以前なんかの記事で最近のロシアの行動について司馬遼太郎の本が非常に参考になったと書かれていたので、自分もその本こと「北方の原形 ロシアについて」をこの前読んでみました。結論から言うと非常に面白かったです。
元々、私自身は司馬史観について海軍善玉論に異常に傾いていることなどから反発があったのと、司馬遼太郎の小説はやや自分のスタイルとは異なる(美文調に偏っていると感じる)ことからいくつか読んだもののあまり好きになれず、彼の著作などに関してはこれまであまり手に取ることはありませんでした。
ただ遊牧民族マニアだということはかねてから聞いており、その点ではロシアの成り立ちについてもある程度の知見は見込めるという憶測と、ウクライナ戦争開戦以前のロシア評を、佐藤優氏をはじめとする鈴木宗男の関係者以外の目線で探りたいという思惑から、今回こうして手に取るに至りました。機体に違わなかったというか、歴史的な経緯を追いつつこれまで見なかったロシアに対する分析が描かれ、「司馬遼太郎やるじゃん(σ・∀・)σ」とか失礼なことを言い出したりしました。
内容に関しては実際に手に取ることをお勧めしますが、中でも自分が一番感銘を受けた分析として、江戸時代あたりの近代におけるロシア貴族と幕藩体制下の藩主の所有権に関する差についての記述は目からうろこでした。
曰く、日本の藩主があの時代に所有していたのは石高だけであり、幕府の転封命令を受ければ所属地を移らなければならなかった立場を考慮すると、その土地と住民に対する所有権(=完全支配権)は持っていなかったと書かれてあり、まさにその通りと言えます。
それに対し、皇帝の権限が弱い一方で大きな権限を持っていたロシア貴族はその封地において絶対的な権限を持ち、農奴である土地住民は移動の自由すら持ってなかったばかりか、その生命権すら貴族に握られていたそうです。実際、むやみやたらに住民殺しまくったというロシア貴族の話はよく聞きます。
こうした所有権の違いから、支配に対する価値観がロシアは日本はおろか、ほかの西洋諸国とも大きく異なっていると司馬遼太郎は指摘しています。その上で、貴族と一般住民との間の隔絶も異常に激しく、まさに人か家畜かともいうべき差で、貴族らはその住民に対する憐憫をほとんど持たなかったと指摘したうえで、現代ロシア(当時はソ連)においてもその傾向は中央共産党官僚とそれ以外の人民の関係に見られると述べています。これはそのまま、気にせず死兵を繰り出す今のロシアについても言えることでしょう。
またシベリア経営のため、絶対的に不足していた食料をロシア西部などから送るのではなく、海伝いに日本から調達するため、江戸時代の日本に何度も貿易を起こすため使節を送っていたことなども説明されており、恥ずかしながらこの辺の事情についてはとんと知りませんでした。もっともロシアは食料に対する交易品にシベリアでとれる毛皮が日本に売れると思ってたそうですが、毛皮よりも絹や綿を好む日本からは全く相手にされなかったそうです。っていうか毛皮とかぶっちゃけ野蛮だなと、現代人である自分ですら思います。
以上のような司馬遼太郎の解説を見て私が感じたことは、特にシベリア経営のくだりを見て、本質的にロシアという国は物を育てたり作ったりする農耕性が全くない民族の国だなと感じました。では狩猟民族なのかというとそれもまた違うように思え、敢えて言えば採集民族で、その土地にある天然資源を収奪して売ることしか考えず、集団というのは基本的に搾取-被搾取の関係しか持てないのではないかとすら思いました。
具体的には前述の通りロシアはほとんど作物が取れないことから、近代における交易品はシベリアでとれる珍しい毛皮が主だったそうです。ではその毛皮をロシア人は狩猟で得ていたのかとさにあらず、シベリア各地で放牧生活をしていた民族集団を奴隷化し、彼らを脅した上で毛皮を取ってこさせ、売っていたそうです。この帝政ロシア時代の経済を見ていると、なんとなく天然ガスや石油を売る今のロシアに被って見えるところがあり、基本的に現地の天然資源を採集する以外の価値観はないのかと、そういう風に思ったわけです。でもってその採集には多大な労働力がいるわけで、ということが先の関係性が生まれる要因になってくわけです。
このように踏まえると、ロシアというのはやはり欧州国とみるべきかと言ったらやはり違う気がします。またそのメンタリズムも、強烈な支配に根差した関係性が色濃く、今のロシアを見ていてもわかりますが国がおかしくなっても自国民がそれを修正することはまずないようにも見えます。それくらい、一般大衆がこの国は弱すぎるように見えます。
その点でいえば、中国でも一部有力者は一般大衆を虫けらのように考えている人もいますが、その虫けらと考えている連中は怒らせたらやばいということを理解しているし、また一般大衆も隙あれば取って代わろうと無駄にガッツに溢れていることから、ロシアなんかと比べれば国がおかしくなった際の内的軌道修正がまだ期待できると思います。はっきり言えば、ロシアは上がおかしくなったらそのまま破滅にまで延々と突き進むのではないかと、この本見て思いました。