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2009年12月8日火曜日

北京留学記~その二四、青島のサラリーマン

 また大分日が経ってしまいましたが、北京留学記の続きです。それにしても、年内には終わるかなこれ。
 前回まで私の留学中のクラスメート、そしてルームメイトなど非常に親しかった人間ばかり紹介しましたが、今回はこれまでと違って旅先で一回だけしか会わなかった、年のころは四十前後の青島のサラリーマンとの話をご紹介します。

 その人と会ったのはこの後にも紹介しますが、学校の冬休み中に私が単独で行った南京、上海旅行からの帰りの列車でした。この旅行自体が結構無茶な日程を組んで行った旅行だったために、上海から北京への帰路に付く頃には腹を下すなど体調的には非常に悪い状態でした。ですので本音ではケチりたかったのですが、恐らくそうそう乗る機会も少ないのだから思い切ってこの時に使った寝台列車の中で一番良い席(軟臥)を予約して列車に乗ったところ、相部屋の相手になったのがこの青島(チンタオ)のサラリーマンでした。

 まず最初に口を開いたのは相手の方からで、列車が出発してしばらくしたころに私の不慣れな発音に興味を持ったのかどこからきたのだと話し掛けてきました。そこで私が北京だと答えた所、外国人だろ、どこの国かと聞いているんだと改めて聞き返されてしまいました。そりゃま、そうだろう。
 それで私が日本人だと答えるや、彼が機嫌が急に良くなりました。というのも彼の奥さんは中国人ではあるものの日本語が出来る方らしく、また彼自身の青島の仕事でも日本人と接する機会が多いために日本に対して親近感を持っていたようです。

 そんなかんだで旅の道連れはなんとやら、途中折々で辞書を引きつつ、メモに言いたい事を漢字を書いてもらいつつこのサラリーマンとあれやこれやと話をしたのですが、この時まず最初に話題になったのは青島の話でした。
 私が青島には日本人は多いのかと聞いた所、彼はすぐに「多い」と答え、海路で見るならば日本に近いという地理的条件から日本向けの製品を作る工場が林立しており、そのため会社から派遣される日本人も数多く済んでいるとの事でした。それら日本人会社員は大体二年から三年間中国に赴任すると日本に帰ることが出来、帰国後には出世するという事も教えてくれました。前々から聞いてはいましたが、やはり数年の海外赴任、とくに中国ではそれ自体が出世の条件となっているのはどこも同じのようです。
 そのあと続いて韓国人も青島に多くいるのかどうかと聞いてみるとやはり多いと返ってきて、韓国でも中国に製品工場持つ会社が多いと話してくれました。

 そんな風に話していたところ、やおらむこうから、お前は大学生なのかと聞いてきました。当時学生だった私はすぐにそうだと答えると大学名も続けて聞かれたので、私立の○○大学答えると、日本で私立大学だとここがすごくいい所なんだろうと、漢字でメモに「早稲田」と書いてきました。なんでも、ここがすごいって知り合いの日本人に聞いたそうですらしい。
 いい機会なのでこの時に他に日本の大学で知っている所はとさらに詳しく聞いてみた所、東大と京大、そして早稲田と慶応と挙げてきました。やはり海外に知名度のある日本の大学と来るとこの四つといったところでしょうか。

 と、ここまで話して、少し思い当たる事が出てきたので、今度は私からこんな事を聞いてみました。
「子供はいるんですか?」
「いるよ。今はまだ中学生だ」
 なんでも家族は青島にいるらしく、今回は北京に出張で来ているらしいのですが、子供の話をしたときに少し顔が曇ったように私は感じました。あくまでこれは私の推量ですが、現在中国で大きな問題の一つとして子供の教育費の問題があります。大学進学までを考えたら相当な額が必要となるため、ちょうど日本の大学の話を下ばかりだったので息子のこれからの教育を考える上での苦労を垣間見せたのかもしれません。

 話は戻って先ほどの出張で北京に行くという話ですが、この時私達が乗っていた列車は上海―北京間を結ぶ夜行列車だったのですが、この列車はなんでもつい最近出来たもので、これが出来て非常に便利になったと語っていました。
 この上海―北京間は日本で言うとそれこそ東海道新幹線の大阪―東京間に相当する区間で、それだけにこの区間の特急列車は需要が高いために年々スピードアップが図られているらしいそうです。

 そんな具合でだんだんと仲良くなっていったので、後半にてちょっと思い切った質問をぶつけてみた。
「最近、日中は仲が悪いけど……」
「気にするな。あれは政府がやっている事だ」
 恐らく私以外にも中国人に直接聞いてみたいと思っている方が多い質問でしょうが、この質問に対して彼はなんでもないというような態度で反日感情は持っていないと答えました。

 少し分析的な見方をすると、彼は青島でサラリーマンをやっている人間であり、職業柄、日本人と付き合う事も多い人間です。日本人でもそうですが実業に近い人間ほど中国に対して親近感を持つ傾向が強く、逆に、学術系、教師や大学教授、もしくは実業とは離れている主婦などは中国を胡散臭く思う傾向があるように感じます。この青島のサラリーマンもこの例に当てはまり、政冷経熱の名の通りに日本に対して反感を持っていなかったのかとも見ることが出来ます。
 
 このように長々話をしていたのですが、最終的には不調だった私の体調がダウンして11時くらいにお互いに布団に入る事にしました。その後列車が北京駅に着いて地下鉄に乗るまでは一緒にに行動しましたが、地下鉄の駅で向かう方向が別れるためにそこで別れました。彼は別れる際に、
「さて、仕事だ」
 と、朝も早くからそういい残し、最後はお互いに握手を交わして別れました。サラリーマンは日中双方で、どこも変わらないと感じた瞬間でした。

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