以前に書いた林原の倒産記事が読者からそこそこ好評だったと友人に伝えたところ、「次は三洋だ!」と言って、紹介されたのがこの「会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから」という本でした。
この本はかねてから家電メーカー大手、三洋電機を長期間取材してきた日経記者の大西康之氏による、三洋電機がパナソニックに買収されてからの各関係者の状況を取材してまとめた本です。出版された直後から好調な売り上げだったようで私の周りでも既に読んでいる人間が多かったのですが、私も読んでみた感想としては確かに面白く、文章のリズム感の良さはもとより丹念に取材して書かれているということが読んでてよくわかります。
中身はどういったことが書かれているのかというと、冒頭では三洋の創業者である井植歳男の息子であり三洋電機の社長、会長職も務めた井植敏氏へのインタビューに始まり、パナソニックによる買収前後の社内状況についての説明を経て、直接取材した元三洋社員たちの現況を紹介しております。
この点は友人と意見が分かれたのですが、この本で一番面白かったのは冒頭の井植敏氏への取材でした。アポなし取材だったらしくインターホン越しに最初は「話すことなんてない」と断っておきながら家に上げると聞いてもないのに、「最近淡路の玉ねぎ栽培事業に関わってんねん」などと言ったり、部屋にホリエモンの書いた本が転がっていたり(はまって読んでたらしい)と饒舌に話し続けたそうで、読んでていかにもな関西人の姿が目に浮かびました。ただ三洋電機が買収されることとなった経緯に対する質問については一貫して口が重く、著者が何度も質問を繰り返すものの、自らを含めた経営陣の責任だとしか頑として述べずに沈黙を守り続けていました。
この井植敏氏の態度はどうやら現在も続いているようで、さきほど軽く検索を書けて出てきたインタビュー記事でも、「銀行にだまされたって言わせたいんやろ。だまされていないし、だまされたとしても、だまされた方が悪い」と述べ、やはり自らに経営責任があるという主張を続けています。
そのインタビュー記事に出ている、「銀行に騙された」という下りですが、これはこの本の主題ともいうべき内容で、著者は三洋電機が買収されるに至る経緯で最も核心的な役割、言い換えるなら経営破綻へと至らせる引き金を引いたのは、2006年の経営改革時にスポンサーとなった大和証券SMBC、ゴールドマン・サックス証券、三井住友銀行の金融三社であるという主張をはっきりと名指しで展開しております。著者がそのように述べる詳しい論拠は是非この本を手に取って確かめてもらいたいのですが、大まかに述べるとパナソニックが不振が続く家電部門に変わる新たな成長部門として目をつけたのが三洋電機のお家芸だった電池部門で、この部門を獲得するために一旦金融三社が入って下ごしらえした上で三洋電機を買収し、ほかの余計な部門は一切切り捨てたという推理がされています。言ってしまえば、パナソニックが三洋電機の電池部門を買収するため仕組まれた破綻劇だったというような話しです。
この著者の主張に対する私の意見を述べると、さすがにはっきりとした証拠はないので断定こそできませんが、有り得なくはない話だしそのように考えると確かに筋が通るなという風に思います。ただ一つ苦言というかこの本読んで感じたこととして、著者はこの本全体を通して徹頭徹尾にパナソニックを悪者として描いており、ちょっとその書き方が中立を外れてやや感情的に書かれているのではと思う部分もありました。実を言うと私も昔からパナソニックは誉められるような会社ではないと思っててあんまり評価してないのですが、その私の目からしてもちょっと書き過ぎではと思うくらいにパナソニックへの批判が続いており、その後の元三洋電機社員らの現況についても、「パナソニックから出ていって良かった」という話しか載っていません。
もちろん買収後に三洋電機を出て行った後、元社員らは何をやっているのかという話はどれも面白いのですが、三洋電機を出ていって幸せな感じの人ばかりで、逆にパナからリストラされて非常に苦しいって立場の人が一人も出てこないのは「あれぇ?」って具合で、期待してただけに少し残念でした。ちょっと穿った見方をすると、パナソニックを悪役にするためわざとそのような人ばかり選んだんじゃないかなという気もしないでもありません。
ただその出て行った社員の話はどれも起伏に富んでおり、異業種の西松屋チェーンに転職して幼児用バギーを設計するようになった下りとか、リストラを手掛けた人事部社員が「人を切るノウハウ」を買われてあちこちからオファーがきたりとか、どれも読んでて引き込まれる話が多いです。
最後にこの本の中で特に面白いと感じた部分を紹介すると、冒頭の井植敏氏が語る内容の中に日本の一族経営の問題点がなるほどと思わせられました。井植敏氏曰く、日本は相続税率が高いために会社を興して成功した創業一家は自己の財産を所有し続けるため経営能力が無くても会社を経営し続けなければならなくなるとのことで、米国の様にオーナーが会社を所有し、プロの経営者を雇って会社を経営させるという方法が採れないと指摘しています。言うなれば所有と経営が分離せず、そのため非常にいい要素を持つ会社でも無能な創業一家の経営によってむざむざ破綻してしまうこともあると、自戒を込めたような言い方でしんみり語っているところが一番私の胸に刺さりました。
ちょうど最近、大塚家具の騒動といい一族経営による企業が話題に上がることが増えている気がします。既に記事を書いている林原もそうでしたが、これを日本式経営ととるべきかどうとるべきか、その上で今後どうやっていくべきなのかは案外今考えるべき時期なのかもしれません。
2 件のコメント:
キミは三洋電気の社員ではなく、非常にluckyだと思います。
三洋電機の元社員は確かに大変だったろうね。その辺はほんと運命としか言えないよ。
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