ページ

2018年9月8日土曜日

スルガ銀行の調査報告書に関する疑問

第三者委員会調査報告書(要約)
第三者委員会調査報告書(全文)(スルガ銀行)

 シェアハウスローン問題を引き起こしたスルガ銀行は昨日、この問題に関して弁護士らによる第三者委員会が手掛けた調査報告書を発表しました。同時に会長、社長を含む一部経営陣の退任と新任の人事異動も発表され文字通り体制を一新しましたが、わざわざそんな七面倒くさいことをしなくてもよかったのではという印象をぬぐえません。
 昨日の時点でどのメディアもこの件について報道を行っていますが、正直言ってどれもありきたりな内容、下手すれば人事異動と既報を繰り返すだけでほとんど中身のない報道ばかりでした。そして私が一番関心のあった内容については、下記の佐賀新聞しか報じていません。

スルガ銀、不正融資の総額や件数の推定困難(佐賀新聞)

 やはりこの問題で一番肝心なのは、「不正の規模が今どれくらい大きいのか?」であって、どのように不正が行われたかじゃないでしょう。その点で私が確認する限り、この佐賀新聞だけが不正融資総額と件数について何も公表がなかった点を指摘していますが、他のメディアは「パワハラがあった」とか「審査が杜撰だった」とかわかりきったことをくどくど長々としか述べていません。
 っていうかパワハラについては新聞社がどうこう言うことかよと、「てめぇ殺すぞ!」という言葉が日常の挨拶みたいに飛び交う職場を見ている自分からしたら奇異に感じます。

 また発表がなかったことはもとよりどのメディアも質問しなかったのか全く触れられていませんが、既に日経などが報じている創業家への不正融資や融資額の三分の一に当たる1兆円にリスクがあるということについては完全スルーです。スルガ銀行はどちらについても「うちが発表したわけじゃない」と否定も肯定もしておらず、折角報告書発表日を1週間も延期したというのにスルーするのはどうかと個人的に思います。はっきり言えば、今回これらについて全く触れなかったということは事実ではないのかという疑念が私の中で強まりました。

 それで肝心の調査報告書ですが、昨夜精読というわけではありませんが一通り眺めてみていくらか疑問が出てきたのでまとめます。まず今回の調査報告書は先ほども述べたとおりに弁護士らによって構成されていますが、メールデータの復元などの不正調査作業において四大監査法人のKPMG(日本ファームは「あずさ監査法人」)の子会社が入っています。これは後から重要になってくるので覚えておいてください。

・要約版の問題
 結論から言うと要約版はあまり内容が整理されておらず、しかも箇条書きで雑多に内容を列記しているので非常に読みづらいです。一方で各役員の不正に対する責任についてはこの要約版でも非常に細かく羅列して書かれており、何らかの意図を感じます。

・役員責任の枕詞
>個別の不正を具体的に知り又は知り得た証拠はない。
>一方で、本件問題発覚後の諸行動に関しては、善管注意義務違反(一部法令違反)が認められる。

 要約版の各役員の責任について、ほぼすべての役員に対して上記の枕詞がついています。要するに、「はっきり不正したかは証拠なくてわかんない。問題発覚後の対応や少し悪かったよ」ということがやけに強調されています。

・死んだ一人、現役一人の役員にだけ厳しい表現
 前者は今回辞任した会長の兄弟であり、2016年に逝去した故岡野副社長(原文ママ)で、彼が利益第一な企業風土を作り不正がはびこる舞台を整えたみたいに書かれています。後者は、その故岡野副社長に引きたてられたとされる元専務執行役員の麻生氏で、まるで彼一人がすべての問題の元凶みたいかのように厳しくその責任が追及されています。
 先に書いておくと、営業サイドの麻生氏がシェアハウスローン問題を引き起こし炎上させた最大の責任者であることはほぼ間違いないとは思われますが、他の役員らとの記述の温度差が激しく、なんかこの人に全責任を押し付けているのではと思う節があります。もちろん糾弾されて然るべき人物と思われますが、その他の疑問点と合わせて、この報告書は鵜呑みにしていいものかという懸念があります。

・何故役員だけが不正を知らなかったのか?
 全文版に載っているアンケート結果よると、自己資金資料の偽装について個人融資に係る行員の四分の一(26.7%)が認識しながら融資を行っていたとのことです。また融資審査に至っては担当部署のほぼ全員が規定を無視した融資が行われていると認識していたことでした。
 にもかかわらず何故か役員は上記の通り「証拠がないから不正を知らなかった」ということになっています。関係業務に携わる行員の大半が不正を認識していたというのに、何故か役員に関してはスケープゴートの麻生氏を除き、「発覚後の対応はまずかったけど、発覚前は知らなかったかもしれないね」という結論で納得できるかと言ったら、そんなわけないでしょう。

 また役員が出そろった会議中、「かぼちゃの馬車」でおなじみのスマートデイズは取引停止したにもかかわらず、別会社を経由して迂回融資している事実が報告されたことが事実認定されています。この件については「他の役員まで報告しなかった」とされていますが、「聞かなかったことにした」と見るべきでしょう。ここまできて不正を知らなかったという風にするのは無理があり、やはり「証拠はないにしてもその不正認識、隠蔽については非常に疑わしい」というくらいの表現が必要だったのではないかと思います。この報告書を見せる相手とその目的性の観点に立つならば。

 このほか融資審査を行う審査部に関しても、大半の行員が正規の手続き通りに審査が行われていない事実を把握していたと報告されています。繰り返しになりますが、これだけ多くの行員が不正を認識していて、何故役員だけが知らなかったかのように書いているのか。ついでに書くと、営業からの強い圧力があったとはいえ不正融資を黙認してきた審査部が、今後も融資審査を行うということに関する問題点については特に触れられていません。嘘でもいいから外部のコンプライアンス研修などを受けさせるくらい書いとけよな。

・実績考課、パワハラについて
 不正融資が蔓延した理由について異常なまでの実績主義や実績を出さない行員へのパワハラがあったせいと指摘してますが、内心こういう文言は必要ないかなと思います。というのも証券会社を筆頭にこの手のはどこにもあることだし、逆にこういうのないとこでも不正ってのは起こるからです。第一、そんなこと言ったら実績主義=不正の温床の構図になるわけですが、それはやはり暴論でしょう。過度な実績主義やパワハラはどこでもあり(特に地銀では)、これらが他と一線を画す今回のスルガ銀の事件を引き起こした原因かと言えばその貢献は些末なものでしょう。
 なおパワハラの実例として「天然パーマを怒られる」ってのが挙げられててちょい笑えました。あと「空のカフェ飲料のカップを投げつけられたことがある」については、中身ないだけまだいいじゃんと率直に思いました。あと「いすの背面をキックされた。」については、蹴り返すか、窓から放り投げ返せばいいのにと私は思います。こういう価値観こそ、新聞社ならでは。

・外部監査法人の責任
 恐らくこの点については他のメディアは書けず、誇張ではなく私にしか指摘できないでしょうが、スルガ銀行の2018年3月31日期監査報告書には以下の記述があります。

監査意見
 当監査法人は、上記の財務諸表が、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、スルガ銀行株式会社の2018年3月31日現在の財政状態及び同日をもって終了する事業年度の経営成績をすべての重要な点において適正に表示しているものと認める。

強調事項
 追加情報「シェアハウス関連融資等」に記載されているとおり、会社は「第三者委員会」を設置しており、その調査は継続している。今後、その調査により、新たな事実が判明した場合には、会社の将来の業績に影響を与える可能性がある。
 当該事項は、当監査法人の意見に影響を及ぼすものではない。

一応シェアハウス問題について触れてはいますが、「この監査報告書で報告している財務内容は正しいよ」という監査意見が出されています。その後、貸倒引当金がガンガン積まれているというのに。
 自分はこのシェアハウス問題が発覚した当初に真っ先に監査法人を調べましたが、やはりというか東芝を筆頭にこれまで何度も不正会計を手掛けてきた新日本有限責任監査法人でした。そして上記の監査意見も言うまでもなく、新日本が出しています。

 今回の調査報告書では内部統制が完全に欠如していたことが不正融資を蔓延させ問題を拡大したとはっきり言明しています。それに対し監査報告書では、

強調事項
 内部統制報告書に記載のとおり、シェアハウス関連融資等に関連する全社的な内部統制並びに決算・財務報告プロセスに係る内部統制に開示すべき重要な不備が存在しているが、会社は開示すべき重要な不備に起因する必要な修正はすべて財務諸表及び連結財務諸表に反映している。これによる財務諸表監査に及ぼす影響はない。

 一応は内部統制上の懸念を指摘していますが、今回の報告書を見る限り、「適正意見」が出せるレベルなのかというと疑問で、やはり「限定付意見」として出すべきだったのではないかというのが私の見方です。
 同時に、なぜ昨年の発覚まで銀行業務統治の基本の基本たるべき融資審査の不備について監査法人が気付かなかったのか。監査法人というのは財務状況の数字が正しいかだけでなく内部統制についても毎期チェックするのが仕事ですが、なぜ気づかなかったのかというこの点について、やはり何か指摘する必要があるのではと思います。特にシェアハウス問題は去年の段階で発覚しており、その段階で過去の融資取引のコンプライアンス性を調べていたら、もっと早くわかることがあったのではという風にも見えます。

 そして最後の指摘となりますが、何故調査報告書ではこの監査法人による外部監査での見逃しについて全く触れられていないのかが気になります。外部監査を出し抜く隠蔽工作があったのか、それとも外部監査に問題があったのか、こうした杜撰な内部統制実態が何故外部監査で指摘を受けなかったのかについては全く書かれていません。ぶっちゃけ、怪しいくらい急拡大しているシェアハウス融資取引はたくさんあったというのに。
 何故外部の監査法人について触れないのか。はっきり言えば何かしら意図があると思え、他の諸々の指摘事項と合わせ、今回の調査報告書はそうした意図に立って書かれている気がします。そのような視点に立つと、まだまだ掘ればいろいろ出てくるような気がするというのが私の結論です。

2 件のコメント:

まっちぼう さんのコメント...

>>にもかかわらず何故か役員は上記の通り「証拠がないから不正を知らなかった」ということになっています。関係業務に携わる行員の大半が不正を認識していたというのに、何故か役員に関してはスケープゴートの麻生氏を除き、「発覚後の対応はまずかったけど、発覚前は知らなかったかもしれないね」という結論で納得できるかと言ったら、そんなわけないでしょう。

この状態だと置物のほうがましでは。無能なんてレベルじゃすまされないでしょう。

花園祐 さんのコメント...

 一応、トップの人間は組織不全のかどで退任となり、また証拠なく判断してはならないのでこうした結論の仕方もわからなくはないのですが、この報告書の目的としては「もうリスクがないのか?」、「リスク対策は採られているのか?」を明らかにする点にあり、その点で言えば踏み込みが甘いように感じます。
 この記事でも書いている通り、既に報じられている他の疑惑については一切触れられておらず、また役員への追及も甘いと感じる点からもまだまだ探せばリスクが出てくるでしょう。こっからは金融庁の仕事でしょうが。