2015年11月14日土曜日

漫画レビュー「健康で文化的な最低限度の生活」

 あんまりやっちゃいけないと思いつつもこのところ紹介はしておきたい漫画が多いので続いている漫画レビューですが、今日は柏木ハルコ氏の「健康で文化的な最低限度の生活」という漫画を紹介します。書いてて思ったけど「今日は」っていうより「今日も」だな。

健康で文化的な最低限度の生活(Wikipedia)

 タイトルがなかなか凝ってありますが、この漫画は生活保護をテーマにした作品です。主人公は東京都の区役所に入った新人ケースワーカーの女性で、彼女と彼女の同期を中心に生活保護を受給している人たちとその支援の姿を追った作品であります。テーマがテーマなだけに連載開始当初から各方面から注目されて朝日新聞などにも取り上げられたそうなのですが、確かにこの「生活保護」というのは嫌が応にも普段生活していて気になるというか目に入るキーワードでもあり、また某売れっ子お笑い芸人の家族が受給していた事件が取り沙汰された時も大きな話題となっただけに、「年金」と並んで日本国民の関心事でトップ3には入るんじゃないかと思います。もう一つは今だったら「くい打ち」かな。

 作品の展開は基本的に主人公たちが担当する生活保護受給者とその家族が中心で、彼らへの就業支援や生活状況確認を通してトラブルを発見し、解決への道筋を探っていくような流れになっています。巻末には取材協力者、団体の一覧が載せてありますが、確かにこの作者は作品を読んでて生活保護というかケースワーカーについてよく取材しており、その仕事描写などは非常によく描けている印象があります。生活保護と言ってもそのシステムや受給に至るまでの過程、受給後の支援などはどうなのかは案外知る機会が少ないのですが、そうした部分へのとっかかりの様に生活保護とはどんなシステムなのかを知る上ではよく出来た構成になっていると太鼓判を押せます。
 あとこれは私の主観ですが、よく取材しているなぁと感じた点として主人公たちの着ている服に注目しました。一体どんな服かというと男性キャラは基本Yシャツにネクタイ姿ですが女性陣はブラウスにスカートやズボンが多く、しかもその組み合わせが程よくダサいというかババ臭かったりします。偏見かもしれませんがなんか役所の人たちってこういう服着ている人多いなぁというかパシッとした格好の人が少ないと前から思ってただけに、よくそういう情景見ていると変な所ですが共感しました。

 と、ここまで解説しておきながらですが現在この作品は連載が中断しております。公式発表では作者の体調不良だそうで、現在単行本は2巻まで出ておりますが連載は現在も再開されておらずその目途も経ってない状態なので続刊がでるかとなるとやや微妙な状態になっております。
 しかし、敢えて言わせてもらうとこのまま続きは出さない方がいいのではないかと私は考えています。あくまで私の評価ですが、今後連載が続いたとしてもこの作品は面白い展開が広がっていくとは思えないからです。

 先程にも書いたようにこの漫画は決して面白くないわけではなく人に全く薦められない作品ではありません。にもかかわらず何故このような評価をするのかというと、読んでていくつか気になった点があって連載を続けていくにはちょっと厳しいのではないかと感じたからです。

 気になった一つ目のポイントは、展開される話が取材で聞きかじった内容そのままなのではないかと思えた点です。各話で個別の生活保護受給者の状況と彼らへの支援の姿が描かれてはいるのですが、そのどれもがどこかで「生活保護者の実態」などのような特集で見たり聞いたりしたかのような内容で、「えっ、こういうケースとかあったんだ」と思うような意外性がほとんど感じられませんでした。
 私の想像ですが、取材で聞いた内容をほんの少し弄ってストーリーが作られているのではと思う節があり、取材内容を元に換骨奪胎させて自分の作品として仕上げるために付け加えるオリジナリティが余りにも欠けているような気がします。生活保護の実態をありのままに描くという目的で書かれているのかもしれませんが、結局それでは制度紹介漫画に終始してしまうこととなりかねず、「漫画家の作品」としてみるならばこれは大きなマイナス点になるのではと私は見ます。実際、回を重ねるごとに面白味が薄れていったし。
 なお、この取材内容にオリジナリティを付け加えるという点では「Dr.コトー診療所」が非常に優れていたと考えています。離島医という普段の生活ではなかなかお目にかかれない存在をテーマにしつつ、普通じゃあり得ない難手術を次々と成功させるというあのストーリー展開は今読み返しても見事だったと思える作品でした。

 もう一つの気になったポイントは、これは作者に対して過剰な要求であるということを承知した上で述べると、生活保護を選ぶというテーマ設定は抜群に良かったものの、そのテーマで漫画の舞台を東京都の区役所にしてしまったのは最大の失敗だったと思います。わかる人にはもう私が何を言いたいのかを想像していると思いますが、生活保護制度の問題というのは東京都内とそれ以外の自治体とでは本質が大きく変わってくるからです。具体的に言えば金というか予算の問題で、東京都は比較的予算が潤沢であるのに対してそれ以外の自治体はどこもカツカツの状態の上で税収は右肩下がり、なのに受給世帯は増えていて膨れ上がる支給費に対して限られた予算をどう使うのか、下手すれば生活保護申請をどこまで受け入れるのかというのが深刻な問題として横たわっております。
 実際にこの漫画の中ではそうした予算の話はほとんど出て来ず、生活保護者に対しても支援するのが当たり前のように描かれていて予算の面で切羽詰った場面は出てきません。ひどく汚い話ですが読者としてはそうした金にまつわるドロドロしたグロテスクな部分こそ一番見たがっているように思え、そうした場面を描けない、描き辛い東京都の区役所を舞台(恐らく取材先でもある)にしてしまったのはテーマはいいだけにとても勿体なかったという気がしてなりません。いい子向けの漫画じゃないんだからさ。
 理想を言えば最も多くの生活保護世帯を抱える大阪府、または人口減で限界集落すらも抱える自治体がこのテーマの舞台としてはうってつけだったでしょう。さすがに「闇金ウシジマくん」ほど激しい描写はいりませんが、やっぱり私も「一体どういう人が生活保護を受給するのか、できるのか」が一番見たかったです。

 以上のような評価から、決してつまらなくはないけど連載再開したとしても劇的に面白くなっていく可能性が低いというのが私の見方です。我ながら厳しい評価の仕方だと思いますが、生活保護ってどんなもんなんだろうと知りたい方にはまだ薦められる作品であることだけは述べておきます。


 

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