前回記事で私は、経済記事というのは景気のいい話より悪い話のが書きやすく、読者も記者も少なからず景気の悪い話を追おうとする傾向があるのではと言及しました。その上で私は、それが真実ならまだしも景気がいい状態が続いているにもかかわらず敢えて悪いように報じるメディアがあると指摘し、その代表格として根拠もなく中国経済崩壊論を日系メディアはやたら報じたがる傾向があるのではと主張しました。そこで今回はあちこちで叫ばれている中国経済崩壊論を一つ一つ取り上げて、それが実態からかけ離れた報道であるとあくまで私が感じる根拠を紹介していこうかと思います。
1、上海で住宅価格が下落を始めた→住宅バブル崩壊がとうとう始まった
今現在で一番多い中国バブル崩壊論はこれですが、真面目にこのように書く記者は今からでも遅くはないのだし、もう一回大学に入りなおした方がいいのではないかと私は思います。
まず現況から説明しますが、上海をはじめとして北京、天津といった一級都市では今年8月くらいから確かに新築住宅価格が下がり始めております。また上海市に限れば確か4月くらいから中古住宅価格も下がっております。そういう意味では最初の「住宅価格が下落を始めた」というのは間違いではありませんが、それが即バブル崩壊につながると考えるのは愚の極みとしか言いようがありません。仮にその通りであれば、日本もリーマンショック以降は住宅価格が下がっていることをバブル崩壊と言えるのでしょうか。
この住宅価格下落は何が見極めのポイントなのかというと、これが意図した下落なのか意図していない下落なのかです。結論を言えばこれは意図した下落であって、加熱する景気の引き締めを図るために中国政府は3月の全人代以降、あの手この手で住宅価格の上昇に歯止めをかけようと方策を打っております。一番代表的なのは「保障房」という低所得者向け公営住宅の建築で、具体的な金額は忘れましたが現在中国全土で建築が進められており、不動産業界ではこの住宅の公募価格と購入資格者(年収に上限が定められている)の人口がどれくらいになるのかで新築住宅相場の綱引きが行われております。
このほかの抑制策としては、・特段の理由のない2軒目以上の住宅購入の禁止・外部戸籍者の住宅購入に条件を設ける・購入後、一定期間の転売の禁止などがあちこちで設けられています。
そもそも何故中国政府は住宅価格を下落させようとするのかですが、単純に高所得者が居住目的ではなく投資目的として住宅を購入するケースが増えており、低所得者が居住目的に買おうと思っても買えないという社会問題の発生に加え、実態からかけ離れた価格上昇が続いているからです。言ってしまえばこれを放置して実態から大きくかけ離れたところまで高騰し、後になって抑制をかけようとして急落させての業界も巻き込んで大混乱となったのが日本のバブル崩壊です。そういう意味では中国が今現在に実施している住宅価格の抑制というのは、日本がやるべきだったにもかかわらずやらなかったことをやっているということにほかならず、経済原則からみてもなんらおかしなことではありません。そういう意図をもって下落を誘導しているのであって、やろうと思えばまた上昇に転じさせることなぞ造作もないでしょう。今やっている制限を取っ払えばいいだけの話ですし。
むしろ逆に、住宅価格が高騰し続けることの方が中国経済にとっては危険です。今現在ですら実態需要以上の価格で取引されていることが多く、放置すればそれこそ日本のバブル崩壊の二の枚を演じるだけに気が抜けない状態です。あと最後にもう一つ付け加えておくと、確かに住宅価格は北京や上海では下がっているものの、オフィスビルの賃料は高騰が続いています。これをどう解くかはそれこそ住宅価格だけを挙げつらって「中国経済はもう終わりだヽ(゚∀゚)ノ」と叫ぶ記者に直接聞いてみたいのですが解答を書いてしまうと、購入制限のかかっている住宅では下落に転じたものの、未だに不動産投資の過熱は続いているということです。まぁ外資企業の進出が続いているなど需要が依然高いことも背景にはありますが。
あとさらにもう一つ付け加えると、北京や上海といった1級都市では住宅価格の下落が起こってますが、地方都市ではまだ高騰が続いています。政府もこの点を考慮しており、8月には2級都市でも住宅抑制策が実施され始めるなど対策が急がれています。まだまだ引き締めに気が抜けないってことです。
2、自動車販売台数の伸び幅が落ちてきた→バブル崩壊だ!
これはもう名指しで批判すると、日経新聞です。
今年4月の中国の自動車販売台数は前年同月比0.3%減と約2年ぶりにマイナスに転じたのですが、この情報が出るや日経新聞は「それ見たことか('∀`) 」とばかりに中国経済に陰りが見えてきたなど徹底的にこき下ろす記事を書いてきました。ただ実はこの統計には裏があって、日経新聞内では誰も執筆した記者にそれを教えてあげなかったんだなと社内で同情論が出ていました。
その「統計の裏」というのも、昨年に中国政府が実施していた自動車購入補助策です。日本で実施していたのと同様に、中国でも昨年は低燃費車を対象に一部代金を国が肩代わりする自動車購入補助が実施されて販売台数が爆発的に増加していっていました。ただこの補助策は今年になって打ち切られており、ある意味では減少に転じたのはごく自然な成り行きで、むしろ0.3%の微減にとどまっている事に注目すべきだったでしょう。日本なんてエコカー減税、エコポイントが終わるやすぐに大幅なマイナスに転じ、地デジ切り替え後のテレビの販売台数も急減したのに。
ちなみにその後の自動車販売台数の推移ですが、5月も前年同月比でマイナスとなりましたが6月からはまた増加に転じており、1~10月期では3.2%増となっていて多分今年は年間でもプラスで終わるでしょう。さらに販売台数の内訳をみると、購入補助の対象だったコンパクトカーでは落ち込みが激しいものの中~高級セダンの売り上げは増加が続いております。利幅で言えば後者のが大きいに決まっております。日系メーカーの中ではトヨタ、ホンダのシェアがこのところ落ちていますが、唯一日産だけが伸びが続いております。この背景には中~高級セダンと高級SUVの分野で日産のラインナップが強いからではないかと私は見ています。
3、日本からの建機の輸入が大幅に減ってきた→バブルが終わった!
建機というのはクレーンやシャベルカーといった建設に使う重機のことですが、今年に入って日本から中国への建機輸出が大幅に減ってきております。分析の仕方によってはこれまで北京オリンピック、上海万博といった大型イベントが終わって公共工事が減ってきているのではないかと見ることもできて極端に的外れではないものの、実態的にはこうした見方はやはり間違っているのではないかと私は見ています。では何故減っているのかというと、単純に中国が建機を輸入するまでもなく、自分たちでいくらでも作れるようになったからです。
あまり日系メディアで見ることはありませんが、三一重工や徐工機械といった中国系建機メーカーらはかなり力をつけてきております。精密な動作や特殊な用途に用いられる建機であればまだ日系メーカーにも分がありますが、一般的な建機においては中国メーカー製と比べてもはや技術力にほとんど差がないと言われております。その上で価格を加味すると中国製の方が競争力が高いと外国メディアも報じており、私自身もそう思っております。
ちなみに上記2社ですが、中国にとどまらず南米や中東地域にも旺盛に進出しており、海外工場もびっくりするくらい持ってたりします。あまり日本からは注目されない企業ですが名前を覚えておいても損はない気がします。
そんなわけで建機輸入量が落ちているからと言って中国経済が弱っているわけではないとはっきり言えるのですが、公共工事についてはちょっと暗雲が垂れ込めているのは事実です。というのも先の国家イベントが終わって急激な落ち込みが中国でも予想されていましたが、そのテコ入れとして中国政府は高速鉄道の開発で補おうとしていました。事実今年の前半まではとんでもない額が投入されていたのですが7月に温州で起きた高速鉄道事故以降は一転して開発投資に急ブレーキがかかり、予定していた工事が始められず受注していた建設業者らの間でお金が回らなくなってきていると報じられております。政府としてはこれを機に今まで関東軍のように振る舞っていた鉄道部を叩く算段でしょうから、もうしばらくは混乱が続くとみております。
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