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2015年8月9日日曜日

日本式経営の「婿養子」という世襲方法

 今年5月に私は「書評『会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから』」という記事を書き、かつて存在した日系大手家電メーカー三洋について取り上げました。この記事の中で三洋の二代目社長であった井植敏氏の言葉として、

「日本は相続税率が高いため、会社を興して成功した創業一家は自己の財産を所有し続けるため経営能力が無くても会社を経営し続けなければならなくなる。米国の様にオーナーが会社を所有し、プロの経営者を雇って会社を経営させるという方法が採れない」

 といった内容の言葉を引用しました。この言葉の意味をもう一回かいつまんで説明すると、日本だと会社起ち上げて大成功して財産作っても、いざ子供に相続させようとしても税金で大方取られてしまいます。ではどうすれば円滑に資産を相続できるかというと、起ち上げた会社をそのまま子供に社長職を継がせられれば家族として「会社」という資産を保持できるわけです。
 しかしこれには一つ問題があります。その問題というのも会社を継ぐ子供が必ずしも経営的才能に恵まれているかどうかわからないということです。恵まれていれば別に問題ありませんがいわゆる二代目のボンボンバカ社長だった場合、会社の経営は混乱して破綻し、折角の資産も失ってしまうことになってしまいます。

 こうした日本の現況に対して欧米はどうかというと実は事情が異なります。会社を起ち上げた創業者はそのまま子供に経営を引き継ぐ例もありますが、大方の大企業では株式だけを保有し続け、経営は外部から招へいしたプロ経営者に任せてオーナー一家は配当金を受け取り続ける道を選びます。こうした方法が採れるのも井植氏の言う通りに相続税の税率が低いからやれる方法で、いわゆるセレブと言われる米国の資産家一家はこのようなパターンで使いきれない金を使い続けていることが多いです。

 先ほどの井植氏はこの日本と欧米における相続の違いについて、「日本では会社の所有と経営が分離していない」と述べております。実際に欧米は上記の通りに「所有(株式の保有)」と「経営(社長になる)」がはっきり分かれており、所有するオーナー一家の役割は外部からまともな経営者を持ってくることと、株式を持ち続け独立性を守ることの二点に集約されます。

 こと会社の継続という観点だけで見るならば、この所有と経営は分かれている方が良いに決まっています。既に述べた通りに日本のような相続の仕方では経営センスのないオーナー一家の跡取りが社長になってしまう可能性が高く、どんなに立派な企業でもバカ社長の指先一つでお釈迦になってしまう可能性がなくなりません。
 ではオーナー一家以外から社長を取ってくればいいのかとなると必ずしもそうは言いきれません。というのも日本の場合はオーナー一家以外だと社内から昇進して社長に就くいわゆる「サラリーマン社長」が多いのですが、果たしてそういう内部出身者が優秀かどうかとなるとこちらも必ずしもそうだと言いきれません。少なくとも、会社の内外から広く捜してくる例と比べるなら社内からの昇進だと比較対象数が圧倒的に小さいと言わざるを得ません。

 こうした会社の相続という課題について、実はかつての日本式経営にはちょうどいい解決方法があり、実際に多くの企業で採用されていました。その解決方法というのも、「婿養子」を取るという方法です。

 現代の日系企業でこれを実践して成功している代表格は自動車会社のスズキで、ここは現在の鈴木修会長と先代の会長はどちらも次代の経営者と見込まれたことによって婿養子として創業者一家に入り、実際に同社の事業拡大を見事果たしております。鈴木修会長に至っては、元々銀行屋だったのに先代(二代目)に見込まれて自動車会社に移ってこれだけ会社大きくしたんだから、やっぱ大したもんだと私も評価しています。

 日本式経営、というより日本式家族は江戸時代からこのように「優秀な人材を外部から婿養子として入れる」という手段を採っており、あのトヨタも豊田佐吉に続く二代目は婿養子の豊田利三郎であったなど、以前はそれほど珍しくもない手法でした。この婿養子に迎え入れるという手法であればある程度実績なりを収めた優秀な人材を外部から招聘するため経営者のセンスとしては問題なく、また家族にも入ることから会社という資産をオーナー一家は所有し続けられます。
 この「婿養子」という制度は所有と経営を両立できる優れた手段であり、あまり大きく取り上げられたりしませんが私は日本式経営の大きな特徴の一つだったのではないかと考えております。しかしたった今「だった」と述べた通りに、この手法は過去のものとなりつつあり今後も採用するオーナー一家が現れるかとなると疑問符を打たざる得ません。

 第一の理由はイエ意識の変化で、自由な恋愛結婚が一般的となっている今の世の中で、「こいつは経営センスがあるから将来お前はこいつと結婚しろ」と親から言われたって、はいそうですかと素直に従う社長令嬢がいるかとなると……まぁいないでしょう。第二の理由は少子化と晩婚化で、曹操婿養子を取れるほど女の子があまってないという家庭が多いかと思えます。

 私自身は先ほどにも述べた通りに「婿養子」というのは非常に優れた相続手段であると同時に優れた企業の経営手段だと思うのですが、一般的な日本人はカビ臭いやり方だと恐らく否定するでしょう。しかし大塚家具の問題にしろ相続と経営の問題は現代においても頻発しており、実際に実行するかどうかは置いておいてこのような手段もあるということを再認識した方が良いのではと思いこうして記事をしたためました。

  おまけ
 昨夜この記事内容について友人打ち合わせをした際、「スズキの会長以外に代表的な婿養子っているか?」という話になり、結局出てきたのは「マスオさん」だけでした。実際、日本で最も有名な婿養子といったらこの人しかいないでしょうヽ(*゚д゚)ノ<カイバー

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