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2018年10月7日日曜日

死後の渡し守

 先日、電子書籍版が安売りしていたのでダンテの「神曲」を漫画化した本を購入しました。「神曲」は前から読みたかった本なのですが、電子書籍で出て切る文庫はどれも翻訳が古く読むのに難儀しそうだったことからこれまで手を取らずにいました。
 何気に「神曲」に限らず、一部古典は翻訳が古く明治、大正期ベースの和訳しかないものも少なくなく、こうした本を新訳して出すことも重要じゃないかと思います。

 さてダンテの「神曲」ですが、言うまでもなくこれは詩人ダンテの最高傑作であり、且つラテン語の書籍しかなかった当時にあって口語であるトスカーナ語で書かれており、権威からの脱却という点でルネサンスを導いたとも言われる作品です。もっとも、書体以上に当時の人々を唖然とさせたのは、主人公ダンテ(作者本人を主人公にしている)を導く古代の詩人ウェルギリウスをはじめ、古今東西の偉人や聖人、果てには伝承上の悪魔をガンガン登場させ、中にはダンテに恨まれていた当時の実在の人物まで出てきます。この破天荒な内容は現代で見ても結構過激に感じます。

 以上の説明は他の書評でも出ていますが、今回内容を見てみて少し気になったのはカロンという精霊の存在です。

カローン(Wikipedia)

 カロンとはギリシャ神話に出てくる精霊(神の眷属)で、老人の姿をしており、生者の国と死者の国を分かつ川の渡し守です。川を渡る際には渡し賃を要求し、もしこの渡し賃がなければ死んだ後もなかなか死者の国に渡れず川のほとりで長い間待ちぼうけくらわされるそうです。
 「神曲」の中では、ダンテが恋焦がれていたものの早逝したベアトリーチェに会うために支社の国へ渡る際、案内人のウェルギリウスともども「神様の思し召しだから」ということで無賃乗車させています。

 私が何故このカロンに着目したのかというと、日本には奪衣婆がいるからです。

奪衣婆(Wikipedia)

 奪衣婆とは死後に最初に会う、若しくは三途の川のほとりで会うババアの獄吏で、死者の衣服を剥ぎ取り、それを相方(旦那?)の懸衣翁が秤にかけることで死者の業を調べるそうです。
 上記説明はWikipediaを読んで今知った内容ですが、私が元々知っていた内容は三途の川の運賃管理をするババアで、渡し賃の六文銭を持っていなかったら運賃代わりに衣服を引っぺがす、どっちにしろセクハラを厭わないババアという風に聞いていました。

 見ての通りというか、カロンも奪衣婆も日本とイタリアという異なる文化圏でありながら、死者の国と分かつ川の渡し賃を要求する渡し守としてその役割は驚くほど似通っています。こうした神話の近似性についてはユングも指摘しており、人間が本来持っていた概念、若しくはそのように考えてしまう普遍性ゆえのものとしています。ジジイとババアで性別こそ異なっているものの、渡し守という結構細かい役割が共通しており、なおかつペナルティがどっちにも存在しているというのは個人的には興味があります。っていうか死んだら本当にこいつらが居るのかの方が気になる。

 もしかしたら空港の入管ゲートみたいに、渡し守も地域によって担当者が決まっているとか、持ち回りなのかもしれません。持ち回りだとしたら就業者はきっとシルバー人材派遣センターから派遣されているのでしょう。
 あともう一つ気になるのは運賃です。ちょっと前までは真田の旗印でおなじみの六文銭でしたが、現代においては「文」という通貨はなく、日本円に換算したら如何ほどなのかミステリーです。あと最近真面目に現金を出すこと自体が久しくなるほど電子決済かの進んだ中国社会ですが、アリペイとかウィーチャットペイで電子決済も可能なのか、っていうか電波届くのかも気になります。

 馬鹿は死ななきゃ治らないと言いますが、死後の世界は死ななきゃわからないというのはなかなかに不便です。

2 件のコメント:

まっちぼう さんのコメント...

マンガで読破シリーズでしょうか?
色々な作品がマンガで読めるので入口として、素晴らしいと思います。

花園祐 さんのコメント...

 まさにそのシリーズです。文語で読んだ方がいいのですが、10円くらいだったのでほなかおかーって感じでぽちっとしました。