・朴正煕暗殺事件(Wikipedia)
だいぶ長い間書いてきた朴正煕ともこれでおさらばです。そういうわけで久々の連載再開記事は、朴正煕大統領の暗殺事件を取り上げます。
事件が起こったのは1979年10月。朴正煕は1963年から韓国の最高権力者の座に就いてから16年間もの月日が経ち、この間には暗殺未遂事件も何度か起きておりますが国内の選挙干渉や学生デモを弾圧し続けることによってこの座を維持してきました。また暗殺される直前には憲法を改正して自身が終身制の大統領に就くことを明記しており、当時は朴正煕自身が辞任するか暗殺されるか、はたまた革命が起こるかでしか彼を大統領から引き摺り下ろすことが出来ない状態でありました。
それで実際に暗殺されることとなったわけですが、朴正煕を暗殺した人物は彼の腹心でもありKCIAの金載圭でした。金載圭は暗殺を実行する前に学生デモなどへの弾圧が手ぬるいとして朴正煕から叱責を受けていたことに不満を持っていたそうですが、これが直接の動機だったかについては後に詳しく書きますがちょっと微妙なところがあります。
暗殺の状況について詳しく書くと、当日はソウル市内にあるKCIAの秘密宴会場で朴正煕、金載圭、車智澈・大統領府警護室長、そして何故かこの宴会にお呼ばれされていた女性歌手の沈守峰と女子大生モデルの申才順の五人で晩餐会が行われておりました。この晩餐会の最中にも朴正煕から叱責を受けると金載圭は一旦中座し、部下にいくらかの指示を与えた後に拳銃を持って会場に戻り、そのまま朴正煕と車智澈の二人へ発砲。二発発射した後に拳銃が故障したことからまた部屋を出て、部下から拳銃を借りて戻るとまた朴正煕と車智澈に一発ずつ発砲して止めを刺しました。残った歌手と女子大生に金載圭は「慌てないで。安心するように」と言い、近くにある別の宴会場にいた陸軍参謀総長の鄭昇和を訪ねて、自分が射殺犯であることを隠した上で朴正煕の死を伝えた後、非常戒厳令を布告するよう迫ったそうです。
恐らく金載圭は暗殺を北朝鮮とか別の人物によるものに仕立て上げた上で自分の犯行をうやむやにしたかったのか、ほかに何らかの思惑がったのかもしれませんが、密室でこれだけ露骨な暗殺をしておいてばれないはずがありません。戒厳令の布告を渋っていた鄭昇和は「暗殺犯は金載圭だ」という報告を受けるや金載圭を逮捕し、その上で戒厳令を出して自らが戒厳司令官に就任しました。その後、国内にはしばらく大統領が死亡した事実は伏せられておりましたが日本を含む国外ではすぐに報じられ、外国に親戚や知人がいる人たちから国内にも情報が伝わっていきました。
逮捕された金載圭は動機について当初、終身独裁制を築いた朴正煕を大統領の座から下ろすにはこれしか方法がなかった、民主主義を守るためだったという、KCIA長官らしからぬ理由を話したとされますが、現代では単純に自らの地位が危うく保全を図ったものという説が強いです。もっとも未だにその理由についてははっきりしておらず、翌年には死刑判決を受けてすぐ執行されていることから、なんというか口封じされたような気もしないでもありません。
ざっと上記までが一連の流れですが、太字にしちゃいますが一体どこから突っ込んでいいのかちょっと悩みます。しょうがないのでひとまず疑問点を箇条書きにします。
1、なんで秘密の宴会場なんて言うものがあるのか?
2、しかもなんで女性歌手と女子大生モデルが同席していたのか?
3、しかもなんでなんで二人とも暗殺現場に居合わせたのに射殺されなかったのか?
4、金載圭もどうして陸軍参謀総長に掛け合ったのか?
1番に関しては妻が暗殺されて以降、朴正煕は若い女性と一緒に夕食を取ることが多かったためにそれほど不自然ではないという説明を見かけますが、はっきり書いてしまえば性接待があったのかと勘ぐってしまいます。そしてスルー出来ない2番と3番についてですが、普通の感覚してるなら射殺する現場を見た人間を生かしておくはずないのに金載圭は何故か見逃しております。ちなみにこの二人、確かまだ存命中です。
でもって4番目ですが、仮に金載圭は怨恨目的で暗殺したというのなら普通は海外逃亡するか、偽の犯人を仕立てあげた上で、「大統領は暗殺されたが犯人は我々が逮捕(または射殺)してやったぞ!」というシナリオを組むんじゃないかという気がしてなりません。なのにわざわざ陸軍参謀総長に出向いて戒厳令を求める、やはり腑に落ちませんというか行動が明らかに奇妙です。
それこそ、金載圭が叱責を受けたことによって何の準備もなしに発作的に暗殺を実行してしまうような底の浅い人物だったというのであればそれまでですが、なんていうか逃げ道を約束されていたから同席した二人の女性には手を掛けなかったんじゃないかとも考えてしまいます。じゃあその逃げ道とは何か、こちらもやや安直ですがアメリカです。
ウィキペディアにも書かれていますが当時、朴正煕とアメリカ政府(カーター政権)は韓国の核開発計画を巡って冷え込んでいたとされており、それが原因ではないかという声も出ています。でもってアメリカも前科があるというかベトナムでは実際にCIAによって南ベトナムのゴ・ディン・ジエム大統領を暗殺してるんで、朴正煕もやっぱやられたんじゃないかなぁって気がしないでもないです。
となるとシナリオというのはCIAがやや不満を持っていた金載圭を唆して、「朴正煕を暗殺してきたら後の面倒は全部こっちで見るよ、鄭昇和も仲間だから終わったら彼に報告してね」的なことを伝えて、韓国人同士で処理完結させたような感じでしょうかね。あまりこういう陰謀論というかなんでもかんでも悪いことをアメリカのせいにするのも良くないとは思いますが、一つの仮説としてはもっておいた方がいいので書いておくことにしましたが、真実の検証が済むのはあと50年くらい先で、同席した女性二人が回顧録とか出す頃かなと思います。
2 件のコメント:
こんばんは~
花園さんの文章を読んでいると、映像のようなものが浮かんできて、流れがよくわかります。面積や、関わる人物の多さの違いからか、以前の文革の連載は大河ドラマのように感じましたが、今回の「韓国の近現代史」は、昼ドラとか、サスペンス劇場のように感じます。今回の、愛憎あふれるどろどろな感じも好きです(主婦ですし^^;)。
このところのこの連載の記事の中では、まだ今回の記事は自分の視点も入っていていい出来だと思います。おっしゃる通りに文革の歴史はとにもかくにもスケールの大きな話(国家単位での集団ヒステリー)だったのに対し、韓国の歴史は割とこざっぱりというか、スケールの小さい話が多いです。それだけにすいかさんのいう通り、昼ドラっぽいノリで登場人物の心理をもう少し掘り下げていく方が面白いかもしれませんね。
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