ちょっと間が空いての執筆再開です。それにしても上海の昼間はこのところ暑くて生きてて辛いです。
日本だとあまり伝記の類を見ることがありませんが、二次大戦中のイギリス首相として活躍したチャーチルの人生は少なくとも私にとって非常に面白いものです。それこそ二十世紀の人物に限ればマハトマ・ガンディーや水木しげる氏ばりに波乱と名言に満ちた人生で、まだあまり知らない人は今からでも遅くないから上記リンク先のウィキペディアの記事を読むことを強くお勧めします。
そんな私のお気に入りのチャーチルですが、どうもこの人は英雄譚とか歴史が子供の頃から非常に好きだった関係もあって要所要所でそれらしい、っていうか本人も後世に残す気満々のセリフを自分に酔いながら言っています。もっともそれらのセリフをただのおっさんの独り言で済まさずにきちんと名言として残しているのはさすがというよりほかないのですが、あまりにもそういった名言が多すぎるために中には事実無根のセリフまでチャーチルが言ったことになっているのも少なくありません。
そのような言ってもない名言の代表例として、「ダービー馬のオーナーになることは、一国の宰相になるより難しい」という競馬狂ならみんな知っててもおかしくないセリフがありますが、確かにイギリス人は競馬が大好きですがこれは今に至るまで出典が明らかになっておらず、最近の報道だとJRAの職員が創作したという証言も出ています。
そんな作り話は一旦置いといて、実際にチャーチルが発言したとされる名言の中で私の一番のお気に入りは第一次大戦後に述べた下記のセリフです。
「戦争からきらめきと魔術的な美がついに奪い取られてしまった。アレキサンダーや、シーザーや、ナポレオンが兵士達と共に危険を分かち合い、馬で戦場を駆け巡り、帝国の運命を決する。そんなことはもう、なくなった。これからの英雄は、安全で静かで、物憂い事務室にいて、書記官達に取り囲まれて座る。一方何千という兵士達が、電話一本で機械の力によって殺され、息の根を止められる。これから先に起こる戦争は、女性や、子供や、一般市民全体を殺すことになるだろう。やがてそれぞれの国には、大規模で、限界のない、一度発動されたら制御不可能となるような破壊のためのシステムを生み出すことになる」
これほど後の戦争のシステムを言い当てた名言はほかにないと私は考えております。チャーチルの予言通り、二次大戦は戦地の指揮官ではなく安全な本国で全体を指揮する戦争となり、最終的にはミサイルや核爆弾の投下を指示するだけの人間が勝者と扱われるようになりました。一部のSF小説などではこうした戦争のシステムがさらに発展し、ロボットが片方の国を襲って自動的に人間を殺していくという、文字通り人の血も涙もない戦争になるという未来の描き方をしていますが、第一次世界大戦直後にこのような事態を予感していたというのはさすがというよりほかありません。
と、こうやって散々にチャーチルを誉めておきながらですが、このセリフに感心しつつも現代はナポレオンの時代に回帰しているのではないかという感想をこのところ持っております。もちろん戦争についてはこの前のイラク戦争同様に奥の院で指揮取るのが当たり前で変わりありませんが、少なくとも企業活動の場では総大将の役割が徐々に変わってきているように感じます。
具体的にどう変わってきているかというと、単純に矢面に立って社員を引っ張り、会社の象徴として動くという役割が重たくなってきているところです。これの悪い例で言えば東電をはじめとしたやらかした企業のトップたちで、失敗に対する責任と謝罪の姿勢を内外に見せなくては昔みたいになぁなぁでごまかすことが出来なくなりました。逆のいい例で言うと自動車メーカーが顕著で、トヨタの豊田章男社長なんか就任早々にアメリカ議会に叩かれまくったこともあって妙にかばってあげたくなるような親近感を覚えますし、実際にトヨタ社内も必死で担ごうという意識が高まっていると聞きます。またスズキの鈴木修会長も、内心、まだ生きてるのかよと思うくらいのしぶとさですが、ランエボが世界最速と疑わないカー雑誌の「ベストカー」が選ぶ経営者ランキングでも堂々のトップである上に、記者会見に自らよく出て記者相手に二の句を継げさせない言い回しをするなど最近評価を高めています。つってもゴルフ場にクジャク放つのはどうかと思うけど。
トップがこうして前面に出てこざるを得なくなっているのは言うまでもなくIT化によるものです。最近なんかはツイッターでの発言が株価に影響を与えかねないところまで来ていますし、以前は業界関係者だけが耳にする言葉もパッと一般消費者まで伝わってきます。こんな時代ゆえに、現代のナポレオンは政治家を含めていつ現れるのかと思う次第です。
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