この連載も今回が山場です。また続きはありますが、今日の記事が重要度で言えば最も高い箇所です。前回、前々回は割合に政策方針に直接的に関わる内容でしたが、本日取り上げる国家信条はその国の国民、ひいては国家全体の性格に影響を及ぼす内容です。
ではその国家信条とは一体何なのかと言うと、一言で言えばその国や国民ががどんなものに対して価値を見出すのかということです。同じ国にずっと住んでいると案外こういうことに気がつきづらいですが、他国に行ったり外国人と話してみるとやはり端々のこの国家信条による影響と言うか、自分たちと根本的に何かが違うと感じてしまいます。
たとえば日本人を例に取ると、なんだかんだ言って自国の経済力に対して強い自負とともに誇りを持っているように私は思います。今年の統計では中国にGDPが抜かれるとか、一人当たりGDPがどの国より上なのかとか、選挙中に経済成長がなによりも大事だなどと候補者が主張したりと、ほかのことには興味がないのかというくらいに年がら年中経済の話をしているような気がします。ちなみに言っておくと、たとえ全体の経済力が増したところでそれが必ずしも自分に帰ってくるわけではなく、株取引をしているわけでもないのにいちいち株価に一喜一憂するのはよした方がいいと思います。
そういうわけでまた一覧をずらっと並べます。今回はそのモデルに近い国とともにその要素を持つ国がどのような政策方針になるのかも合わせて紹介しております。
1、重商主義国家(金融貿易立国、高度経済成長下の日本とアメリカ)
2、文化主義国家(観光立国、イタリアとフランス)
3、技能主義国家(技術立国、ドイツとイタリア)
4、頭脳主義国家(教育立国、スウェーデンなどの北欧諸国)
5、宗教主義国家(政教一致、イランやバチカン)
6、農業主義国家(食糧立国、アメリカとフランス)
7、平和主義国家(日本)
8、環境主義国家(EU)
9、封建主義国家(江戸時代の日本)
こうして並べてみるとたくさんあって、解説するこっちが嫌になってきます。まず先に断っておくと、例の中にはアメリカやフランスなど複数入っている国がありますが、これらのモデルは確かに単独で持つことも出来ますが実態的には複数の信条を兼ね備えていることが多いです。例えば戦後の日本は重商主義と平和主義の二本柱で、アメリカは今も農業主義と重商主義の合いの子です。
それではまた一つ一つ説明していきますが、まず一番目の重商主義国家についてです。これは多かれ少なかれどの国も持っている信条ですが、やはりその中でも際立っているのは日本とかアメリカでしょう。この辺は「フランスの日々」のSophieさんの記事に詳しいですが、ヨーロッパ人は「お金があっても、それを使う余暇がないと意味ないじゃん」といって労働規制に積極的なのに対して、日本人やアメリカ人は「お金をたくさん稼ぐこと、それ自体に意味があるんだ」と、それこそ自分の時間を削ってでも売上や利益を追求しようとします。極論を言えば、以前ほどでないにしろやっぱり日本人はお金をたくさん稼ぐ人が偉い人なのだと国全体で考えている気がします。
次に二番目の文化主義国家ですが、これは文化や自然風景といったものに対して価値を見出すという信条です。そのためその国内の文化人や芸術家を高く評価する風潮となってそのような人材を育てる一方、自然と他国に対して文化を売る観光立国が政策の中心となっていきます。
これの典型は例にも挙げているイタリアやフランスで、特にイタリアについては私の友人は、「彼らはライフスタイルを世界に売っているんだ」とまで言っております。
そんでもって三番目の技能主義国家ですが、これの典型はドイツ人です。最近私の友人も学生時代にドイツ語を勉強していた甲斐あってドイツ人に被れて来たのか、環境問題は技術の進歩できっと解決できるはずだと主張し出してきました。実際に人伝手に聞くとドイツ人の技術信仰というものは相当なものらしく、機械がなんでもどんな問題でもいつかは解決してくれると多少なりとも信じているそうです。有名な冗談話でも、ナビの指示通りにドイツ人はとんでもない所を車で走るというのもありますが。
この技能主義国家では言うまでもなく技術者、それも理系がステイタスを得ることとなり、この国家モデルの国では工業分野の成長が見込め、政策的にも技術立国となっていくわけです。
そして四番目の頭脳主義国家ですが、これは文化主義と技能主義とかぶる面も少なくないのですが、敢えて独立して分類に加えました。このモデルの代表的国家はスウェーデンを初めとした北欧諸国で、大学の学費を無料にするなど教育を国家の重要方針として掲げるため、実際はどうだか分かりませんが学位の高い人間が社会からは高く評価されているのではないかと思います。少なくとも私の知識で言えるのはスウェーデンの学術アカデミーは昔から高い権威を持っており、ノーベル賞受賞者の選定を行うなどやはり他国以上に学問に強い傾倒があるように思えます。
五番目の宗教主義国家は特殊といえば非常に特殊なモデルですが、言うまでもなく宗教やその指導者の価値を重要視する国家を指します。このモデルの代表的なイランほど政教一致が強くなくともどの国も多少なりは要素としてはこの信条は抱えられており、日本でもいちおうお坊さんはステイタスがあってアメリカでもキリスト教の影響は無視できません。
過程を一気にすっ飛ばしてこのモデルの特徴を述べると、強くて幅広い統合性をもつ信条なので過渡期的な国家や民族が複数混在している国家においてよく見られるモデルではないかと見ております。近代に急成長したある国もそうでしたし。
六番目の農業主義国家についてしいて言えば現物主義というか、食糧を生産を絶対の武器として他国へ輸出をかけ、必然的にその国に食糧を依存しなければならない状態へ追い込んでますます売りつけるというのが政策の重要方針になっていきます。もっともこれら農業主義国家において農家がステイタスを持つかといえばやや疑問ですが、アメリカにおいては牧歌的な生活として一応は夢見られているそうです。
残りの七、八、九番目は補足的に付け加えたので、解説はご勘弁をお願いします。
これらの信条は組み合わせ次第でその国の全体像が見えるだけでなく、国民性の把握などに必ず役立つと思います。その上で現状の国家状態と照らし合わせて国民に対してどの信条を共通に持たせられるかが真に政治家の仕事であって、近年の日本でこれを大きく成功させたのは池田勇人首相の「所得倍増計画」だと考えております。そういう意味で政治家というのはある種、夢を見させる仕事だということになるのですが、同じく夢を見させる職業だと私が考えているのは小説家で、子供の頃にそう考えた私は政治家より小説家たらんと努力しておりました。
4 件のコメント:
紹介ありがとうございます!フランスと日本はよくも悪くもやっぱりだいぶ違うと感じますね。フランスは実は技術者が優遇される国でもあるんですよね。またブログでも紹介しようと思います。
いえいえ、こちらこそいつもそちらの記事を興味深く拝見させてもらっています。
一時期に日本は「技術立国だ!」と音頭を取った時期もありましたが、現状はそれには程遠く、ポストドクターの問題や企業での出世速度などを見ると技術者はむしろ低く見られているように思えます。日本よりはステイタスがあるだろうと思っていましたが、フランスも技術主義的なところがあるとはちょっと意外でした。
この後の記事に書くつもりですが、自分は文系出身なので、技術立国が日本にとっていい選択かもしれないけど出来ることなら文化立国に動いてくれないかなと考えております。
国家モデルとして外国を見ると客観的に見れて解りやすいですね。僕は技能主義立国に日本も入る気がします。 昔から日本刀の切れ味と耐久性は他国の剣を圧倒していたといいます。そういった当時の高い技術力は現在でもいろいろな機械に引き継がれていると思います。
でも、国としては技術力を後押しする政策が少ないのかもしれませんね。国の政策としては平和主義の枠組みにしか入らないのかもしれませんね。
そこら辺がこの話の味噌になるのですが、日本は国民の精神性などでは確かに技術主義的なところがあるのですが、国家の政策はむしろ逆ベクトルに作られている節があります。この方向違いをどっちに正すか、またどの程度一致させるかが大きな戦略だと私は考えております。
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