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2016年10月9日日曜日

広島ガス子会社の循環取引事件 後編

 前回に引き続き広島ガス子会社に起こった循環取引という会計不正にまつわる事件を紹介します。

 さて前回では広島ガス株式会社の子会社である広島ガス開発株式会社(HGK)の営業社員Xが知らないうちに木工資材の循環取引に巻き込まれ、途中からはもうやめられなくなって何故だか自分が取りまとめ役にまでなってしまったというところまで解説しました。そもそもこのXが社内の上司らに報告しなかったとはいえ、どうして会社側はこの循環取引に途中で気付かないまま十年近く同取引を続けてしまったのでしょうか。

 この理由について先に説明すると、まず循環取引はほかの会計不正と比べてばれにくいある大きな特徴があり、それは何かというと現金と伝票がきちんと取り交わされるという点です。商品という実態のない取引とはいえ続けている間は取引先から正式な伝票が発行された上で入出金もきちんと行われるため、内部監査などでも担当者が問題ない取引だと言ってしまったら検出することは非常に難しいでしょう。
 加えてHGKの場合だと同取引は問題のXが取り仕切っていたため第三者の目が入り辛く、また途中からXが営業課長にもなったため上司による監視の目も減ってしまいました。Xに誘われ循環取引だと知らずに参加してしまった同じ広島ガス子会社の広島ガスリビング株式会社(HGL)では実態のある取引なのかより厳しくチェックしており、最終消費先となる工事名から工事現場などに足を運んで実際に工事が行われているかを確認していたようですが、循環取引の取りまとめ役があらかじめ行われる予定の工事をネットなどで調べた上で取引明細に加えておくという隠蔽工作を行っていたため、上記のHGLによるチェックも潜り抜けていました。

 話は戻りますが、それまでの取りまとめ役だった人物が交通違反で逮捕収監されることとなってしまったことで2008年よりXが代わりに取りまとめ役を務める羽目となりました。取りまとめ役となったXは違法な行為がばれないよう、循環取引に関わる各社に対し取引の価格や量を事細かに指示し、上記に描いた様な最終消費先となる工事案件を調べて明細に加えたりなどして偽装を続けましたが、終わりっていうのは案外あっさりくるものです。

 同じ2008年の8月、この月に起きたマンション大手(時期的に見て同じ広島県の「アーバンコーポレイション」と思われる)の破綻を受けて、HGL社内で木工資材の今後の販売はリスクが高いと判断して同取引からの即時撤退を決定しました。
 広島ガスの報告書によるとこの循環取引が発覚した経緯は翌2009年3月の国税調査からの指摘としていますが、実際には撤退に先だって行った取引先とのやり取りや過去の取引の見直しなどから明るみに出たのだと思います。2009年3月発覚で同年4月に調査報告書を出すのはかなり難しいと思うし。

 とにもかくにも、木工資材取引からの撤退が契機となってすべてが明るみとなりました。過去約10年間の同取引の累計売上高は約444億円、累計利益は約12億円にも達しており、売上げ高だけで見れば昨今の大きな会計不正事件にも勝るとも劣らない金額です。
 事件発覚を受け親会社の広島ガスでは弁護士をメンバーに入れた調査委員会を組織して調査し、今私が見ている報告書をきちんと作成した上で公表しておりこうした姿勢は非常に好感が持てます。なおこの報告書は非常にわかりやすくまとめられているため興味がある方は是非一回は読んでもらいたいです。

 そしてその後の結末ですが、HGKでは全役員が解任された上で民事再生法の適用を申請して破綻した後、グループ会社の広島ガステクノサービスに事業譲渡して清算されました。当時の報道によると循環取引に関わった会社は計25社あったとされ、事件発覚後に少なくとも5社が経営破綻したそうです。
 関係者については事件の主犯となったXはもちろん解雇され、後に詐欺容疑で逮捕されています。そのXと共にパナソニック電工の子会社であるパナソニック電工リビング中国の社員を含む4人が一緒に逮捕されており、計5人が捕まる結果となりました。そして事件当時のHGK社長であった人物は翌年、自動車の車内で練炭自殺した姿で発見されました。

 自分がこの事件を知ったのはたまたま偶然でしかないのですが、一見してすごいドラマがある話だと感じました。事件の大きさといい循環取引という非常に見え辛い会計不正の手口もさることながら、主犯となってしまったXが本人も知らないうちに循環取引に巻き込まれ、いつの間にか取りまとめ役になってしまっていたという点でいくらかの同情心と共に、その運命の翻弄具合には言葉では言い表せない感情を覚えます。
 それこそXについては彼を循環取引に誘った他社の人物が、HGLが同取引からの撤退を決めるわずか2ヶ月前の2008年6月に交通違反で逮捕されなければ取りまとめ役になることもなかったわけで、どっちにしろ捕まったとは思いますがその後の印象とかが色々違っていたのではと思うとまたここにも運命のいたずらのようなドラマを感じます。

 ややキザったらしい言い方になりますが、一旦運命に絡め取られてしまうと如何に人間は抗いようがないかをまざまざと見せつけられているような気がする事件で、小説とかドラマの題材にしたっても十分じゃないかと思います。その上で広島ガスについては前述の通り、この事件に関して非常に詳細な報告書を作成しており、三菱自動車とは対照的に個人的には非常に真摯な態度であるように思え評価に値する対応を取っていると考えます。果たして東芝とかはこれより面白い報告書を作成してくれるのか、期待するだけそれは無駄か……。

  参考サイト
当社子会社の不適切な取引に関する調査結果等のご報告(広島ガス)
民事再生法適用を申請した広島ガス開発(HGK)の架空循環取引に責任問う声(自己破産と民事再生情報)

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