最近関わることがだいぶ減っていますが、もし大学生、それも経済学部や政治学部の学生に合うことがあれば、「社会主義と共産主義の違いは?」という質問を投げかけたいです。さらに、「一体何故社会主義者はいろんな国で弾圧されたのか?」という質問もつけて。
恐らく、こんな質問をしたところで100人中1人もまともな回答をすることが出来ないでしょう。この問いに対する明確な答えを学校も教えないし、自分から興味を持って調べるような人間もほとんどいません。しかし歴史の流れ、特に二次大戦後にソ連を筆頭として生まれていった共産圏、そして冷戦の構造を考える上でこの社会主義と共産主義の違い、この二者の思想の相違点を把握しておかなければまともな理解も生まれず、また現代日本の社民党、共産党の違いも理解できないままというのは誠惜しいものなので、今日は浅学ながら私なりにこの二つの違いについて解説しようと思います。
結論から述べます。社会主義と共産主義の違いは究極的には「政府の存在を認めるか否か」です。
両者の思想に共通している諸条件としては、
1、労働者を中心とした社会
2、富・財産の共有(私有を認めない)
3、可能な限りの平等な世界
この三つに関しては共通していると言っても過言ではありませんが、これらの理想を達成するための手段として政府というもの認めるか、認めないかで異なります。この場合ですと、後述しますが用語の関係もあって断言できるわけではないものの、少なくとも日本における社会主義は国家による政府の支配はそれ自体があってはならないものと考え、その存在を否定しています。対する共産党としては、同じく支配階級による国家政府は打倒すべきとしながらも、富の再分配や効率的な社会運営のためには強大な権力を持った政府が必要だとして、政府の存在を認めます。もっとも認めるったって共産党は、その強大な政府機能は共産党自身が果たさねばならず、ほかの政党の存在はあってはならないとして排除します。この辺は今の中国政府と中国共産党が一番わかりやすいモデルケースですね。
社会主義、共産主義共に既存の国家政府、現代の日本やアメリカといった民主主義的選挙で選ばれた議員、そして官僚によって運営される政府は打倒すべきであることは一致しています。ただ社会主義は既存政府を打倒した後は政府はなるべく市場に関与すべきではなく国家防衛にのみその機能を持てばいい(=夜警国家思想)という考えを持っているのに対し、共産主義は既存政府亡き後を放任した所で世の中平等にはならないので、社会全体での平等の実現に向けてはやっぱり中央組織がある程度管理、運営せねばならないという考えにあり、政府(共産党の言い分としては「政府」ではなく「党」)が必要という立場を取るわけです。
ただどちらにしろ社会主義も共産主義も既存政府を打倒する、取って代わるべしという思想を持っているわけで、そのため19世紀から20世紀にかけて両者は時の政府によって弾圧されたわけです。まぁ「いつかぶっ倒す!」と言ってるんだから政府が弾圧するのも当然と言えば当然な気がしますが。
さて、書いてしまえば400字程度の簡単な解説で済むわけですが、こうした両者の違いについて理解している人はどうして世の中崇ないのでしょうか。この原因を私なりに書くと、社会主義陣営の人たちは相手が理解できないようなやたら難しい言葉で説明することがさも価値があるかのように考えてるようで、この手の簡単な内容について回りくどくかつ意味のない専門用語を駆使して主張することが多く、そのためこうした違いについて本人たちもわかってないのではないかと内心考えています。また最初に「用語の関係」と書きましたが、日本語において複数の意味が一つの言葉にごっちゃになっていることが多く、それがため混乱を招いているともいえるかと思います。
こっからちょっとディープな話になりますが、用語を一つ一つ整理します。
まず「社会主義」という言葉ですが、これは本来なら平等思考で労働者よりの思想を包括する大きな枠を指す言葉で、言ってしまえば「共産主義」も社会主義の中の一つのグループと言えます。なのに何故私はここで社会主義と共産主義を別々のものに熱かったのかというと、日本において社会主義はどちらかというと無政府主義(アナーキズム)という意味で用いられることが多いからです。
社会主義の中にある大きなグループの分け方としては、私の理解だと以下の三つに分かれます
1、社会民主主義:既存政府による統治の中で選挙といった政治活動を通して理想の実現を目指す
2、無政府主義:既存政府を打倒し、労働者同士のコミュニティーの中で理想の実現を目指す
3、共産主義:既存政府を打倒し、共産党が労働者を組織、指導して理想の実現を目指す
この三つをまとめて「社会主義」と呼ぶのが正しいのですが、日本だとどうにもそうはいかず、少なくとも「社会民主主義」と「無政府主義」は日本だと完全に別個となってて社会主義というとどっちかというと「無政府主義」を指すことが多いため、この際用語をそのまま使いました。ちなみにこれは共産主義の中の話ですが、社会運営の中心となるのは普通だと「労働者」ですが、これを「農民」に差し替えたバージョンも存在します。労働者が資本家(=企業経営者)と対立構造であるのに対し、農民バージョンは「農奴VS地主」という対立構造を煽って支持者を獲得するという戦略でこのバージョンは生まれていきました。旧ソ連はまだともかく、中国共産党は明らかにこっちの農民バージョンで支持者を獲得していったわけですが、なんでそうなったのかというと戦前戦後の中国は工場で働く労働者よりも農民のが多かったことが背景にあります。
久々にやや難しい内容を書きましたが、ここで書いたのはあくまで私の理解であるため必ずしも正しい解説というわけではありません。ただ先ほどにも書いたようにこの辺の解説においてどこも用語の不統一がひどく、誰かがこの辺をしっかり整理しないといけないのではないかと思い自分なりにこうして記事にまとめてみることにしました。
しかし改めてまとめてみると、結構小さな違いを社会主義陣営はこだわって、思想の遠い資本主義陣営よりも同じ社会主義陣営でしつこく争っていたんだなというのを感じました。さっきも書いたけど、本人たちも自分たちがどういう思想を持って行動しているのか、あんま理解してなかったんじゃないかなぁ。
6 件のコメント:
はじめまして。若生わこ(H.N)と申します。
先日たまたまこのブログを発見いたしました。
興味深い話が多く、少しずつ拝読しております。この記事も大変勉強になりました。
次の更新も楽しみにしています。それでは失礼します。
社会主義と共産主義の真ん中を取った社会systemは現在の中国の社会制度ですわ。
キミも社会主義の人間に見えていますわ。
若生様、コメントありがとうございます。
駄文ながらこうしてコメントいただけるとありがたいです。今後もご質問、書いてほしいネタなどがございましたらお気軽にコメントください。
いや、中国の政体はもはや完全な資本主義だよ。にもかかわらず中国共産党が独裁を取っているのは正当性を明らかに書いてるんだけど、それ触れたら非常に長くなるのでまた今度。まぁ自分が社会主義側の人間というのは認めるが。
お~、これは永久保存版です。大変、ためになります。
共産党の人が駅前で平和を訴えてビラを配ってると、本当は平和なんて好きじゃないでしょ!と思います。
現在の共産党の人たちは、尾崎秀美とかのことはどう思ってるんだろう、、。ヒーローなのかなぁ~。それとも、自分たちとは全く関係ない昔の人なのかなぁ~。
結構労力のいる記事でしたが、改めて読み返すと誤字があるのはともかく、そこそこきれいにまとめているかなという感じがします。
日本共産党の連中も、基本的には暴力革命による政権奪取を綱領に掲げていますし、おっしゃる通りに平和とかどうとか言う立場ではないですね。それと尾崎秀実とは、最近なんかネット上のあちこちで見かけますがなんかブームなのかな。
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