先日、前から興味があったので上の「会計士は見た!」という本を読みました。この本は執筆当時(2015年)の東芝やソニー、キーエンスなど実際に存在する日系企業の財務諸表を実際に見て、各社の経営状況などを見る上で注視すべきポイントを解説した本です。執筆当時と比べると紹介している企業の情報はやや古くなっているものの、財務諸表を見る上でのポイントは非常にわかりやすい、というより文章が非常に上手くて解説が頭に入ってきやすく、期待していた以上の内容であったと感心しました。
特に具体例を持ち出して、財務諸表はここ見るべきという解説が非常によくできています。いくつか例を挙げると、リストラに当たり一人当たり給与が減少したコジマと減少しなかった日産の比較、同業間での従業員一人当たり売上高の比較など、ワンフレーズ的に着目箇所を示唆してくれるのはありがたいです。
中でも自分が読んでて非常に驚いたのは、売上げ水増しといった粉飾を行っている企業において頻繁に見られる財務諸表の特徴をしっかり上げていることです。この例として紹介されている企業は江守商事(現・興和江守)ですが、その特徴というのも売上げや利益が増大しながら営業キャッシュ・フローが減少しているという特徴で、実際に江守商事の破綻間際なんかまさにこの典型ともいえる特徴を見せているだけでなく、何故か破たん直前に株主への配当金が急増しているというおまけまでついています。
公式には江守商事は破綻理由を中国子会社の不正と書いていますが、自分も財務諸表上から見て売上げの架空計上の末に計画的破綻で、中国子会社ではなく会社全体としての不正だろうと見ています。
では一体何故、上記の財務諸表特徴が不正の兆候として見ることができるのか。これは非常に簡単で、本の中でも書かれていますが資産項目(売上げや利益など)と比べて営業キャッシュ・フローの金額は実態とは異なる金額を記入し辛いからです。
営業キャッシュ・フローとはイメージ的には運転資金や流動資金で、売り上げや事業規模が拡大するにつれて基本的には増えていきます。また財務諸表におけるこの科目の金額は、銀行残高確認状などで銀行口座の金額などと照らし合わせて調べられることから、企業側にとって都合のいい金額にはし辛く、実態ある金額を表示せざるを得ない項目です。そのため、売上げや利益については粉飾した金額が登場しても、その成長が架空のものであれば営業キャッシュ・フローとの間で齟齬が出やすく、不正の兆候と見抜くことができるわけです。具体的には、循環取引なんかでは確実にこうした傾向が出るでしょう。
この不正の特徴については自分もこれまでそこそこ財務諸表を見てきてはいるものの、単に不勉強だったかもしれませんが、今の今まで全く知らなかっただけに、まさに目から鱗でした。非常に単純ながら説得力のある見方で、ぶっちゃけこの売上げや利益と営業キャッシュ・フローとの連動率は開示義務項目にしたってもいいんじゃないかという気すらします。
2 件のコメント:
粉飾決算といえば10年ほど前シニアコミュニケーションという
会社がありました。この会社も架空の売上を計上し、役員の自己
資金を取引先からの支払いと偽装させて会社の口座に入金させま
した。監査法人の会計士はシニアコミュニケーションの取引先
に対して残高確認書を郵送して債権残高を照会しようとしました。
ですがシニアコミュニケーションの幹部は、会計士を尾行し、
残高確認書がポストに投函されたのを確認後に、集配に来た
郵便局員に、「投函した郵便物に誤記入があったので回収させて
ほしい」と言って残高確認書を騙し取りました。 その後は
監査に通るように偽造した残高確認書に取引先の印鑑(もちろん
偽造したもの)を押印し、郵送し直しました。
結局一旦は監査法人をだますことに成功したものの、当然こんな
やり方は長続きせず最後には シニアコミュニケーションは
上場廃止となりました。
シニアコミュニケーションの郵便物を回収するという手口が明らか
になった時、会計士に必要なのは、担当企業の社員の尾行をまく
スパイとしてのスキルだという冗談が流行しました。
いや実際ここまでやられたら監査法人もお手上げでしょう。っていうかそんな粉飾に努力するならもっと経営に努力しろよと言いたいですが。
結局この手の粉飾や不正というのはケーススタディで対策取っていくしかなく、シニアコミュニケーションのケースだと、ポストではなく郵便局で内容証明で出すという対策になってくると思います。まぁでも繁忙期とかそんなことやってる暇もないだろうけど。
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