一人一人が項目別に比較的短くまとめられていることから読みやすく、文章自体もライターらしい文体ではなくわかりやすい書き方がされております。この点は何でも、中見出しなどを除いてほとんどの文章を青木氏自身が書いたということから二度びっくりです。
そもそもなんでこの本を私が手に取ったかですが、以前から富士フイルムという会社に興味を持っていたことがきっかけです。知ってる人には早いですが昨年に写真フィルムで世界大手の米コダックが経営破綻しましたが、同じく写真フィルム事業を営んでいた富士フイルムは未だに元気いっぱい(?)存続しております。また冷静に自分が所有している富士フイルム製のデジカメを手に取ってみると、「一体なんで写真フィルムを否定するかのようなデジカメという製品を富士フイルムは作っているんだ」と思えてきて、主業を見事に転換させた企業なのではないかと去年末あたりからマークしておりました。
その辺の顛末というか衰退する写真フィルム事業の一方で医療用フィルムや化粧品事業などへの多角化によって見事「コダックにならなかった」話は下記リンクのダイヤモンドの記事にまとめられています。
・【企業特集】富士フイルムホールディングス写真フィルム軸に業態転換新事業を生んだ“技術の棚卸し”(ダイヤモンド)
ちょうどシャープやパナソニックがテレビ事業で大赤字を出している最中だけに「選択と集中」、というより「捨てる勇気」という経営とはどんなものかと考えおり、何かのヒントになるのではないかと思って青木氏の本を手に取ってみたわけなのですが、富士フイルム内部の経営改革が主題ではないものの(ちらちらは書いてある)複数の経営者をきれいにまとめていることから期待以上に面白い本でした。なもんだから、今日の午前中に著者の青木氏に直接会ってきました。
我ながら今に始まるわけでもなく唐突なことをまたやらかしましたが、なんか調べてみると青木氏の住んでいる所と自分が住んでる所が近いことがわかり、折角だから接触を試みようと出版社を通じて打診してみると快く応じてくれて、今日のこの書評も直接書いていいとお墨付きを得られました。
で、肝心の青木氏からのお話ですが、先にも書いてある通りにこの本は青木氏をはじめとしたメンバーが富士フイルム社内で行った社内研修会の内容がまとめられております。そもそもその社内研修会はどんなところから始まったのかと尋ねてみると、社内研修というのはほとんどの会社で人事主導で進められるが、なるべく営業の現場にいる人間が必要な研修を自ら考え自ら組んだやった方がいいのではというところからスタートしたそうです。その上で、企業というかサラリーマンはどうしても視線が内向きというか社内に向きやすい傾向があるから、なるべく社外から講師を招いて会社の枠を超えた視点や論理力を若手社員に付つけさせる目的で実施していったそうです。
そうやって研修した内容を本にするに当たって意識した点について聞いてみると面白い回答が返ってきて、各経営者の資質よりもそのバックグラウンド、どういった境遇の出身でどんな教育を受けてどういった経歴を歩んできたのか、そういったものが経営者を測る上で重要なのではないかと思って重点的に書いたと教えてくれました。言われてみるとこの点が非常によく書かれてあり、読んでて納得というかあまりこれまでの自分にない視点だったなと思わせられました。
夢のない話をしてしまいますが世に出るビジネス本の8~9割は経営者などへのインタビューを経てコピーライターによって書かれております。それが決して悪いと言うつもりはありませんが、コピーライターが書くとどうしても「知識のない人間が知識のある人間を通して書く」ためその伝えられる内容にはやはり限界があるように思えます。
それだけにこの青木氏の本は富士フイルムの営業の現場にいた青木氏が自らの知識と経験によって直接書いてるだけあって、やっぱほかの本と違うような印象があり、自分でもややほめ過ぎな感じもしますが素直に推薦できる本です。そんなわけで興味のある方は若いプータローですら気さくに会ってくれる青木氏を応援する意味合いでも、ぜひ手に取っていただければ幸いです。
4 件のコメント:
富士フイルムは本業に近いカメラの部分でも、昨年ミラーレスのデジイチを発売しています。
「X-pro1」。画質にこだわるFUZIがセンサーまで独自開発した職人肌のカメラで人気です。(実は欲しかったりして・・)
富士フイルムで特筆すべきは、経営トップの危機感と選択力。
これは口で言うはやすし、行うは固し。選択するということはその何倍も捨てるものがあるのですが、「捨てる」ということは本当に難しいことなんです。
Appleのジョブズが優れていたのもこの「選択眼」と思います。
著者にお会いになったんですね。素敵です。
新美南吉という童話作家をご存知ですか? あの「ごん狐」の作者の作者ですが彼の作品の一つに「おぢいさんのランプ」という作品があります。
これは表向きは童話ということになっていますが、よく読めばビジネス本です。サラリーマンや経営者に向けて書かれたとしか思えません。
「捨てる勇気」について書かれています。著作権が切れたらしく、検索すれば電子図書館、青空文庫でも無料で読めます。
おぢいさんの最後の発言に注目です。世の中のすすんだことをうらんだりしてしまった私には耳の痛い言葉です。
自分も富士フイルムのコンパクトデジカメ使っていますが、非常に使い勝手が良くていい商品ですよ。
おでこさんも言われる通り、この会社は危機感とそれに対する対応がしっかりできていて、経営的にも参考にするところが多い会社じゃないかと自分も興味を持ちました。もっとも記事中には書きませんでしたが、富士フイルム社内ではこれでも「銀塩フィルムの凋落に対する対応が遅れた」という認識が持たれていたとのことで、なんていう危機意識だと深く感心させられました。
「おぢいさんのランプ」、早速青空文庫で読んでみました。短編で読みやすいのと共に、片倉(焼くとタイプ)三と同様に私も最後のヶ所で世の中の変化をすぐ恨むことに反省させられた次第です。
前々から感じていますが「捨てる勇気」というのは言うは易しで行うは難しです。言ってしまえば自己否定にもつながりかねませんし、やれるって人は本当に尊敬します。それだけにこの童話のおじいさんは、自画自賛も入ってるでしょうが確かに私もその捨て際は立派だと思えましたね。
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