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2016年2月24日水曜日

中国市場への日本酒売り込みの無益さ

 先日、後輩と友人が大好きなAPITAという上海市内にある日系スーパーを訪れた際、たまたまですが鹿児島県が地元の特産品を持ってきて特設コーナーで販売していました。かるかん(猫餌にあらず)があったら買って帰りたいなと思って私も眺めてみましたが生憎それはなく、仕方ないので懐かしさもありボンタンアメだけを一箱買って帰りましたが、あくまで私の見た感じだと一番主力として持ってきていたのは芋焼酎や日本酒なお酒類だったと思います。
 しかし、ここで厳しいことを言いますが、そもそも論として中国で日本酒を売り込むのは根本的に間違い、というよりも海外市場で拡販すること自体がやはり無理がある気がします。今日はリアルで10時間くらいぶっ通しで翻訳やり続けて頭がボーっとするので、手早く書けるこのネタについて少し解説します。

 ここで言うのもなんですが、上海や香港で開かれる物産展に出店する地方業者については記者時代に何度も取材しており、多分その回数は数十回を優に超えます。それだけにどの地方の業者がどういう物を持ち寄るか、どういう傾向があるのかはもとより、売込みが上手かったり戦略がしっかりしている地域などについても把握しているという自信があります。なおアジア市場で熱心というかやり方が一番上手いのは何気に長崎県です。
 話は戻りますがどの地方も地元の特産品を持ち寄るものの、果物がある県はやっぱり果物を持ってきてそこそこ受けも悪くないのですが、これはという特産品がない県となると決まって持ってくるのは地酒こと日本酒か焼酎です。でもって、はっきり言いますがどこも余り受けはよくないです。

 一体何故日本酒を持ってくるのかというとほかに売り込むものがないというのが大きいのと、日本らしくてほかの国や地域には存在しない商品だと考えるからだと思います。ただお酒という分類でいえばどの国でもアルコール飲料があるだけに、テコ入れすれば日本酒が売れるかもという期待があって持ってきているのではという気がしますが、残念ながら海外市場では日本酒はどう頑張っても売れることはないというのが私の見解です。

 何故かというと理由は非常に簡単で日本酒に合う料理が海外にはなく、刺身や寿司を始めとする日本食としか合わせて飲めないからです。アルコール飲料は基本、料理とセットにすることで大量に消費されるものですが、その酒にあった料理が無ければ単独で飲む量はたかが知れて、ましてや普段見慣れないアルコール飲料を率先して飲むくらいだったら身近なビールなどを手に取るのが常でしょう。
 日本人の立場からすると日本酒はごくありふれたアルコール飲料ですから抵抗はそんなにありませんが、中国人や香港人、アメリカ人などからすると全く異世界の飲み物で味や香りに慣れてないことから一口目からグビグビ飲む人となるとかなりレアでしょう。それこそ中国の白酒(バイチュウ)や紹興酒を初見から抵抗なく飲める日本人となると恐らくほとんど存在しないでしょうし、このようにアルコール飲料というのは地域性が強く出やすい飲み物だったりします。

 唯一例外といえるのは先ほど挙げたビールとワインで、これは飲み合わせの良い食べ物が比較的豊富であることとクセがほかのアルコール飲料と比べて小さいことから世界中いたるところで愛飲されるようになったと考えられます。しかし、はっきり言いますが日本酒は明らかにこれらとは別で、飲み合わせられる料理は日本食に限定され、外国の料理で飲み合わせられるものなんて私の知る限りまず有りません。無理矢理例を作ると、

・北京ダック+日本酒
・カレー+日本酒
・ハンバーガー+日本酒
・パスタ+日本酒
・ピロシキ+日本酒

 恐らくどれも、これじゃない感がはなはだ激しい組み合わせに見えるでしょうし、実際この組み合わせで出された料理がなんか普段よりおいしく感じられない気すらします。「刺身+日本酒」だったらまだすとんと落ちますが、それはあくまで日本食との組み合わせで日本人だから感じられるものであるため、外国人からしたらそうは問屋は降ろさないでしょう。いくら寿司料理が世界的に受け入れられている立派な日本料理だとしても、日本酒にまで手を出す外国人はそんなにはいません。
 基本的に日本酒は魚の生臭さを払うのにいいアルコール飲料であるため、生の海鮮料理以外には実はそんなに組み合わせの幅はないのではないかと考えています。まぁ醤油味となら何でも合うと思うけど、それも外国人からしたら塩分が強い料理に思われてるのかもなぁ。

 ざっと上記のような考えから私は日本食はまだ海外で展開できる余地があるとは思うものの、日本酒は海外ではほぼ全く展開できないし、出来るとしてもそれは日本食がいつでもどこでも食べられるほど世界で一般的になることが前提でまだずっと先の未来になると見ております。なので地方の都道府県が海外に物産を売り込む際はもう日本酒はあきらめて、他の物に注力した方がいいというのが私の意見です。
 では具体的にどんなものが海外で展開するのにいいかというと、一番は先ほどもあげた果物で、二番目となると案外和牛じゃないかと思っています。この辺は九州の都道府県が長年頑張ってくれた回もあって香港などでは鹿児島牛や宮崎牛が見事ブランド化に成功しており、地元での認知も決して低くありません。また中国本土においても「神戸牛」のブランドは非常に深く浸透しており、現実には中国への和牛輸出は制限されていますが、日本旅行で是非食べておくべき料理としてよく紹介されていることもあってこちらも認知度は高いです。

 もっとも、中国人が牛肉の味に一度でも慣れちゃったら世界中から牛肉が無くなる恐れがあるだけに、普通に売り込んでいいものかとなると少し悩み所ですが……。

2 件のコメント:

ひでぞう さんのコメント...

◆ 清酒の輸出金額・輸出数量が過去最高を記録 財務省貿易統計
平成26年の清酒の輸出金額は、約115億円(対前年比109.3%)となり、5年連続で過去最高
となりました。
また、清酒の輸出数量も約16,316kl(対前年比 100.7%)となり、5年連続で過去最高となりま
した。

http://www.sbbit.jp/article/cont1/30196

http://www.nippon.com/ja/features/c00618/
http://www.japansake.or.jp/sake/about/data/01.html
http://pro.gnavi.co.jp/magazine/article/column_2/c2724/

http://sake-exporter.com/jp/

http://matome.naver.jp/odai/2138084936592247101

中小のメーカーが多いので資金力に問題が有るため苦戦しているようですが
最近は着実に伸び始めています。
経営者の考え方も変わってきたようです。

花園祐 さんのコメント...

 大変興味深いデータ、並びに記事をご紹介いただき、誠にありがとうございます。
 データを読んでみたところ、私の膝元である中国では案の定伸びてはいないようですが米国市場では輸出量が目覚ましく伸びているようですね。この事実は今まで全然知らず、大変参考になりました。
 記事中でうまく反映できませんでしたが、売り込むのは厳しいと思うものの日本食は確実に世界で広がりを続けており、それに付随して日本酒も高いポテンシャルは持っているとは思います。売り込むに当たってはこの記事でも書いている通り「酒単体」ではなく料理とセットで考えるべきだと思え、今日相談したカレー屋のおじさんからは「牡蠣とは相性がいい」というコメントを得ており、日本酒と一緒に三陸産の牡蠣を一緒に売り込むようなマーケティングなんかどうかなといろいろ考えをめぐらしています。