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2009年11月8日日曜日

安いからには理由がある

 このごろ私がよく思い出す過去の事件の一つに、ミートホープ社による食肉偽装事件があります。食肉偽装事件とくれば日ハム、雪印、ハンナンの行ったBSE対策保証金詐欺事件が有名ですが、こちらのミートホープ社の事件はそれらの政府に対する偽装事件とは違い、消費者(正確には小売店)に対して行われていた偽装不正事件です。

 具体的にどのような不正が為されていたかというと、100%牛肉のミンチ肉として出荷される商品の中に価格の安い豚肉や鶏肉のミンチを混ぜたり、消費期限が過ぎた肉をばれない程度の配合でミンチ肉に混ぜたり、中には見栄えを良くする為だけに牛や豚の血を混ぜて出荷したりなどといった、よくもまぁこれだけ考えられるものかというほどの偽装を幾重にも施し、不正を恒常的に行っていました。
 最終的にこのミートホープ社の偽装は幹部社員の朝日新聞への内部告発によって明るみに出ましたが、詳細はウィキペディアにも書かれてように、当初この内部告発者は農水省に直接不正の事実を伝えたものの農水省側はミートホープを指導するどころか調査すら全く行わず、結局すべてが明るみに出るには朝日新聞のスクープを待たなければなりませんでした。

 またそのスクープに対して開かれた記者会見にてミートホープの元社長は当初は現場が勝手に行った行為だとして故意の偽装を認めませんでしたが、元社長の息子がカメラが回っているその場にて、「社長、真実を話してください」と翻意を促すことでようやく会社ぐるみの偽装を認めました。この会見といい内部告発といい、事件の問題性はともかくまだ良識のある人間が社内にいたのだと当時に思った事は今でも強く印象に残っています。

 ただ私がこの事件で一番強く覚えているのはその後の元社長の発言です。何故このような偽装を行ったのかという記者の質問に対し元社長は、消費者が安い商品を求めるからだ、安いものを求める消費者が悪い、などといった責任を転嫁する発言をその後繰り返して行いました。まさしく盗人猛々しい発言この上もないのですが、当時の私のバイト先の喫茶店のマスターはこうした元社長の発言に対して問題がある発言だとした上で、一部では確かに真理を突いていると評していました。

 そのマスターが言うには、その商品が他の同列の商品と安い場合には必ず背後に理由があるとのことで、消費者の側も何も考えずにただ安いから購入するというのはそれはそれで問題があると指摘していました。もちろん消費者はその商品が何故安いのかという理由を容易に知る事はできませんが、安いからには必ず理由があるとしてある程度疑いの目を持つのが当然だとも述べていました。

 そのバイト先の喫茶店メニューは京都の店らしく、値段はどれもやや高めだったのですがその分食材に対するマスターのこだわりは強く、コーヒー豆も店でブレンドした上に料理においてもわざわざ指定の八百屋から調達するなどして品質の維持に厳しく努めていました。それまでの私ははっきり言って貧乏性もいいところで、安いものほど価値があるとしてコーヒーなんかドトールでしか外では飲まなかったのですが、このバイト先を経験してからは、「高いものにはそれだけの価値と品質という理由がある」として、最近ではむしろ400円以上のコーヒーを飲む事の方が多い、っていうか安いコーヒーは忌避するようになりました。

 こうした商品価格がどのように形成されていくかについてはマルクスの「資本論」が非常に詳細に分析されていて面白いのですが、やっぱりこういうものとかを読んでいたりすると価格というものは必ず現実にある事実を反映するように出来ているものだとつくづく思います。日本では作れないコーヒー豆を使うコーヒーが何故こんなに安価で日本で飲めるのかといえば、日本とは比較にならない低賃金での労働が南米やアフリカで行われているのであって、コーヒー自体の価値や需要が低いというわけではないなど、このミートホープ社の事件での偽装も価格に反映されてそれを消費者も許容していたのだろうと思います。

 何故このミートホープ社の事件を最近によく思い起こすかというと、今も日本はデフレ真っ只中ですが、そのデフレを牽引していると言ってはなんですがある衣料品販売会社の激安商品がこのところよく紙面にて取り上げられております。近頃は千円ジーンズなども出てきた事で既存のジーンズ会社のEDWINやBOBSONが悲鳴を挙げているとも聞きますが、私の友人が言うには、急成長する会社というのは意外と脇が甘いということもあり、何かをきっかけにガクっと駄目になるのではとその衣料品販売会社を評していました。
 私自身、このところの衣料品の値下がり振りはいくらデフレだからといっても異常にしか見えず、この衣料品販売会社の名前を見るたびに思い出すのが先ほどのミートホープの元社長の発言なのです。

 もちろんその会社の黒い噂なんていうものを私は一つも聞いたことはなく、正当な企業努力によってその低価格が作られているのに越した事はないとは思いますが、いくら中国での現地生産が効率的に行われているからといってここまで出来るものかと疑ってしまいます。
 仮にその会社が何かしらの不正によってその低価格を実現しているのであれば、その低価格は間違いなく衣料品市場を歪めているのみならず日本全体でデフレを加速させる要因の一つとなっており非常に問題があると言わざるを得ません。

 安いからには理由があると、その理由を追うのが経済ジャーナリストなんだけど本当の所はどうなんだろうなぁ。

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