ページ

2023年5月28日日曜日

見逃せないナゴルノ・カラバフ問題の推移

 「ナゴルノ・カラバフ」と聞いて、それが何を意味するかすぐ分かる日本人はごく少数だと思います。端的に説明すると、アルメニアとアゼルバイジャンの間で起きてきた、アゼルバイジャン国土に囲まれたアルメニアが自領と主張する飛び地であるナゴルノ・カラバフを巡る領土争いです。

ナゴルノ・カラバフ(Wikipedia)

 リンク先の地図を見てもらえば早いですが、アルメニアはトルコの北東にあり、トルコとジョージアに麻まれる国です。それに対しアゼルバイジャンはアルメニアの東側にあり、アルメニアと大きく国境を接しています。

 このナゴルノ・カラバフ問題をめぐる歴史は非常に長いのですが、ソ連成立時に国境線を画定する際、同地域にはアルメニア系住民が多数居住しているという民族的理由をアルメニアが主張したのに対し、周辺の領土を支配するアゼルバイジャンとの対立が起こり、ソ連政府が仲介する形でナゴルノ・カラバフは自治州という形で火種が作られました。
 こんな背景してるもんだからかソ連崩壊後はその帰属をめぐって両国の争いは激化し、ソ連崩壊以降は数万人の死傷者が出るレベルの戦争が両国間で繰り広げられ続け、そのたびにロシアが両国の仲裁を行う形で停戦させていました。

 しかし2020年における衝突で、かつてないほどアゼルバイジャンがナゴルノ・カラバフ内の実効支配地域を大きく広げることとなりました。これに対しアルメニアは協定違反であることを仲裁国のロシアに訴え続けましたがロシアはあまり動こうとはしなかったことで、アルメニア側はロシアに対する不信感を大きく募らせていきました。
 なおこの2020年の衝突は史上初の「ドローン戦争」とも呼ばれ、特にアゼルバイジャン側のドローン運用が世界の軍事関係者の間で大きく注目されました。現在のウクライナ戦争におけるドローン運用においても、この時の戦訓が大きく影響しているように見えます。


 話を戻すと、そのナゴルノ・カラバフの帰属について2020年の衝突、そしてウクライナ戦争後に起きた2022年の衝突により実効支配地域を大きく減らしたアルメニア側が先週、同地域の帰属をめぐるアゼルバイジャンに対し譲歩する姿勢を見せました。アルメニア側が譲歩した背景として大きいのは、これまで軍事面や仲裁において依存してきたロシアがウクライナ問題でナゴルノ・カラバフに構えなくなったことが指摘されており、このまま状況が好転することもないとアルメニア側が悟ったためとみられています。

 この問題に関して自分は専門家ではありませんが、飛び地というのは紛争を生む諸悪の根源みたいなもので、なければないに越した方が将来の禍根を絶つ上でいいに決まっています。そうした考えからアルメニア側も色々あるでしょうが、今回のアゼルバイジャンに対する譲歩は長い目で見れば必要な譲歩であるように見え、これを機に両国間で未来に向けた友好関係を構築していってほしいと願います。

 その上で、今回この1世紀にも及ぶ領土問題が解決したきっかけはアゼルバイジャン側の攻勢もさることながら、同問題に対するロシアの関与がウクライナ戦争によって薄れたことにあります。見方を変えると、仲裁する側の立場だったロシアが消えたことで領土問題が解決に動いたとするならば、初めから仲裁役がいなければもっと早くにケリついてたんじゃないかという気になります。
 同時に、今回のアルメニアの譲歩は中央アジアにおけるロシアの影響力が低下していることを示す象徴的な事件であるように見えます。東欧、そして中央アジアにおけるロシアの影響力は日本人だとピンときませんが、現地の人々からすると「米国に次ぐ大国は間違いなくロシア」と言い切るほど強いものがありますが、それがどうもだんだんとそうじゃなくなってきているように変化してきています。

 何が言いたいかというと、今回のウクライナ戦争を経てロシアは国際最適な地位を落としただけでなく、米国にとっての南米のような、自国の影響力を及ぼせる周辺地域すらもロシア離れを引き起こしており、その失ったものは計り知れないと言えるでしょう。またこれ以上ないタイミングというか、現在のロシアの最大の同盟国であるベラルーシでルカシェンコ大統領に健康不安説が出ており、仮にそのままぽっくり行ったら、ベラルーシも今後どう転ぶかわからなくなるでしょう。
 少なくとも、ウクライナからすればベラルーシに攻め込む口実はいくらでもあるし。

 以上のようなドミノ倒し、というよりオセロみたいな展開を見る上で、ナゴルノ・カラバフの動きはかなり重要だと思ってみています。っていうかこの動き、最終的にはイランにも波及するだろうか。

0 件のコメント: