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2018年11月15日木曜日

堕ちた天才

 日本最高の軍指揮官となればほぼ上杉謙信が不動の地位を占めますが、世界レベルとなるとハンニバル、アレクサンダー大王、エドワード黒太子、孫子、韓信などいくつか私も挙げられますが、おそらくもっともこの評価を受けているのはナポレオンだと思います。ただこの場合は彼の若年期にのみ適用されるというか、後年のナポレオンに関しては同時代においてナポレオンを破ったウェリントンに劣るでしょう。それほどまでにナポレオンの軍事的才能は前半期と後半期で落差があります。

 ちょうど、現在連載が続けられている長谷川哲也氏の漫画「ナポレオン 覇道進撃」では彼自身、というより世界戦史史上でもこの上ない敗北とまで言われるロシア遠征、それも撤退期に入っています。このロシア遠征でナポレオンはかつてなら考えられないくらいの判断ミスを繰り返しており、それこそ初期のイタリア遠征の頃と見比べると本当に同一人物かと思うくらいの落差を覚えます。
 現実にこの頃のナポレオンは確実にピークを過ぎており、本人も薄々それを勘づいていながらも認めたくない一心なのか、部下の進言を敢えて無視して真逆の決断を下してしまっている面が見られます。三国志の曹操においてもそうした面が見られ、かえって実績を残した指揮官はそのメンツを守ろうとするために「智者はかえって智に溺れる」決断を取ってしまいがちです。

 ナポレオンのロシア遠征におけるミスで最も甚大なものは、私から見てやはり決断の遅さです。特にモスクワの占領から進軍も撤退もせず無為に一ヶ月間を過ごしており、この一ヶ月の時間が後の撤退で致命的なタイムロスにつながっています。
 逆にと言っては何ですが、若年期のナポレオンはほんの一日たりとも無為に過ごすことはなかったというか、たとえ敵がいなくても部隊を動かし続けて敵軍を翻弄し続けています。こうした戦略は現代でも生きているというか、むしろ「機先」という概念となって非常に重視されています。

 米軍戦闘機のF-16やF-18が開発されるきっかけとなったLWF計画の発案者がまさにこの機先概念を前面に打ち出したパイロットだったらしく、「戦闘機同士の空中戦においてはたとえ無駄な動きだとしても相手より早く仕掛け、相手がこちらの動きに追随、対応しなければならない状況を作るべき」という戦闘法を編み出し、実際にどんな模擬戦でも負けなしだったそうです。この概念は空中戦のみならず戦略レベルの戦争においても重要視されるようになり、現在の戦闘においてスタンダードともいえる概念となっていますが、かつてのナポレオンにはそれがありました。

 将棋などでは相手の出方に応じた動きで戦うという攻略法もありますが、やはり戦闘でもビジネスでも機先を取った方が有利である私には思えます。この機先概念を使わなくなった、というか時間を無為に消費するようになった時点でナポレオンの軍事的才能はかつてと比べ激減しており、現実にロシア遠征より後のワーテルローでも無意味なタイムロスが大きな敗北要因になっています。
 ではナポレオンは何をすればよかったのか。かつての若い頃のように機先を重要視すればよかったのかですが、私の結論としては自らのピークアウトを自覚し、軍事から手を引いて部下に任せるべきだったと考えます。これは自分に対する戒めとしてもよく言い聞かせており、自分の能力のピークアウトは自分自身がしっかり自覚して、もはや自分の能力が及ばなくなったら過去の実績とか経験などかなぐり捨ててでも引退すべきだと戒めています。

2 件のコメント:

片倉(焼くとタイプ) さんのコメント...

天堂大学医学部教授の小林弘幸氏のの研究によれば男性の場合、副交感神経の働きは30歳を過ぎると
大きく低下するそうです。副交感神経の働きが弱まると自律神経が乱れ体調不良の原因になります。
ちなみに女性の場合副交感神経の働きが衰えるのは40歳からです。小林弘幸氏は、女性の方が
平均寿命が長いのは、女性の方が副交感神経が衰えるのが遅いからだという仮説を立てています。

男は30歳を過ぎたらおじさん、女は40過ぎたらおばさんになるという事ですね(名実ともに)

花園祐 さんのコメント...

 単純に勘の冴えで行ったらその年齢がピークでしょうね。この辺は北野武も言っていますが、衰えた勘に対しては経験と知識で補うしかなく、その辺の切り替えができるかがそれ以降の年齢の活躍を左右すると思います。