今日は中国では休日だったので朝からパズドラばかりやってましたが、降臨系ダンジョンの「ヘラ・イース降臨」が出ていたので一つ攻略法を頼りにチャレンジしてみました。攻略法に従い防御・回復に特化した陣容で挑んだため屁のような攻撃力でちまちまと実に一時間前後も戦って無事に超級のダンジョンをクリアできたのですが、ボスのヘラ・イースというモンスターの獲得確率は40%であり、見事に取り逃しました。しかも二回も……。
そんなこんだでテンションだだ落ちの状態ながら今日も元気に歴史記事を書きますが、「殷」という中国王朝についてちょっと書いていきます。
殷という王朝については少年ジャンプで「封神演義」という藤崎竜氏の人気漫画に登場したことから日本でも比較的知名度の高い王朝だと思います。この王朝は遺跡などが確認できる中国最古の王朝で、時代としては紀元前17~10世紀に存在していました。ただ中国最古の王朝とはいっても領土範囲は現代の中国からするとごくわずかで、大体陝西省、河北省、河南省の範囲くらいにしか領土はなく、中国を代表するというよりは中国の一地方にあって後の漢民族に連なる王朝と考える方が適当かもしれません。
この王朝の最後を飾ったのは紂王という現代においても暴君の代名詞とされる王で、「酒池肉林」や寵愛した「妲己」という妃などといった言葉と共に悪し様に言われ続けております。最も紂王の悪行については比較的近い時代からも疑問視はされており、論語においても「世の中の悪いことすべてを紂王のせいにされたのだろう」とフォローする言葉が残されています。
こうした「紂王擁護派」には作家の陳舜臣氏も属しており、殷を葬り政権を乗っ取った周王朝のプロパガンダによる影響が強いと指摘しております。陳氏によると、周が挙兵した際の大義名分の中には「紂王はみだりに人を殺し」という文言が入っているのですが、これについては民族間の文化の違いが大きいと分析しております。
陳氏の著作「中国の歴史(1巻)」にはこう書かれています。殷王朝は狩猟民族による王朝で、狩猟の成功を祈る祭事が盛んに行われていたそうです。現代においても祭器に使われたであろう殷時代の青銅器は数多く残っており、また占いに使用された骨(=甲骨文)も多数出土しております。こうした祭事の際によく使用されたのは生贄なのですが、この生贄に殷は異民族の人間を数多く使っていたのではないかと陳氏は指摘しております。同じ人間とは言え現代みたいな人権思想は全くなく、また言葉も違えば風体も異なる異民族は当時の殷の人々からすれば現代における家畜のような存在で、恐らくは同じ人間を殺しているという感覚がなかったのではと書かれています。
こうした殷の人々に対して周の人々は農耕民族で、彼らからすれば労働力となる人間はたとえ異民族であっても貴重で、彼らも恐らくは異民族を家畜の如く奴隷として使っていたでしょうが、殷のように祭事のために殺すのはもったいないと考えていたのではないでしょうか。それゆえ「みだりに人を殺す」という大義名分が出来上がったわけですが、殷の人間からすれば真面目に祈っているというのに何をか言わん、というように受けたのではとまとめています。
私自身もこの説をおおむね受け入れており、殷が悪逆を繰り返したというより民族間の文化の違い、民族間の単純な対立が殷に対する周の革命劇だったのではないかと見ています。この説の根拠として陳氏は、「殷の時代のものと思われる祭器や甲骨はたくさん出ているが、周の時代になるとこれが全く出てこなくなる」と書いており、殷は祭事に関して非常にまじめな王朝だったと記しています。
ただそんな真面目王朝の殷は周に負けてしまって落草の身分へと落ちるわけなのですが、殷の貴族や人々は全員殺されたわけではなく、大幅に領土を削られたとはいえ首都朝歌のあった場所を中心に居住し続けることを許されました。ただ領土は限定され、しかも山間部の土地の貧しい所に追いやられたこともあって農業で生活していくのは難しく、仕方なく殷の人々は各地の物産を売り買いする交易を行うことによって生活基盤を作っていきました。こうした交易活動は「殷」の別名である「商」を使い、「『商』の人々の行い」と言われるようになり、現代においても使われる「商い」、「商人」という言葉はここから出来たと言われています。もっとも、故・白川静はこの説を否定してたそうですが。
おまけ
藤崎竜氏の漫画版「封神演義」はネットでレビューなどを見ていると非常に高い評価が並んでおりますが、私個人としてはストーリーに風呂敷の広げすぎが見られるし、明らかに途中でコンセプトをひっくり返しているのであまり評価しておりません。特に、悪役としてとてもキャラが立っていた妲己をラスボスに据えず、最後の最後で「実はいい人」みたいに扱ってしまったのは非常にもったいなかったのではと考えています。
おまけ2
日本人なんか比較的スイーツだから討幕された後の北条家や足利家、徳川家の一族に対して苛烈なことをしてないけど、中国では今回取り上げた殷に限らず滅亡後の王朝の皇族や貴族たちの末路はどの時代も悲惨です。特に12世紀に金に敗けた北宋ではほぼ全員が北方地域に連呼すあれ、男はみんな殺されるか奴隷となり、女はほぼ全員娼婦にされて当時の人々からも深く同情されています。こうした中国の歴史を日常的に触れているせいか、女子供を含む一族郎党全ての処刑がそれほど残酷だとは思えなくなってきたなぁ。
2 件のコメント:
私は性格が悪いもので漫画(あるいは安能務氏)の封神演義しか読んでいない人とそれの話題になった際には「原作では申公豹はただの小物」と必ず紹介するようにしています。といっても封神演義はかなり昔に少し読んだだけでよく覚えてないのですが。
陳舜臣氏の「小説十八史略」では妲己は紂王を骨抜きにする為に周公旦によって育てられ送り込まれたという設定だったと記憶しています。小説というのは自由な発想で書くことが許されるので学術本とは違った面白さがあって良いですね。なかには学術本であっても「ファンタジーやんけ!」と思うこともなくはありませんけれど。
漫画版の封神演義で私がもう一つ思うこととして、哪吒がなんか以上に弱かった気がします。出てきても大抵やられるだけだったし、原作ほどの暴れっぷりがないのがイライラしました。
妲己は周公旦の養女だったという話は民間伝承でありますね。ただこの伝承は春秋時代の越の軍師、范蠡が育てた西施という美女を呉王に送った話とまるで被るだけに、真実味は薄いと思います。中国人の好きなお話のパターンなのかも。
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