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2009年3月6日金曜日

日本漫画キャラ傑作選~サブキャラ編~

 マンガというメディアはその表現上、やはりストーリーよりもキャラクターの個性や外見、特徴などで面白さなどが決まりやすいものです。かといって何でもかんでも珍しいキャラクターを出せばいいというわけでもなく、今日はちょっとその辺を詰めるという意味も込めて、私の目から見てひときわ目に付く傑作的なキャラクター、それも主役やヒロインといったものではないサブキャラクターの中から今日はいくつか紹介しようと思います。

1、泣き虫サクラ(餓狼伝)
 ひときわ濃いキャラクターが頻出する「餓狼伝」の中でも、特に際立って読者の記憶に強い印象を与えたのがこの「泣き虫サクラ」です。このキャラは子供の頃に母親によって両目を潰されたため視力を失っているのですが、その母親を喜ばせるために激しい肉体トレーニングを積み続け、視力の代わりに聴力と嗅覚のみで相手の立ち位置から動作まで読み取り、漫画中では絵の具の臭いをより分けることで絵まで書いてしまっています。
 なんていうか文章では伝えづらいのですが、圧巻ともいえる漫画中のその風貌はまず前述の通りに眼球が潰されているために眼窩がくぼんでいるだけでなく、二メートルを越す巨大な身長にしなやかな筋肉、そしてなにより恐らく60歳は越えているであろうというしわくちゃの顔でありながら、アメリカの地下プロレスの覇者として君臨しつづけているというのだからとんでもない設定です。
 こうしたビジュアル的な面にとどまらず、対戦相手のグレート巽(どっからどう見ても猪木)に対して試合中に、
「(君には)悲しみもある、怒りもある。でも……陵辱がないでしょっ!」
 と、ことごとく読者の常識を覆すインパクトのあるセリフを連発し、インパクトだけで言うなら日本漫画史上でも一、二を争うキャラだと私は思います。

2、パック(ベルセルク)
 かつてこの「ベルセルク」の作者の三浦建太郎と「北斗の拳」で有名な原哲夫という二人のマンガの原作を作ったことのある武論尊に、「二人ともマッチョな作画で似ている」といわせただけあり、「ベルセルク」の絵は非常に緻密な書き込みで見るからに重厚そうな印象を覚えます。それに加え元々の漫画のストーリーも暗く沈痛な内容なために自然と読んでいる印象は重く暗い……と思いきや、そんな雰囲気を悉く引っくり返しているのがこの妖精キャラの「パック」です。
 真面目なシーンではファンタジー漫画の妖精らしい格好をしているものの、大半のシーンでは元の造形を全く無視した二頭身の通称「クリパック」の格好で、漫画全体の雰囲気を吹き飛ばすかのようなギャグキャラとして活躍しており、詳しくは原作の漫画を読んでもらえばわかりますが、木の枝に栗のイガをつけて「妖刀ざっくり丸」と称したり、「エルフ示現流」と言ってはいつの間にかヨーダの格好をしていたりと、みるたびに思わず笑いがこみ上げてくるキャラです。多分このパックがいなければ面白いのは変わらなかったとは思いますが、話がずっと暗いまんまで読んでて疲れやすい漫画に「ベルセルク」はなっていたと思います。

3、如月さん(エルフェンリート)
 一見かわいらしい絵柄で始まった「エルフェンリート」の第一話にて、とろい口調で歩いてはすぐにずっこけ、それでも「いつかは室長の役に立つ秘書になるんだ」という夢を語る典型的なドジっ子萌えキャラとして登場し、多分読者はこの「如月さん」がこの漫画のヒロインなんじゃないかとみんな最初は誤解したと思います。ですが同じ第一話にて、その研究室で捕獲していた未知の力を操るキャラ(主人公のルーシー)が脱走してこの如月さんが人質にとられるやわずか4ページ後に「ブチッ」っと、いきなり首チョンパされるという強烈な最後を遂げて第一話でいきなり退場してしまいました。
 別にこの如月さんに限るわけじゃないですが、この漫画ではさも重要そうなキャラが出てきたかと思ったら同じ回の中ですぐに殺されては、逆に脇役かと思ったキャラがやけにその後延々と活躍するなど読者の期待の逆を平気で行く漫画でしたが、この如月さんのいきなりの退場には私も思わず「えっ?」と言ってページをめくり返してしまいました。

4、ドクターキリコ(ブラックジャック)
 手塚治虫の最高傑作との呼び声も高い「ブラックジャック」にて、血のにじむような激しい現場の野戦病院で働いた経験から施しようのない患者にはなるべく早く安息をもたらすべきという信条を持ち、安楽死専門の医師としてこの「ドクターキリコ」は颯爽と登場しました。登場回はいくつかあるのですがそのどの回でも「ほかの何者を持っても命の価値に変える事は出来ない」という信条の元、それこそどんな患者でも治療して見せようとするブラックジャックとは激しく対立し合うのですが圧巻なのは初めて登場した回において、全身麻痺で幼い子供らにこれ以上入院費用などの負担をかけられないとして安楽死を望む母親にその処置を施そうとするものの、当初は報酬額が出せないとのことで治療手術を拒否したブラックジャックがドクターキリコの行為をやめさせるため、意地になって無報酬で手術し治療して見せた回です。

 みごと手術を成功させたブラックジャックに対してドクターキリコは、
「人間の生き死にというのは神が決める行為だ。あの患者はいわば死ぬべき運命にあった患者で、その患者を無理やり治療してしまうお前の行為はいわば神へ反逆するようなものだ。だがお前がいくら頑張ったところで、人の運命なんて変わることはないんだぜ」
 と言い、退院直後に治療された母親とその子供らの親子が交通事故で死亡した事実を伝えます。それに対しブラックジャックも、
「たとえこれが運命に逆らう行為だとしても、俺は目の前の患者を生かし続けるために一生このメスを振り続けてやる」
 と言い放つこのシーンは、現代の医療倫理においても重要な意味合いを持つ会話だと思えます。なお今挙げたセリフは内容を伝えるために私が書き起こしたもので、忠実にセリフ文章を抜き出したものではありません。
 基本的に主人公のライバルキャラと言うのは主人公に対するアンチテーゼを持つキャラクターになるのですが、私は今の今までこのドクターキリコほど強烈なアンチテーゼを持ったサブキャラクターは見たことがありません。

 漫画も作品単位でいろいろと評論されることはありますが、今回ちょっと思い立ってやってみたのですが、案外こういう紀伝体のようにキャラクター単位で評論を書くのも面白いかもしれません。好評だったらまた続きを書いてみようかと思います。

2 件のコメント:

サカタ さんのコメント...

 漫画はあまり読まないのですが、ブラックジャックの話は考えさせられましたね。こういう記事も面白いと思います。

 それにしても、エルフェントリートという作品はグロイですねぇ。最近ひぐらしといい、これといいなにかとグロイのが増えてますねぇ。あまり気分のいいものではないですが。。。

花園祐 さんのコメント...

 エルフェンリートは一見すると少女漫画っぽい絵柄の割に、酷描写においては近年の漫画作品の中でも残一、二を争うほどのもので、そのせいかエログロが好きなアメリカでは大ヒットしていて、日本以上に海外での人気が高い作品です。私も最初はちょっと敬遠しがちでしたが、四巻に入ると内容が大化けし、ただ残酷描写だけで売っている作品ではないと見直しました。その影響か、このブログでもよく出てくる同じ作者の「ノノノノ」も現在読み続けています。

 ひぐらしもグロいですが、実はグロテスクな描写については一家言あるので、今度また記事を書いてみます。