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2020年4月6日月曜日

「月が綺麗ですね」なんて本当に言ってたの?

 先日、ガチでかなりやばい級なくらい日本語が上手な中国人の同僚二人と食事をしました。その際、片方が漫画の「らんま1/2」が大好きだとのことで、内容を知らないもう片方に対し、「男の主人公が水を被ると女の子に変わる漫画」だと説明したところ、なんでそうなるのか理由を求められて、

「中国の奥地にある女性が溺れたという泉に落ちたから。こういうこと、中国なら十分ありうると思って日本人は誰も疑問を挟まない」

 と説明したら、リアルに「(・´з`・)」というような納得いかない顔されました。

 その二人となんかの話のはずみで、「月が綺麗ですね」という日本語表現の話に及びました。知ってる人には早いですがこれは、女性に対して直接求愛できな明治期の日本人男性が婉曲にその好意を伝える決め台詞の一つとされています。しかし結論から言うと、私はこの説に疑問を持っています。

 理由はいくつかありますが、まず一つとして決め台詞として定着しているのであれば、なぜ明治や大正期の小説でこの表現が見られないのかです。少なくとも私が見てきた中では一説たりともこのような表現はお目にかからず、またその風俗史においても、これに近い表現すらも出てきません。
 次に、仮に自由恋愛だとしてもこんな婉曲過ぎる表現が使われるのかです。はっきり言って婉曲過ぎてわかりづらいレベルであり、第一場面が夜の月が見られるシーンに限られ、新月の時とかだったらどうすんだよと応用の利かない表現です。新月の時は「月が出てないですね」としか言いようないし、言ったら言ったでかなりシュールだ。

 といった具合に見ていて、また国語の専門家の間でもその実在性について疑問視されているということを以前聞いたことがあって、後世の創作ではないかと内心思っていました。なので先の同僚二人にも、「本当に使われていたのか実際は怪しい表現」だと教えました。

月が綺麗ですね(ニコニコ百科)

 そこで今回改めて調べてみたところ、上の記事が非常によくまとめられています。
 なんでも初出は1977年の寄稿、しかも「夏目漱石が『I love you』をそう訳した」という、見るからに怪しい初出だったようです。っていうかよく調べられている記事だ。

 この初出自体怪しく、また私が先ほどから述べているように他の小説をはじめとする文芸にも一切登場しないことを考えると、やはり後年の創作で、なんとなく明治期にはこんな風に言われていたのだと勘違いされたまま流布された表現であると私は思います。
 っていうかさっきも書いているけど、求愛表現としては下の下で、わかり面過ぎるという一点をとっても私からすれば嫌いな表現です。

 なので仮にこの表現を変えるとしたら何があるのか。さっと思い浮かんだものとしてはちょうどカレーが食べたかったので、「カレーがおいしいですね」ならありかもと一瞬思いましたが、これも全く意味が分からない、っていうかカレーがおいしいのは当たり前だろと突っ込みたくなる表現で、なんか自分も誤った道に踏み出しているような気がします。

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