2016年10月8日土曜日

広島ガス子会社の循環取引事件 前編

「木工資材の中間取引に入らないか?」

 すべての発端はこの一言からでした。
 広島ガス株式会社の子会社でガス工事などを手掛けていた広島ガス開発株式会社(HGK)の営業社員であるXは1999年に、取引先である木工事業者の担当者Hよりこのように誘われたそうです。当時、HGKでは従来のガス工事だけでなく内装工事なども手掛け始めたものの売上げは思ったより上がらず、Xが芳しくない状況をHに洩らした際の返答が上の発言でした。

 Hによると、木工工事はマンションなどに木製の内装を施工することが決まり木材資材を発注した後、実際に施工されるまでにはほかの工事を待たなくてはならないため仕入から販売までの期間が比較的長くなる傾向があり、その間に木材を仕入れた業者は売上げが長期間立たずキャッシュ・フローにも影響が出てしまうとのことでいした。こうした資金ショートのリスク分散のため仕入業者とゼネコンの間へ商社の様にHGKを入れさせ、マージンとして販売利益の一部を得ないかとHはXを誘いました。この商流を図で表すと以下の通りとなります。

木材メーカー
↓↓↓
仕入業者(Hの会社)
↓↓↓
中間業者(HGK)
↓↓↓
施工者(ゼネコン)

 実際にはHGKやHの会社だけでなく他にも複数の会社が絡むのですがそれは置いといて、こうした取引は一般的に「商流取引」と言われ、資金リスクを分散させるために木材に限らず多方面の商品で実際に行われている取引です。卸会社や商社を経由するのも一種の商流取引で、実質的にはメーカーが最終消費者へ直販するような形態を除けばすべて当てはまると言ってもいいのですが、この商流取引と「循環取引」の違いを述べるとすれば、それは商品が実際にあるかないかだけの差です
 このHGKの取引の場合だと仕入業者から木材を購入し、ある程度の期間を保有した後に次の中間業者へ中間マージンを上乗せして販売する形となりますが、書類上のやり取りだけでお金だけを動かすため仕入れた木材は仕入業者の所からHGKの倉庫へ移動するということはないという取り決めだったのでしょう。あればの話ですが。

 話は戻りますがこのHからの提案に賛同したXは早速上司に掛け合い、Xの上司もHGKの販売先となる会社が比較的有名な所であったことから問題ないと判断し、この取引にGOサインを出します。こうして同年には上記取引が2件、取引額にして約2億円が取り交わされ、翌年には12件、約8億円へと順調に拡大していきました。
 この取引はすべてHからの指示を受けてXは行っており、仕入価格から販売価格まで事細かに指示を受けて行っていました。取引はその後も年々拡大していったことからXは2003年、同じ広島ガス系列の子会社でガス用機械器具の販売を手掛ける広島ガスリビング株式会社(HGL)も商流に入らないかと提案し、これに賛同したHGLも取引に中間業者として加わるようになります。なお調査報告書によるとこの時のHGLの中間マージン率は2%で、資材の保有期間は一ヶ月程度だったとのことです。

 しかしまさにこのHGLも商流に加わった頃から、HがXに指示する販売先がコロコロと変わったり、入金が送れたりなど不審な点が見られるようになります。調査を兼ねてXがHと入金が遅れている販売先へ訪問した所、報告書の記述をそのまま引用すると、「取引に不明な点があることを告げるのを聞いたりしたため」、XはHに対し不信感を抱くと共にもしやこれは循環取引ではないかという疑念を覚えるに至りました。

 先ほどに商流取引と循環取引の違いは実際にやり取りする商品が存在するか否かと説明しましたが、もう少し循環取引について詳しく説明しておきます。

A→B→C→A→B→C→A→……

 以上の様に、複数の会社間で商品を伴わない実体のない取引を延々と繰り返し続けることが循環取引です。実体はないとはいえお金はマージンが載っかって動き続けるため、取引額は一つ動くたびにどんどんと大きくなり、たとえば一取引当たり10%のマージンが乗るとすると、最初にAかからBへ動く金額は1万円だとすると次にBからCへ行くときは1万1千円、さらにCからAへ行くときは1万1千1百円と、以下エンドレスに段々増えていくこととなるわけです。
 言うまでもありませんがこうした実態のない取引は法律でも禁止されているものの、仮にばれなかったとすれば各会社は見かけ上、確実に売上げと利益が伸び続ける取引を半永久的に継続できるため、まぁ一言でいえば楽してかなり儲けられることとなります。あくまで見かけ上は。

 しかしおいしい事にはリスクがあるもので、この循環取引について言えば途中で何らかの形で取引が止まってしまうと色んな意味ですべてが終わってしまうこととなります。ばれた状況にもよりますが、下手すりゃ循環取引で得た過去の累積売上げと累積利益が一瞬で吹っ飛ぶ可能性も含んでおり、関与したほかの会社も相応の打撃が待っています。ってかほんとこの場合の会計処理ってどうすんだろね。

 再び話はHGKのXに戻ります。薄々、実体のない循環取引であることにXも気が付いてはいたものの、既に2003年当時の年間売上げは48億円にも達していることからやめるにやめることが出来ず、社内の誰にも相談や報告をすることなく指示・まとめ役であるHの書類作成すら手伝うようにもなり、本格的に循環取引へ手を染めていきます。
 そのような架空取引を続けたまま数年が経った2008年、思わぬアクシデントが起こります。なんとそれまで取引の指示役だったHが道路交通法違反で逮捕、収監されることとなりました。もちろんHがいなくなり取りまとめ役がいなければこの循環取引は一挙にご破算となるわけで、窮極まったHはXと、同じ循環取引に関わっている別会社の担当者に対し循環取引の各社に対する取りまとめと指示を引き継ぐよう依頼し、両者もこれを引き受けます

 こうして、何も知らずに循環取引に巻き込まれたXが循環取引の主犯となってしまったわけです。その後のXの結末はまた次回に。心ある読者は広島ガスの調査報告書を読むのを1日だけ待っててね♪

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