ちょっと歴史物が不足しているので、しばらく古代史物を書いてこの際に一気にまとめてしまおうかと思います。歴史に詳しい方からすれば「何を今更」と思われる内容かもしれませんが、知らない人に話すと結構受けがいいので批判を気にせず書いてしまいます。
そんな一発目に取り上げる今日のネタは、有名な童話の「因幡の白兎」についてです。この話の舞台は私が本気で永住を考えている因幡の国こと鳥取県で、鳥取の海岸沿いを車で走っているとガードレールなどによくこの白兎のイラストが描かれています。
ただ現在の研究によるとこの話で書かれている因幡の国は現在の鳥取県である確証はなく、山陰地方での話という可能性は高いものの確たる証拠がないのが現状です。まぁそれ言ったら東京都の業平橋の元となった在原業平の東下りも、当時あのあたりは全部湖沼地帯だったろという突っ込みも出来てしまうのですが。
話は戻って因幡の白兎についてですが、恐らくこの話ほど議論を呼び、歴史的考証価値の高い童話はないでしょう。と言うのもこの話の主人公は古代史におけるキーパーソンの一人である大国主で、その後の彼の行跡を考えると無視することの出来ない逸話です。では具体的にどんな話なのかですが、以下に簡単にまとめておきます。
”ある日一匹の白兎が沖合いの島に渡ろうと思い立ち、ワニ(原典では和邇)に対して「お前たちが何匹いるか数えてやるから、あの島との間にみんなで整列してくれ」といい、浜から島まで一列に並んだワニたちの頭を飛び越えながら島へと向かいました。島まであと少しというところで白兎は、「俺は島に渡りたかっただけだよ、ご苦労さん」とつい洩らしてしまい、怒ったワニによって白兎は背中を噛み付かれて皮を剥ぎ取られてしまいました。
背中を噛まれた白兎はその痛みから海岸で泣いていると、通りかかった大国主の兄弟らに、「海水を背中につけて風に当たると良くなるよ」と嘘をつかれ、正直にそうやった白兎はますます背中が腫れてまた海岸で泣き続けていました。すると今度は大国主が通りかかってわけを聞くと、「水門へ行って水で洗い、蒲を撒き散らしてその上で転がれば良くなるよ」と教え、白兎がその通り実行すると今度はきちんと治ったとのことです。”
話自体は童話によくある話ですが、肝心なのは大国主が出てくることはもちろんのこと、この話が載っているのが「古事記」ということです。古事記というのは現在になって研究が進んで大分わかってきましたが、実際にあった歴史を微妙にぼかすと言っては何ですが、童話や寓話仕立てにテイストしなおして書かれていることが多い史料です。よってこの因幡の白兎についてもなんらかの歴史的真実が含まれている可能性が高いと言われております。
今現在で最も有力視されているのは、大国主がその兄弟と比べて立派だったということを立証するエピソードとして添えられたという説です。ネタバレしますがこの後に大国主は兄弟から命を狙われたために逆に全員を皆殺しにして、出雲にて自分の国を開きます。つまり国を開いた大国主を正義の味方のように書き、兄弟たちは人の悪い性格で殺されても仕方ないと思わせるために入れられたのではないかとされています。まぁこれ以外にも大国主には似たようなエピソードがたくさんありますが。
そうした大国主の正当性を高めるためといった内容とともに、恐らく最大の議論となっているのは途中に出てくる「ワニ」でしょう。もちろん今の日本にはワニがそこらへんうろちょろしているわけじゃないため当時の日本にはワニがいたのかってことになってくるのですが、当時の気候条件や生態系から考えるとやはりその可能性は非常に低いです。ではここで出てくるワニとは何なのかということで日夜熱く議論されているのですが、そもそもの話として原典では「和邇」という漢字が当てられているだけで、本当にこれを「ワニ」と読むのか、はたまたどんな生物を指しているのか全くわかりません。
一応現時点で強い説というのは「ワニ」ではなく「サメ」なのではないかという説で、私もこの説を支持してます。実際に日本海にいて噛み付くといったら適当だし。ただこのサメ以外にもウミヘビとか、はたまた昔から中国には痛そうですから伝え聞く話で適当にワニを入れたという説もあります。ただどうしてこの「和邇」という字が使われたのか、単に適当に入れられただけかもしれませんが考察する価値は高いように思えます。
敢えてここで大胆な説を挙げると、もしかしたこの話の舞台は因幡ではなく当時にもワニがいたと考えられる中国南部のどこかだったのかもしれません。中国南部には今は野生ではまったくと言っていいほどいませんがヨウスコウワニという種類のワニがおり、その地域における話が回りまわって日本にも伝わって、登場人物が大国主、舞台が因幡に置き換わっただけなのかもしれません。何の確証もありませんが。
最後にこの因幡の白兎について、20世紀最高のギャグ漫画とまで評された「MMR」では、白兎が背中を噛まれたというのは暗に放射能被爆をしたことを物語っているのではないかと聞いてるこっちが大爆笑しそうな大胆な予想を立ててました。
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